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3

火柱の方向に向かって、ひたすら走った。あまり遠くには見えなかったけれど、走ってみると、思いの外南に下がっている。モモの奴、あれだけコカトリスに近づくなといったのに・・・糞のあった方向だ。嫌な予感しかしない。


「モモ!」


息が切れて、かすれた声しか出なかったが、何度かモモの名前を呼んだ。


「こっち!」


以外に元気な声が返ってきて、ほっとする。声のする方に小走りで向かうと、しゃがみこむモモの姿が見えた。


足元には、えっと、人?バラバラになる寸前の鎖帷子に、全身が覆われているけれど、その隙間から太い腕とたくましい足がのぞいている。


おお、久しぶりに見た。男性だ。どうやら火柱は私を呼び出すためにモモが放った合図だったらしい。


「どしたの?」


「うん、倒れてるのをみつけた。助けようかと思ったんだけど、 重くて動かせないよ。ひっくり返すのも出来なかった。どうしよ、これ。」


モモが困惑して私を見上げている。


「うーん、まずはどんな様子か確かめなくっちゃね。そもそも生きてるの?」


「さっきからピクリともしないんだけど。息してるかどうかも不明。」


「じゃあ、そっちの肩の下に手をいれて。私が脇腹をこっちから引っ張るから。いくよ!せーの!」


・・・ビクともしなかった。


モモが、息の上がった私に向かって眉を上げた。


「駄目じゃん」


遠くから、キエーッ、という声がした。コカトリス?


「のんびりしてられないよ。ここまだ彼奴のテリトリーなんじゃない?」


モモが心配そうに囁く。


確かに。ぐずぐずはしていられない。私は近くの大木の適当な枝を指差すと、


「モモ、あの枝と、あの枝、それともう一本、同じような大きさの枝を撃ち落として!」


と、命じた。モモは返事をする間も惜しんで、細くした火炎を放つ。


チーッ、ボトッ。チーッ、ドサッ。


「枝を落として丸太にして。」


ボッ、ボッ、ボッ。


あっという間に直径10センチ、長さ2メートルぐらいの丸太が3本出来上がった。


私は自分の上着を脱いで、それぞれの袖に丸太を通す。上着のボタンをきっちりとめて、同じことをするように、モモにも命じる。


2本の丸太とその間にモモと私の上着が2枚。即席のタンカの出来上がりだ。とはいえ、この男の重さに耐えられるだけのものだろうか。


いささかおぼつかない顔をしてタンカを見ていると、モモが勢いよくドレスを脱ぎ始める。


「ちょっと!」


慌てて止めようとすると、モモは、


「いいじゃん、誰に見られるっていうの。」


と反論した。


ドレスをすっぽり丸太にかぶせると、結構な強度のタンカの出来上がりだ。


タンカを男のすぐ横に置くと、今度は、もう一本の丸太を男の腹の下に差し込むと、近くにあった大き目の石をテコにして、男をひっくり返そうと試みた。


モモは再び彼の肩の下に手を入れている。


「「せーの!」」


「ウッッ!」


丸太が当たって痛かったのか、男が声を上げた。


気にせず、もうそのまま勢いで男をタンカの上にひっくり返す。


背中はほとんど傷がなかったので分からなかったが、表は、どこもかしこも火傷とミミズ腫れだらけだ。おまけに胸には大きな裂傷がある。


顔はといえば、右目の上から頰までざっくり細くて赤い火傷をしている。こりゃコカトリスだな。


男の左目は驚いたように、下着姿のモモに向けられた。だがそれも一瞬のことで、その目はまた静かに閉じられてしまった。


モモと私は同時に声を上げたが、思いは重ならなかったようだ。


「生きてたね。」 「見られたね。」


・・・どうやらモモの下着姿を気にしているのは私だけか・・・


モモと二人でそれぞれの丸太の端を掴むと、うんざりするような長い道のりを、男を乗せたタンカをズルズル引っ張りながら歩き始めた。


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