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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
薬師の娘
29/92

7

起きたら長椅子に寝かせられていた。椅子に縛られたままだと、きっと体が硬くなっていたろう。ありがたや。


体を起こすと、私の様子を見ながら、熱心に、何事かをノートに書きつけていたハロルドさんの顎が落ちた。


「本当だったんですね。」


「はい。」


「死なないのですか。」


「はい。」


「死んでいたのは、約2時間ですね」


「そうなんですか。」


そう言ったきり、ハロルドさんは、自分の思考の中に埋もれてしまった。


邪魔しないように、静かに見ていたが、お腹が減ってきた。この部屋には毒以外の食べ物はないのだろうか。


声をかけるのをためらっていると、部屋のドアをあけて、兵士たちが二人、入ってきた。


「死体をとりに・・・おい!死んでないぞ!」


ハロルドさんが我に返る。


「はい、先ほども申し上げたように、気を失っていただけです。この人は特別にこの毒に対する耐性が非常に強いようです。」


どうやら念のため、兵士たちをごまかしていたらしい。


「殿下にご報告願えますか?この人の血液から耐性となるものを採取し、解毒剤を作りますので、この人を・・・


お名前は?」


私に問いかけているらしい。


「ドロレスです。」


「ドロレスさんには、しばらくの間、ここで、助手として仕事をしてもらいますと。」


兵士の一人が声を荒げた。


「勝手なことを!殿下がお許しになるかどうかわからんぞ!」


ハロルドさんは引き下がらない。


「そのほうが私の実験が捗るとお伝えください。もしダメであれば、別の毒でドロレスさんを殺害しますので、問題ありません。その時はお申し付けくださいと。」


もう一人の兵士は、私がこの会話を平然としているのを見て、気味悪く感じたらしい。そう言われても、どう反応すれば、本当らしく見えるのか見当もつかない。


ハロルドさんがその視線に気がついて、言い訳してくれた。


「どうやら、知恵遅れとは言わないまでも、かなり愚鈍な人らしいですね。反応もないし、私たちが言っていることがうまく理解できないようです。」


あちゃぁ。知恵遅れの振りをしなければなりませんか。


「あのぅ、お腹がすいたんですが。なんか食べるものないですか?」


私が、そう兵士にお願いすると、それをきっかけに、兵士たちは殿下に報告するため、部屋を出ていった。


ハロルドさんは、希望の光を見つけたらしい。弾んだ声で、


「その調子で、何も出来ません、という振りをしてください。その間に、私は仮死脱獄計画を練り、必要な準備をします。まずは、あなたの死亡から生き返りまでの時間を何度か測ります。いいですね?」


と、言った。


結局ご飯の代わりに毒を飲む羽目になった。


+ + +


どうやら殿下は、()にも()にもならない私のことなどどうでも良いようだった。まあ解毒剤ができるのならと、渋りながらもハロルドさんの助手になることが許された。


とはいえ、私に手伝えることなどないので、実際は、実験台になっただけだが。


「良心の呵責なしに毒を飲ませられるから、本当にありがたい。」


と、ハロルドさんには言われた。


ハロルドさんによると、私にとっての仮死と死亡の違いは、時間にあるそうで、死亡している場合は、数時間で起きる、仮死の場合は、それよりもっと長い時間をかけて目覚めるのだそうだ。


死んでる私にはまったく違いがわからないのだが。


死なない以外、普通の人間と変わらない私が起きることができるのなら、他の人もこの仮死の薬で、うまく蘇生されるはず、とのことだった。


「間違っていたらどうするんですか?」


と、聞いたら、


「間違っていたら、死ぬだけでしょう。今の状態は死よりも酷いんです。死ねるのなら本望ですよ。」


と、言われた。


その考え方には私も賛成できるものがある。


「48時間仮死状態になれる薬を目指します!」


ハロルドさんに、そう宣言された。


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