表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/92

18

「逃げるぞ。」


短く話すモーリスさんの後ろで、モモが荷造りをしているのが見えた。


今時の若い者には付いていけない。一体何が起きたんだ?


「えーと、何から逃げるんですか?」


寝起きで頭がはっきりしない。


「明日には父が兵士を連れてやってくる。その前に逃げるぞ。」


「兵士?コカトリスはもう倒したでしょう。なんで今更?」


「いや、コカトリスを征伐しにくるんじゃない。母を捕まえにくるんだ。」


より一層わからなくなった。母?魔女先生?


「すみませんが、順を追って説明いただけませんでしょうか?」


モーリスさんは、焦りながらも真剣に私を見つめた。


「国王にコカトリスを倒したことを報告にいったんだ。国王は殊の外お喜びで、ずいぶん褒められた。父を呼んで、後継は確定した、と、宣言されたのだ。


俺はけったくそ悪いんで、父に顔を見せずに直接王宮へいってたから、コカトリス征伐に出発して以来、父は初めて俺を見たんだ。俺の怪我とそれが治っているのを見て、誰かが俺を助けてくれたってことに感付いたんだろうな。それが母だと思っているらしい。


だから俺が跡取りになることをなんとしても止めるために、母を捕まえにくる。今度は王家からも証人として宰相補佐を呼んで、俺に恥をかかそうとしているって、俺と親しい王太子が耳打ちしてくれたんだ。『お前の父は、お前の目の前で母を捕縛することによって、お前の名誉を地に落とすつもりだぞ。』とね。


まあ、俺の名誉などどうでもよい。だがモモとドロレス殿が巻き込まれるのは言語道断だ。下手をすると魔女の一味として処刑されるかもしれんからな。逃げるぞ。用意をしてくれ。」


ベッドに座って、ちょこちょこ動き回るモモとモーリスさんをぼんやり眺めている。ようやく頭が回り始めた。


「逃避行ですか。」


「ああ、そうだ。」


「これから先、一生、モモとモーリス様は、逃げ回らなくちゃならないんですか。」


「ドロレスもね!」


モモが合いの手を入れる。


「いや、父が死ぬか、弟が正式に跡を継げば落ち着くだろう。それまでの間だ。」


そりゃあまた、いつになるかもわからないのに。気の長いことで。


「そんな生活をモモにおくらせるつもりですか。」


「平気だよ!」


モモが顔も上げず、本をまとめながら返事をする。そんなことはさせない。


「お母様がいらっしゃらないのに、私たちに危害を加えるでしょうか?」


「母がいなくとも、母のせいにするだろう。貴方達は母の指図で動き、ハイランドに害をなしたとな。父のことだ、その証言を得るまで拷問することも厭わないだろう。


何より、私とモモが一緒になる未来がなくなる・・・逃避行であろうとなかろうと、俺はモモと一緒のこれからを選ぶよ。」


「私も!」


モモが力を込める。


そうか。では私も覚悟を決めるか。


「私は残りますよ。」


モモとモーリスさんが驚きのあまり手を止める。


「お父様の軍がここに駆けつけたとき、もぬけの殻だったらどうなるか、わかりますよね。これだけ生活の跡が残ってるんですから。誰もいなかった、ってことにはなりませんよ。『やはり魔女がいたんだ。逃げたな。』って結論になります。それでもって、誰が一番に疑われると思います?モーリス様でしょう?『モーリスと母親は一緒に逃げたんだ、有罪だ。』もしくは、『モーリス、お前母親を逃したな』ってことになるのは火を見るよりも明らかですよ。」


モーリスさんの返事はない。


「私が残って、『私が魔女よ。コカトリスを作ったのは私よ。』って言えば、いいんじゃないですか?ついでに、お父様には、『あんたが命じたんじゃない』とでも言っておきますよ。」


二人ともポカンとしている。


モーリスさんが我に返った。


「そ、そうなのか?そうすればうまく行くのか?モモには危害が加えられないのだな?」


私はため息とともに、


「モモのコカトリス征伐大作戦より、はるかに良い案だと思いますけどね。私は処刑されても死なないし。あ、でもいいタイミングで、モーリスさんが手を下してくださると助かるんですけど。火あぶりの刑とか、死ぬまで時間がかかるし、きっと生き返るのも大変でしょうから。」


モーリスさんが納得したような顔を見せた瞬間、モモが叫んだ。


「嫌だ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ