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自分のやるべきことをヴァンにやらせてしまったタークィン先輩は以来、ヴァンの面倒をよく見てくれたという。だからヴァンは、先輩が若い女性の行方不明に携わっているとは絶対に思えないそうだ。先輩を助けると、意気込んでいる。
だが、生憎私はそんなに簡単に先輩を許せそうにない。幼い子にその母親を殺させるとは何事か!絶対文句言ってやる!
私も覚悟を決めた。そもそもヴァンの母親を殺せなかった先輩が他の人間に手出しできるとは私も信じられない。
待ってなよ、ヴァン、あんたに大人ってものがなんなのか、見せてやるからね。
旅立ちを決意して、女将さんに挨拶に行った。どうしてもヴァンの姉の行方を調べるため、最後に連絡のあった街に行ってみる、突然仕事を辞めて、申し訳ない、と謝った。
女将さんは、
「気持ちはわかるよ。無理に辞めなくても、ちょっと休みを取るってことにしたら?なんなら何か掴めるまで、ヴァンをこっちに置いておくかい?預かってあげるよ?」
と言ってくれた。
ヴァンも姉のことを心配しているので、一緒に行くというと、手がかりがあったら、是非とも知らせてくれとお願いされた。もしこれが大掛かりな事件ならば、近隣の村や街の名士に声をかけて、協力を惜しまないという。
本当にいい人だ。何度もお礼を言って、女将さんに別れを告げると、私はスーツケースに詰めたヴァンと一緒に辻馬車に乗った。
目的地は、口入屋がいるというジョージタウンだ。
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ヴァンの存在がばれやしないかとヒヤヒヤしたが、ようやくジョージタウンに到着した。まずはねぐらを探し、安全にヴァンをスーツケースから取り出した。ヴァンは、エビのように丸まってスーツケースに押し込まれていたので、腰を伸ばしながら文句を言っていた。
ヴァンは、早速口入屋に行きたがったけれど、夜中に訪れたってできることはないし、不審がられるだけだ。翌朝一番に、仕事を紹介してもらうためと偽って、私一人で口入屋に行くことにした。
日の明けきらないうちにヴァンに起こされた。どうやら、止めたのに、口入屋の様子を見に行っていたらしい。
「灯がついてたから、いるよ。」
と、言っていた。平家の一軒家で、どうやら事務所も家も兼用らしい。誰もいないようだったら忍びこむつもりだったらしく、がっかりしていた。コウモリに変身して空を飛べるとか出来ないんだから、そういう危ないことは辞めてほしいもんだ。
嫌がるヴァンをまたスーツケースに寝かせて、(ベッドの下じゃだめなの?と言い張ったが、掃除に来た宿の人の心臓を止める気かい!と言って止めた。)私は口入屋へ出発の準備をした。いよいよ正念場だ。
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私が一番乗りの筈だった。
しかし、口入屋の入り口に立ってドアをノックしようとしたら、中から言い争う声が聞こえた。
「だから!どこで仕事に就いたのか、その場所だけでも教えてください!後は私が探しますから!」
もう一人の声はもごもごしていて聞き取れない。ままよ。そのまま乗り込むことにした。
「ごめんください。口入屋さんでいらっしゃいますか?」