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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
薬師の娘
26/92

4

翌々朝、朝霧の中、私は牢のある建物の外で荷馬車と共に立ちずさんでいた。


通用口が、ギィ、という音と共にゆっくり開き、中から昨日の牢番と、下男らしい男達が出てきた。男達は、三人がかりで長細い麻袋を抱えたまま、所載なさげに出口のところで指示を待っている。


棺桶にさえ入れてもらえないのか。


牢番が私に近づいた。


「ライラが死んだ連絡を受けたんだな?」


私は黙って頷く。


「死体を引き渡す。」


そう言って、牢番は荷馬車の中を覗き込んだ。農家から無理を言って借りてきたものなので、ワラくずやらボロがあちこちに散乱している。その中に、大きな木製の棺桶があった。


牢番が振り向いて私に聞く。


「なんだこれは?」


棺桶のことだろう。私は小さな声で、


「ライラ様のお父様のご遺体です。皆一緒にと思いまして。お二人ともお母様のお墓の側に埋葬する予定でございます。」


牢番が口を歪める。


「ああ、父親も自害したんだってな。王家の覚えがめでたいからといって、いい気になるからだ。中を確かめるぞ。」


そう言うと、牢番は荷馬車に飛び乗り、棺桶の蓋を剥がすように開けた。簡単に釘を打ち付けて、箱状にしただけの棺桶の中には、中年の男が横たわっている。苦悩のシワは、真っ白な顔の眉間に、死後もくっきりと現れている。手は、覚悟を表すように、胸の前で組み合わせれている。


牢番は、その顔にちょっと手をふれ、冷え冷えとした死を確かめたようだ。


「ふん。この棺桶にはまだ、余裕があるようだな。」


そう言うと、牢番は男達に向かって叫んだ。


「おい、お前ら、その死体をこの棺桶に突っ込んでおけ!」


いや、ちょっと待ってよ。


「後ほど別の棺桶を用意いたしますので、ご勘弁ください。二人も入れてしまったら、蓋が閉まらなくなってしまうかもしれません。」


慌てて止めようとしたが、まったく聞き入れてはくれなかった。


「親子一緒に埋めるんだろ?なんの差し支えがある。蓋なんぞ釘をうちゃあ大丈夫だ。そのうち骨になって、十分余裕も出てくるさ。


おい、こっちだ!」


そういうと、ライラさんの入った麻袋を、下男たちに命じて、棺桶に投げ入れさせた。


仕方がないか、ここで逆らって時間を取られるのも厄介だ。


「ライラ様のお顔だけでも拝見させていただけないでしょうか?」


そう、お願いすると、牢番が頷いたので、下男の一人が麻袋の口の紐を解いてくれた。


私はそっと、袋を捲った。ピンクの髪がのぞいたかと思うと、血の気を失った真っ白な顔が出てきた。苦しんだ様子はなかったが、口から一筋の乾ききった筋が走っていた。誰も顔を拭いてもくれなかったんだろう。


しかしこれだと、父親と娘が逆方向を向いていることになるな。


「もういいだろう!早く行け!」


牢番の急かす声に押されて、下男が棺桶の蓋を閉めた。男達は、用を済ますと、皆通用口に向かった。


いつまでもここにいない方が、こちらとしてもありがたい。私は残った牢番に、深々と頭を下げた。


「色々お情けを賜りまして、誠にありがとうございました。これは、ライラ様のご遺体をおさげ払いいただいた、ほんの心ばかりのお礼でございます。」


そう言うと、私は、金貨で膨らんだ袋を牢番に差し出した。牢番はためらうことなくそれを私の手からもぎ取り、懐に入れると、建物に戻っていく。


私は、その後ろ姿に再度お辞儀をすると、荷馬車に乗って、馬を操り始めた。


牢が遠ざかる。目的地は、薬師の妻の眠る村の墓場だ。王都から半日ばかり離れたところにある。


2時間ばかり走っていると、完全に日が周り、いい塩梅にポカポカとした陽気になった。村への道は、行き交う人もまばらで、のんびりした風景が続いている。


いきなり後ろから叫び声がした。


「ギャァ!ちょっと!この足何!」


あら、ライラさんの方が先に目覚めたわね。やっぱり若いと回復が早いのかしら。


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