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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
薬師の娘
28/92

6

当時私は、王宮で、毒味の仕事についていた。いいお金になるし、死なない私には楽な仕事だったからだ。


王宮では結構な割合で、毒入りの食事が横行しており、毒味の仕事につきたがる人もいなければ、平気で食事を口に入れる度胸のある人がいない、と、私を採用した役人がぼやいていた。


その点私は、パクパク、サクサク毒味をしてくれるので、貴重な人材だったらしい。


毒を食せば、一応死ぬから、その食事は他の人は手をつけない。ちゃんと警報機の役も果たせるし。まあ私には打って付けの仕事だった。


実際、毒入りの食事で、二度ほど倒れた。一度目は何日も高熱で苦しんだあと回復したが、二度目は私の意識が完全に真っ暗になったので、確実に死んだのだろうと思う。数時間後に生き返って、起き上がったら、側にいた役人が腰を抜かしてしまった。


役人には、気を失っただけ、と、言い訳をしたので、どうにかその場は切り抜けたけれど、冷や汗が出た。


そろそろ潮時だな、と、仕事を辞める準備をしていたら、ハロルドさんとジェレマイア殿下に捕まったのだ。


お城から退出させてもらったところをいきなり、数人の兵士たちに囲まれ、捕獲された。


何事かと驚いていると、殿下の別邸地下に作られた実験室に引っ張り込まれて、私は後ろ手に縛られたまま、ハロルドさんに尋問を受ける羽目となった。


「あの毒で生き残るなんて、あり得ない!」


と、唾を飛ばしながら揺さぶられた。


「と言われましても、生き残りましたので、なんとも申し上げようが・・・」


結構申し訳ない気分になった。


ハロルドさんの興奮は冷めやらない。


「致死量の5倍の毒を盛ったのだぞ!なぜ生きている!」


とにかく慎ましく、しおらしくすることにした。


「なぜなのか、私には見当もつきません。何が起きたのか覚えてませんので。周りの人も皆、死んだと思ってたそうですよ。多分、仮死状態かなんかじゃなかったんですかね。」


後に、ハロルドさんは、この時の私の発言にアイディアを得たといっていたけれど。


ハロルドさんの尋問の様子を、退屈そうに見学していたジェレマイア殿下が、


「毒に対する耐性があるんじゃないか?致死量10倍で試してみろ」


と、言い放った。


ハロルドさんは、


「殿下、この人を殺す理由はございません。せっかく生き残ったのになんの意味もなく・・・」


ここまで言ったところで、いきなり殿下が手を振り上げた。


バッシーン!


ハロルドさんの眼鏡が吹っ飛び、頰が赤くなっている。


殿下は、背筋の凍る冷たい声で


「平民の一人や二人の命、いちいち気にするな。お前はお前のやるべきことをやれ。失敗や言い訳は私を不愉快にさせるだけだ。私が不愉快になったらどうなるか、わかっているだろうが。


10倍だ。」


と、言い捨てて、殿下は部屋を出ていった。


ハロルドさんは、くずおれるように、椅子に座り込んだ。


「・・・ライラ。」


ハロルドさんの呟きが聞こえた。そのままどれぐらい時間がたったろう。ようやく立ち上がった彼は、ゆっくり薬の調合を始めたのだった。


その動作があまりにノロノロしているので、ハロルドさんのためらいがひしと感じられた。


震える手で、出来上がった毒を持ち、私のところに持ってくる。


「あーん」


口を開けてまっていると、ハロルドさんに驚愕された。おそらく、口をこじ開けて飲ませようとしていたんだろうな。いえ、飲むのはいいんですけどね。


眼鏡越しの目がまん丸くなっている。


「これは毒だぞ?」


口を閉じて答える。


「はい。わかっております。でも死にませんよ。死んだように見えるかもしれませんが生き返ります。私は精霊王の呪いを受けて、不老不死なんです。


一回試してみませんか?」


ハロルドさんはまだ理解できていない。


「不老不死?10倍だぞ?」


小首をかしげている。


「いや、不老不死に何倍かは関係ありませんから。とにかく試してみましょう?」


促すと、あっけにとられたハロルドさんが、毒の瓶を私の口に持ってきた。


ゴックン。


無味無臭だ。飲みやすいな。


次の瞬間、プツっと意識が途切れ、真っ暗になった。



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