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翌日、モーリスさんはベッドから出てこようとはしなかった。ぼんやり虚ろな目で空を見ている。モモには、モーリスさんに時間をあげなさい、考え事の邪魔を絶対しないように、と言いつけて、私は食料の調達に出かけた。季節のいいうちに収穫しておかないと寒くなると食料不足になるかもしれない。体力が回復したらモーリスさんは出て行くだろうからその分確保する必要はないだろうけど、と、考えつつ、背負いかご一杯にパンの実を採って、夕方家に戻った。


家の外から、声がするなぁと思いつつ中に入ると、モモがベッドで寝ているモーリスさんの隣に足を投げ出して座り、魔女先生の日記を読み聞かせている。


私がジロッと睨むと、モモは、


「最初から読んでくれって頼まれたんだもん。」


と言い訳をした。


私はモーリスさんに向かって、


「モモは人付き合いをしたことがないんで、ちょっと距離感がアレですけど、モーリス様、そこのところはあなた様がよくお考えいただけますよね?」


と文句をいった。赤子の手をひねるようなことするんじゃないよ!という警告はしておかないと。まあ、まだ体は本調子じゃないし、モモだって自分の身を守れる(魔力)は十分あるけれど。


モーリスさんはいかにも心外と言った風に私をにらみ返した。


あら、ちょっと元気が出てきたようね。


+ + +


次の日も、その次の日もモモの朗読は続いた。4周目になってくるとさすがに耐えかねて、私が音を上げた。


「モモ!朗読はもういいんじゃない?モーリス様もだいぶ調子がよくなってらっしゃったんでしょう?ご自分で日記読めるんじゃないですか?」


と、言ってしまった。モーリスさんが声を上げて笑った。


「いや、すまん、すまん。母のことがあって、非難されることはあっても、誰かに『愛おしい』とか『会いたい』とか言われたことがなかったもんでな。母の言葉でも、誰かの口から出てくると嬉しいもんだな。ついついモモに読んでほしくなるんだ。」


そうか、魔女先生は母に昇格したか。


モモが、


「じゃあ、モーリスのお父さんはモーリスに優しい言葉かけてくれなかったんだ。」


と確認した。


「家族の誰にもな。使用人も同じようなもんだ。ジョシュアだけは違ったが。」


モモが再び尋ねる。


「家族って?」


「父と、継母。弟と妹がいる。」


へーぇ、と相槌を打っていたら、モーリスさんが続けた。


「弟は私と同い年だ・・・全く、お察しだよな。」


モモは面食らっているが、私は、モーリスさんの父親と継母が魔女先生との婚姻期間中にすでに関係を持っていたことをたちどころに理解した。


私が、


「ということは、日記の内容を納得された、ということでよろしいのでしょうか?」


と、確認する。モーリスさんは、


「ああ。俺が今まで不思議に思ってたこと、体験したことと照らし合わせると、全てが繋がるんだ。」


と、静かに言った。


モモが元気よく叫ぶ。


「じゃあ、答え合わせしよう!」


やれやれ、毎日朗読してたのに、元気なことだ。


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