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あれから3ヶ月ばかり。意気込んでた割には、アグネスさんからの連絡はなかった。案外冷たいねぇ、などと考えながら、日々変わらぬ生活を送っている。
ヴァンは、日光アレルギーで、光に当たると全身水ぶくれになるという言い訳を思いついたので、それでなんとか夜行性をごまかしている。
宿の女将さんが、
「道理で色白だと思ったよ。12歳という割には体もちっちゃいしねぇ。病弱だと大変だね。」
と、同情してくれた。確かにヴァンはそこらの(400)12歳より体が一回りもふた回りも小さい。これについては、生まれつき喘息で体が弱かったとヴァンが言っていた。吸血鬼になって喘息の心配はないようだが。
女将さんは、ヴァンの食が細いのも気にしてくれた。子供なんだから、お菓子ぐらいは食べるだろう、と、時々、クッキーやビスケットを持たせてくれた。これは血を増やすために、私がありがたくいただいた。
この人の良い女将さんの周りには、いつも近所の人たちが集まってくる。おまけにこの宿屋は街道筋で、行商人や近隣の村人が気軽に泊まれる値段なので、繁盛している。ヴァンも結構この賑やかさを気に入っているのか、最近は、泊まり客や近所の人たちの間をひらひらと飛び回って、愛想を振りまいている。
ヴァンは、女将さんをはじめとして、皆にいいペット扱いされている。見た目は本当に可愛いし、皆がヴァンとのおしゃべりを楽しんでいるんだから、まあよいか、と、思っていた。
+ + +
ギー、カタン。
小さな音を立てて、ドアが開いた。これで3夜続けて明け方近くにヴァンが外から戻ってきたことになる。私は、ベッドの上で上半身を起こし、ヴァンの動きを見つめる。
足音を忍ばせて部屋に入ってきた積もりだろうが、バッチリ私と目があった。
ヴァンが、
「えへへ・・・」
っと、愛想笑いをしている。
そんなもんじゃあごまかされないよ!
ヴァンは夜目が利く。私のしかめっ面に気がついたのだろう。ベッドの側まで寄ると、端っこに腰掛けて、私の方を上目遣いに見る。そして2、3度目をパチパチした。
私は両手を伸ばして、ヴァンの両頬をそれぞれ掴み、横にビローンと引っ張ってやった。
「私で魅了の練習するんじゃないよ!」
そのままぎゅっと頰を両手で押して、グリグリし、ヴァンをおちょぼ口にしてやった。
「あてて・・・」
ヴァンが呻いている。
「で?何やってたの?日の出も近いんだから、ぐずぐずしてる時間はないよ。正直にお言い!」
ヴァンが時間を気にして、早口になる。
「飲み屋で聞き込み。」
「何の?」
「先輩の。」
「行方を探してたのかい?」
「うん。追われてるんじゃないかと思って。」
「誰に?」
「行方不明の娘たちの親とか。」
「なんで?」
「犯人だって、疑われてるって。」
「誰が言ってたの?」
「宿の行商人さんたち。まだ女の子たちの行方がわからないって。それどころか消息のわからない子が増えてるから、どうしても先輩を捕まえなきゃって。」
ここで、ヴァンが大きなあくびをした。うん、時間切れだ。
「あんたが酒場に行ったって、ろくすっぽ話も聞けないだろう。それどころか追い出されるのが関の山だよ。」
「うん、酒場の中には入れてもらえないから、帰る男の人たちの跡をつけて、話を拾ったりしてる。」
「ったく、まどろっこしいことを。とにかく今はお休み。その辺の噂、聞いといてあげるから。」
私はヴァンを木箱に押し込むと、確実な情報源である女将さんに話を聞きにいくことにした。