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うう、腕が痺れてる。


ようやく家まで辿りついたが、男は全く目を覚まさない。モモがそっと彼の顔に自分の顔を近づけた。


「息はまだしてるよ。どうする、これ。」


そう言われてもなあ。


「モモ、治癒魔法とか・・・使えないよね。」


「無理。」


覚悟を決めた。できるだけやってみて、後はこの男の運次第だ。


「火傷だよね。とにかく水をぶっかけて、冷やそう。」


モモと私は、疲れた体に鞭打って、井戸から汲んだ水を、桶でバシャバシャとかけ始めた。熱を下げて、汚れもついでに洗い流そう。


モモに指示を出す。


「こすっちゃだめだよ。皮膚が剥がれるから。」


顔の傷にも思いっきり水をかけたが、やはり男の反応はない。やばい。だが外にやりようがない。


モモと交互に、ただただ水をかけて、火傷の熱を冷ますことに専念した。


小一時間もやっていると、赤らんでいた傷が火ぶくれになった。呼吸もしっかりしてきたような気がする。身体中に付いた泥や汚れも落ちて、この男が、まだ年若い、品の良い顔をしていることが判明した。短く刈り上げた髪は水でおでこに張り付いてはいるけれど、金髪だろう。さっき開いた目は青かったような気がする。平民ではなかなか見ない色だし、おそらく、貴族だろうな。いや、鍛えた体を見ると騎士かな。


「そろそろ家の中に運び込んで、火傷に脂薬を塗ったほうがいいと思うんだけど。家に運び込めるよう持ち上げるの、頑張れる?」


モモが目を細めて、


「着てるもの脱がせれば、結構軽くなるんじゃない?」


と言った。ああ、そうだ。鎖帷子だもんね。


「ねえ、それ、運ぶ前に言って欲しかったな。」


「うん、今思いついた。」


そう言うと、私は濡れて体に張り付いている衣類を脱がせ始める。モモはというと、頭にかぶっていた鎖の帽子を外し、男の体を弄りながら、ズタボロになった鎖帷子を取りはずそうと悪戦苦闘している。


「ボタンない。」


そう言うと、モモは、鎖帷子を少し持ち上げて、細い炎で帷子を焼き切り始めた。まあ、しゃあないか。私は、水に濡れて重そうな革のブーツを脱がそうと、靴紐をほどき出した。濡れてるとなかなか手間だ。


漸く片方を脱がし、もう片方に取り掛かろうとしたところで、声がした。


「触るな!」


顔を上げると、男の手が、モモの手首を掴んでいるのが見える。モモの手は、男の首から下げられているネックレスを持ち上げている。


「まだ屍体ではない。焦りすぎだ。」


あら、どうやらコソ泥と間違えられたらしい。下着姿の娘が裸の男を触っているのに、その発想かい。


モモはネックレスから手を離すと、男の言葉に怒った様子も見せず、


「歩ける?」


と、問いかけた。


「いや。」


「じゃあ、私たちが家まで運ぶから、大人しくしてて。」


「家?」


男はゆっくり頭を動かし、モモが顎で指す方向に目を向ける。右目は閉じたままだが、左目は大丈夫なようだ。


私たちの家を見て、少し驚いたように目を見開いた。


「・・・ああ、ここに戻って来たのか。」


そう呟くと、男はまた目を閉じてしまった。揺すぶっても叩いても何の反応もない。


仕方ない。もう一方の靴も脱がすと、モモと二人で男の脇の下にそれぞれ首を差し入れて、抱え上げる。


「「せーの!」」


下着と靴下姿の男を、両脇から下着姿の女の子と私が支える。そのままズルズルと家に向かって歩き始めた。


なんか私だけが着込みすぎだよねぇ。


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