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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
薬師の娘
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14 エピローグ:ジェレマイアの独白

何故こうなった!


他の囚人達と片足を鎖で繋がれ、私はなぜかライカー島行きへの船への乗り込みを、埠頭で待っている。


5人ほどの囚人達には、私も含めてみな手鎖もされている。海風の冷たさが堪えるが、 それでも隙あらば逃げようと、周辺を密かに探っている。だが、監視員たちは、そんなことはお見通しらしい。


埠頭から少し離れたところに、見通しのよい桟橋があり、そこには囚人の家族らしい奴らが固唾を飲んで私たちを見送っている。


私を見送る人など誰もいない。


何故こうなった!


全ては3年前のアナの死から始まっているような気がする。アイツがこの私にふさわしくもない醜い姿を晒したので、婚約を破棄して、不敬罪で修道院に送り込んだ。その時から・・・


アナが自分の身を儚んで、崖から身を投げたとしても、私の責任ではないはずなのに、ハーツディルは、王宮との関係を絶ってしまった。悲しみのあまり、と、領地に引っ込んでしまったので、国王も止めることもできず、それを全て私のせいにされてしまった。


ハーツディルの根回しのせいか 、容姿が落ちたからといってなぜそれが不敬罪になるのだ、という批判が、いつの間にか、ひそひそと貴族の間で交わされるようになった。


私が、長引く娘の病気のために高級な薬を供給することで、抑えていたはずの騎士団長も、なぜか早々に離れていった。娘は静養先の新しい治療で、すっかり元気になったらしい。あの薬師が生きていたら、もう一度病気にすることなど、簡単だったのに。忌々しいことだ。


一人一人、櫛の歯を挽くように、周りから人がいなくなった。その度に、父である国王のため息が長くなった。だが、私ではない。断じて私ではない。私を王宮から追放し、ここに追いやった毒殺未遂事件は、断じて私のやったことではない!


妹のジェナ王女が食べるはずだったボンボン。それを食した毒味役が血を吐いて死んだという。隣国の婚約者から送られたものだった。疑わしいのは婚約者なのに、その本人が飛んできて、事件が解決するまで、ジェナを隣国でしばらく匿うと宣言し、隣国からは調査団も派遣された。


ジェナを可愛がっている父も、青筋立ててこの事件について怒り、全力をあげて調査した。


ジェナ自身は婚約者を信じて疑わないようだが、私は、婚約者の周りの人間がこの婚約の破棄を狙って毒を送ってきたのではないかと、父に進言した。それが後々私にとって不利益に働いた。


そもそも両国の友好を目指して、両国の肝いりで結ばれた婚約関係、どちらにとってもジェナの殺害にはまったく利害がないと、父は考えていたようだ。


共同調査団が出した結果が、私が犯人というものだった。両国の友好に異議を挟んでいたのは、私だけだと。身に覚えは一切なかった。だが、ボンボンに使われた毒が別邸の地下にあっただけではなく、地下室に薬師を監禁して、毒を作らせていたことを兵士たちが証言したという。薬師が死んで以来、全く使っていなかったのに。


調査の手が広がって、アナやライラの死にまで及んでしまった。裁判では、実行犯どもが次々に証言し、私の有罪を決定付けてしまった。あんな、平民の糞どもの証言など、いかほどの価値があるものか!ライラの自死を説明した牢番など、顔が酷く爛れて醜い姿を晒していた。あんな奴の言うことのどこに信憑性があるというのか!


このところ芳しくない私の評判の後押しもあり、貴族達からはなんの援助も得られず、父は、王位継承権を剥奪するだけではなく、平民に落とした上で、ライカーに送ると申し渡した。


+ + +


「おい、行くぞ。」


ライカー島に渡る船が到着したらしい。監視達が、船に向かって囚人を移動させている。


立ち上がった私たちは、ノロノロと足を進める。


「あなた!」


囚人のうちの誰かに声がかかった。


声をかけられた囚人が、足を止めると、監視員からいきなり鞭が振るわれた。問答無用、容赦なしだ。


痛みに男が蹲る。私以下の囚人の足が止まる。


「歩け!」


その声とともに、私たちは再びノロノロと動き始めた。


船に乗り込むタラップの前に立つ、別の監視員の横を通った時、声が掛かった。


「ずいぶんご苦労なさっているようですね。貴方のような方がライカーに行くのはさぞ辛いことでしょう。あの島は絶対的に女性が足りないし、後ろ盾のない腕力もない貴方のような若く美しい男性の先行きなど火を見るよりも明らかですよ。」


思わず足が止まる。全身が震えて、一歩も前に出ることが出来ない。自分の前の鎖が伸びているのはわかっているが、額に嫌な汗が流れていく。


監視員は冷酷な薄笑いを浮かべながら、私の手に何かをつかませる。恐る恐る覗くと、折りたたんだ、白いハンカチだった。


「このハンカチの内側で顔を拭けば、貴方の美しさは永遠に失われます。顔は爛れて、誰も近寄る人などいないでしょう。ご令嬢達からの最後の情けです。」


そう言ったきり、監視員は再び私の方を振り返りもしなかった。


前の囚人に引っ張られ、後ろに押され、私はようやくタラップを渡りきり、船に乗り込んだ。タラップが引き上げられ、船が陸から離れていく。


「ジェレマイア!」


家族の集団から声がした。


声の主を探す。


頭にかぶっていたローブを下ろした小柄な女性の顔が目に入る。


「アナ・・・」


自分の声なのだろうか。


見覚えのある白い顔が私を睨みつけている。


そんなことがあり得るのだろうか?私は何かの怨念を見ているのだろうか?


アナの横で、彼女の手をしっかり握っている女性が声をあげた。


「ジェレマイア、ハンカチ使わずに、その美貌で島を乗っ取っちゃいなさいよ!」


ライラ?ライラ!いや、ライラだ!


全身から血が下がり、顔がチリチリしてきた。ふらついて、立っていられない。

尻餅をついて、再度アナの方を見るが、船足が早くなったのか、もう、顔がはっきり認識できない。


何かの間違いに違いない・・・夢を、悪夢を見たのだ。


だが、私の手には、しっかりとハンカチが握られていた。


お読みいただき、ありがとうございます。第2章、薬師の娘、終了いたしました。ほんと暗くて重くて申し訳ございません!こうなったら徹底的に!の気分でやっちゃいました・・・ご不快に思われた方、ごめんなさい!

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