17
目を覚ました時は、ベッドの上、おなじみの家の中だった。
あれ?モモがモーリスさんの腕の中にいる?
モーリスさんの手は、しっかりモモの背中に回っている。俯いたモーリスさんの顔が仰ぎ見るモモの顔と重なっている。
チュッ
「ン・・・ハァ・・・」
お前たち、私が死んでる間に何してるんだい!
飛び起きた。
気配に気が着いてモモが振り返る。だが、モーリスさんの腕の中から出てくる気は無いようだ。
「起きた?」
モーリスさんときたら、モモの首筋に頭を埋めてる。恥じらいってものを持ってほしいんだが。
「・・・なかなか刺激的な目覚まし、ありがとうございます。あれからどうなったんです?」
顔面いっぱい笑顔を浮かべたモーリスさんが、顔を上げた。
「モモに結婚を申し込んだ。受けてくれたぞ。」
そんなことを聞いているんじゃなーい!
「おめでとうございます。ですが、コカトリスはどうなったんですか?」
ああ、と言う顔で、モーリスさんが返事をする。
「ドロレス殿を踏んだ後、倒れて死んだ。腹を裂いて魔石を取り出して、あとはモモが焼き捨てたぞ。」
テーブルの上には、両手に余る大きさの、限りなく黒に近い紫の魔石がちょこんと乗っていた。
モーリスさんが嬉しそうに報告する。
「この魔石を国王に証拠として提出して、ハイランドの領主の資格があることを証明してくる。まあ、別に領主にならなくてもいいんだ。騎士として独立してもいい。ちゃんと結婚して家を持てればモモも俺もなんでも構わんのだ。とにかく善は急げだ。明日にでも王都に向けて出発するぞ。」
モモが貴族ねぇ。いささか手遅れとはいえ、どうにかしないとまずい。
+ + +
翌日早朝、モーリスさんが何度も後ろを振り返りながら、王都へ旅立った。モモと二人で見送った後、さんざ働かせられて、何度も死んだお返しに、ちょっとモモをからかうことにした。
「一番最初に会った男性に決めちゃうの?もうちょっと色々見たほうがよくない?」
モモが不機嫌になった。可愛い。
「なんでよ。色々見たって、良いものは良い。もう決めちゃった。」
そうかい。
「でもねぇ、相手は辺境伯になろうかって人だよ?釣り合いとれないって、皆に反対されて戻ってこないってこともちゃんと考えないとね。」
モモは全く心配していないようだ。
「大丈夫戻ってくるよ。」
モモは首から下げている指輪を私に見せた。
「魔女先生の指輪。モーリスから預かった。」
ああ、モーリスさんが首から下げてたやつね。まあ、私もモーリスさんが戻ってこないとは本気で思っていないんだけど。
「だとしたら、未来の辺境伯夫人だね。今日から話し方の練習!それと、そのつんつるてんの服もどうにかしようね。」
モモが私を睨む。
「モーリスは、今のままでいいって言ってくれたよ。」
「いつそんな話したの?」
「ドロレスが起き上がるまで時間つぶしにいろんな話した。」
あんたらほんと私が死んでる間、何してたのよ。
「そのまんまってことはないでしょう?現にあんた前髪のピンを外して、髪の毛を丁寧にくしけずってるじゃないか。その調子でがんばろうね?」
嫁入り前の娘には色々やることがある。二人でバタバタしていたら、あっと言うまに時間が経った。
+ + +
モーリスさんは、ちゃんと戻ってきた。それも夜中に。揺さぶられて目を開けると、目の前にモーリスさんがいたのだ。だが最初に発せられた言葉は、
「逃げるぞ。」
だった。