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モーリスさんの答え合わせが始まる。


「まず、この家だ。母の力では到底立てられるものじゃない。揃えてある道具や家具、書籍、ハイランドが用意したのでなければ理屈が通らない。モモの着ている服だって、もともとは母のものだろう?ということは、ここは母が住むために父が用意したってことだよな。母を追い出すだけなら、こんな家を用意する必要はなかったんだ。


父がなぜそんなことをしたか。秘密裏に母に作業をさせるためというのが一番理屈に合っている。


俺も最初は母とここに来ていた。それは確かだ。幼くてよくは覚えていないが、この家には見覚えがある。母が泣きながら俺を抱きしめているのを、ジョッシュが説得して俺をこの家から連れ出したことも、ぼんやりだが覚えてるんだ。」


私はため息をついた。


「ここは幼い子供が住めるような場所じゃないですよ。今じゃコカトリスに大分食われちゃいましたけど、当時魔物がうようよしてましたからね。家には凶暴な蛇や乱暴な鶏がいたんだろうし、不仲でも、父親の元の方が安全だと思ったんでしょうね。」


モモが引き取る。


「モーリスのお父さんにとっては、いい人質だったんじゃないの。モーリスに会いたかったらサッサと魔物の軍団作れ!ってことだよね。」


バッサリ。


苦笑いのモーリスさんが続ける。


「まあ、そうだな。以前父に尋ねた時には、母は魔術に執着するあまり、家庭も子供も邪魔になって出て行ったと言われたのだがな。どうも覚えていることと話が合わないなとは思っていたんだ。


で、試行錯誤の上、母はコカトリスを作ることに成功した、と。だが、コカトリスを操ることには失敗したんだろうな。彼奴は人間が使いこなせるような物じゃない。多分、ここは俺の推測だが、ジョシュアはコカトリスにやられたんじゃないかな。日記によると、ジョシュアがいなくなった時期とコカトリスが暴れ出した時期が一致する。ジョシュアがいなくなって、父も母を切り捨てて、魔物軍団の実験を投げ出したんだろう。」


ジョシュアさんがいなくなって、程なく魔女先生亡くなったんだろうな。ここで貴族の奥方が一人で長く生きていけるとは思えない。


私は疑問を口にした。


「そもそもなんで魔物軍団なんて必要なんです?なんの為なんですか?」


魔物を操るなんて、普通の人間の考えることじゃない。


モーリスさんが、長い話を語り始めた。


「ハイランド家は、この辺り一帯を治める領主なんだ。いわゆる辺境伯ってやつで、結構な財力と軍備を持っている。それこそ王家と対立できるぐらいのね。父は野心家だ。そうなると父の夢がどこに向かっているかは傍目にも明らかだ。」


「ええ!この国を乗っ取りたいんですか?!そりゃまた・・・」


「王家はそのように考えてるよ。ずいぶん父のことを警戒していてね。今回のコカトリスの征伐の王命の発端もそこにあるんだ。


弟や継母がハイランド家に来て以来、俺は無用の長物だった。こんな家を継ぎたくもなかったから、さっさと家を飛び出して王都で騎士になる訓練を積み、今じゃ近衛も務めている。最初は不審がられたが、王家とも一応交流があるんだ。王家のメンバーを助けたこともあるしな。だから、父が弟をハイランドの世継ぎにと申請した時、王家が待ったをかけたんだ。ちゃんとした功績のある長男を差し置いて次男を後継にする理由がない、よって、ハイランド辺境伯の爵位は俺に継がせろ、とな。


まあ、王家もハイランドの力を削ぎたいから、騎士上がりの単純な俺の方が扱いやすいんだろう。おまけに父べったりの弟もあまり快く思ってないからな。


王家が俺を推しているから、父が、『長男には拭いきれない罪があります、こいつの母親は魔女であり、世紀の化け物、コカトリスを作って、ハイランドの領地に多大な迷惑をかけ続けています』と、次男を世継ぎにする正当性を申し立てたんだ。


王家もコカトリスの話は寝耳に水だったらしくてな。なぜ今まで報告がなかったのか、と、さんざ文句を言った上で、俺に、名誉を挽回するためにも、コカトリスを倒してこい、という命令を出したんだ。」


モモが耐えかねて口を挟む。


「一人で?モーリスは子供だったんだからそんなの酷いじゃん。それより奥さんのやってたことなんだから旦那さんだったお父さんにお咎めが行くべきじゃない?」


「王家も父には疑いを抱いているだろうな。だが、現時点では如何ともしようが無い。父は母だけの罪だと主張してるし、反論する根拠がない。だから王家は、コカトリス問題は、ハイランド家がやったことだから、ハイランド家が償えと命じたんだ。そこを、父が、お前の母のやったこと、お前一人で行ってこいに変えたのさ。」


モモが呆れる。


「お父さんの言うこと、鵜呑みにして、一人で乗り込んできたんだ。」


モーリスさんが頭をかいた。


「まあ、さんざ母の悪口聞かされて育ってきたしな。領民が苦しんでると言われたら、じゃあ、一つやっつけるか、って気になったんだ。結構いいとこ行ったんだぞ。あの硬い鱗に剣が弾かれなきゃな。おまけに聞いていた話より、ずいぶんでかかったんだ。」


ですよね。私が口を添える。


「はい。私が森に来た当時はまだ人よりちょっと大きいぐらいでしたが、森に住むほかの魔物を食って魔力を取り込んでいるんでしょう、今じゃあずいぶんな大きさに育ちましたよ。ほっとけばもっと大きくなるでしょうね。」


それもまた、この森を離れることを考え始めた理由の一つだ。


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