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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
吸血王子
41/92

5

仕事が終わった私とアグネスさん、そしてヴァンとで、食堂の隅のテーブルを借りて、情報交換をしている。


アグネスさんが、ヴァンに話しかける。


「プリンス、タークィン様はどこに行ったのか知らない?連絡はないの?」


どうやら、タークィンは、先輩吸血鬼さんの名前らしい。


ヴァンが首を横に振る。


私は、アグネスさんにこそっとお願いする。


「プリンスでなくて、ヴァンって呼んであげてくれます?プリンスじゃあ、王子様だし、厄介なことに巻き込まれないよう、ヴァンってことにしてるんです。」


私が言い終わると、アグネスさんは、不思議そうな顔をする。


「え、でも、プリンスも元は王子でしょう?タークィン様がそう言ってたわ。だからプリンスって呼ぶんだって。」


私は思わず、ヴァンの顔を覗き込む。ヴァンは、


「そんな昔のこと覚えてない!」


と、ふくれっ面で返事をした。


またこの子は話をはぐらかしたわね。まあ、いいわ。


アグネスさんが、ため息を吐く。


「プリ、ヴァンには必ず連絡が行くと思ったんだけど。タークィン様は、自力で血を集められないヴァンを放っておくような方ではないもの。絶対探しに来ると思ってたんだけど。無事なのかしら・・・」


ヴァンと私は目を見合わせた。私はヴァンに「ここは私が話を聞くよ」と、眉を動かして合図した。


「アグネスさん、魅了が解けても、タークィン様のこと慕ってらっしゃるの?そもそも、何があったか覚えているの?」


アグネスさんが顔を赤らめる。


「ちゃんと覚えてるわ。タークィン様がどんなに私たちを優しく、丁寧に扱ってくださったか。」


おお、純情な乙女じゃないですか。


隣のヴァンから声が上がる。


「性的快楽・・・痛たたたっ!」


私はヴァンに最後まで言わさないよう、彼の頰を抓った。


「ヴァンの分もあったから、タークィン様は、いつも10人以上の女性を身近に置いていらっしゃったけれど、皆、幸せでした。時に家庭の都合でどうしても家に戻らなければいけない人もいましたけれど、タークィン様は、快く送りだしてくださったし。私たちは皆、自らの意思でタークィン様と共にいたんです。


タークィン様の元に来たのも、子供を抱えて生活ができなくて、困っていたのを救ってもらったり、 口減らしで売られそうになったところを助けてもらったり。決して魅了だけが理由ではなかったんです。」


そう言われてちょっと戸惑った。


「あら?子持ちでも大丈夫なの?私はてっきり・・・まあ、そうか。私でも大丈夫なんだから。」


日頃から、私の血美味しいのかしらと気になっていたので、思わず聞いてしまった。鮮度とか関係ないのかね。


「処女である必要はないよ。処女って噂は、多分、好きな人がいなければ、魅了の術に引っかかりやすいからなんじゃない?ドロレスは美味しいよ!」


ヴァンが、私の手の届かないところまで、顔を背けて答えをくれた。


その慰め口調はやめてほしいんだけどね。


話が逸れそうになったのを、アグネスさんが一生懸命方向を正している。


「ですから、私たちは皆、タークィン様をお慕いしていましたし、突然の解散にどうしても納得行かなかったんです。もし、新しいところで、改めて女性を集めていらっしゃるのであれば、ぜひ・・・」


アグネスさんの目には涙が浮かんでいる。いやはや、餌になることをこんなに望んでいるとはね。女心とはわからないもんだ。


「じゃあ、タークィン様を探して、ここまでいらっしゃったんですか?ヴァンなら何か手がかりを持っていそうだと?」


ヴァンは知らないよ、と、再度首を振っている。


アグネスさんが、


「いえ、偶然です。私は、タークィン様がいなくなってから、一旦、元いた村に戻ったのですが、村の人達には娼婦でもやっていたんじゃないかと好奇の視線を浴びせられ、家族にも厭われましたので、新しく働ける場所を探しておりました。幸い、村に来た口入屋さんが、女中の口を探してくださいましたので、そちらに向かっているところです。」


どうやら、解放された女性たちも、色々苦労はあるようだ。


「でも、タークィン様のことを諦めた訳ではありません。」


そういって、アグネスさんは、来ている簡素なワンピースの袖をまくりあげた。腕の内側に刺青がある。


真っ赤な字で、Tarquinn (タークィン)と。


そっと袖を戻しならが、アグネスさんが、


「いつかまたタークィン様にお目にかかれる日を夢見て、私たち皆で館を出る前に、入れました。」


うへぁ。本当に魅了の術は解けてるんだろうね?


「自分で血を得られないヴァンのことを、一番気にしていましたし、吸血鬼にしてしまった責任を感じていたタークィン様のことです。落ち着いたら必ずヴァンを一番に探されるでしょう。


私の勤め先の住所をお渡しします。どうか、タークィン様を見つけたら、私にも連絡いただけないでしょうか。私が先に見つけたら、必ずお教えいたしますので。」


すがるように見つめられて、私はアグネスさんから住所を書いた紙を受け取り、今後も連絡を取り合うことを約束した。


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