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この子のことを、ヴァンと呼ぶことにした。ヴァンパイアからだ。
「つまりあんたたち吸血鬼も不老不死ということよね。」
なんだか、ひどく共感を覚えるわ。
「ううん。不老不死じゃないよ。もうすでに死んでる。けれど、死んだ時のまま姿形が変わらないんだ。なぜだか人間だった当時の性格も引きずってるみたいだけど。先輩は、魂がまだ冥府に行けずに現世に残ってるって言ってた。」
つまりは微妙に私とは違うと言いたいのかな?でも人としての何かが完全に欠けているわけじゃないらしい。それなら、先輩にヴァンを押し付けよう!
「ヴァン、先輩はどこへ行ったの?なんなら追いかけて、面倒みてもらうように交渉できないものかね。」
ヴァンは、またもや足をぶらぶらさせている。
「うーん、どこにいったか知らない。もう、この辺りにはいられないからって逃げてったんだもん。」
「何から逃げてるの?どうして?」
手がかりはないかしら。ヴァンは口を尖らせている。
「あのね、近くの村々で、若い女性が結構いなくなったの。行方不明ってやつ?僕たちは何もしてないんだけど、もともと女性を侍らしたり、夜しか行動しなかったり、年取らなかったりで、先輩評判よくなかったしね。周りから疑いの目を向けられて、大急ぎで逃げ出したんだ。すぐに、村の男衆が鍬や鎌持って押しかけてきて、本当、怖かったよ。
女の人たちもみんな後に残されたけど、遠く離れるとダメみたい。すぐに魅了の術も解けちゃって、村の男衆に連れられて、出て行ったよ 。先輩が逃げ出したあと、少しの間、血を分けてくれてたんだけどねぇ。」
ヴァンがため息をついた。
それじゃあ、先輩の線は諦めた方がよいのだろうか。
「他の吸血鬼仲間のところには行けないの?」
うーん、と考えこみながらヴァンが返事をする。
「だいたいどこにいるのか、聞いてるけど、みんないろんなところに散らばっていて、近くにはいないんだよね。活動テリトリーが重ならないようにしないと噂になりやすいし・・・
まあ、今までは血を提供してくれる先輩の家からあまり離れたところに行けなかったんだけど、これからはドロレスと一緒だから、血の心配はないし、遠くまでいけるかな?」
ああ、そうかい!私はあんたの弁当かい!
行った先で、仲間の吸血鬼達の食事になることを想像して、背中がゾゾっとした。
「それに、先輩は、責任があるから、ってしばらく僕の面倒を見てくれたけど、他の吸血鬼は、そんなトラブルのタネ、消してしまえって、言ってたから、見つかったら消されちゃうかも。」
私がヴァンに問う。
「消すって?」
「木の杭で心臓を貫くんだよ。そうすると、灰になって消えちゃう。」
うへぇ。
「吸血鬼同士で、そんなことしてるの?」
「うん。規則を破って、吸血鬼を増やしたりしたら、消されるよ。そうすれば、吸血鬼の絶対数は変わんないもん。」
おお、なかなかシビアだな。道理で噂になるほど、吸血鬼が増えていないわけだ。
となると、吸血鬼仲間を頼る線もだめってことか。うーん、解決方法を見つけるのに時間がかかりそうだ。
とりあえず、ここにいてもなんの解決にもならない。
「ヴァン、疲れたから、とにかく家に一旦帰るわ。一緒にくるんでしょう?」
ヴァンが切り株から飛び降りた。
「うん!」
私も立ち上がって、ヴァンと手を繋ぐ。
「ところで先輩がしばらく面倒見てくれたっていってたけど、しばらくってどのくらいだったの?」
「400年!」
「あら、じゃあ私とそんなに年が変わらないわね。」
私はちょっと嬉しくなった。ヴァンは首を傾げながら、
「僕が吸血鬼になったのは12歳だから、誕生日まで遡ると、ドロレスの方が年上なのかな?」
という。
さっき、自分の方が年上だって言ってたくせに。そんな細かいことにこだわるんじゃないよ!