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09.荷車と出発

 

 次の日、朝7時頃。


 待ち合わせの場所からはたくさんの馬車が見えた。馬車と言っても、引っ張ってる動物はいろいろ。馬っぽいのの方が少ない。

 これ、何て呼べばいいんだろ。


『これは荷車です』


 荷車! その言い方があったのか! でもそれだとリアカーみたいなイメージしない?


『それは『人引き荷車』です』


 え? あれは?

 ちょっと遠めに見える場所に、大型の動物がいて、大きな荷台が繋がれている。そこに人が並んで乗り込んでいく。


『荷車です。正確には『相乗り車』ですね』


 人をのせて運ぶものも『荷車』と呼ぶのは違和感。

 まぁ、引っ張ってる大きなトカゲさんに違和感が薄い方がおかしいんだろうけれども。異世界補正? 


 行き交う荷車を観察していると、深緑色の髪をした男性が大きく手を振った。


「おはよう! こっちだよ」



 ここは集積所、もしくは集荷場のような所だ。

 様々な荷物が行き交い、それぞれの荷車に乗せたり降ろしたりしている。


 私は今日からしばらく、ロニーさんのお手伝いをしながら周辺の町を回ることになった。

 私の「いろんな場所を見てみたい」という発言を尊重したという形だが、その時点ですでに本決まりだったと思う。


 そのあとの私のステータス表を見せたときの反応はすごかったな。二人してだいぶ長い間固まったあと、何か質問しようとして言葉がうまく出ない様子だったり。

 ステータス表は見せなくてもいいと所長さんは言ってくれてたんだけど、その様子を思い出して厳重さの理由を思い知るロニーさんだったり。

 正直に「祝福」の文字を凝視するラナさんだったり。



 そんなことを思い出しながら、ロニーさんの所へ駆け寄ると、ラナさんともう一人の姿が見えた。


 あれ? あの人……。


「こっちは、厩番兼馭者のオラヴィだ」


 そう言われて軽く頭を下げた、白銀髪と藍色の瞳の彼。その頭にはふわふわの耳がついていた。

 獣人、初めて見た! ファンタジー! 


「荷物持ちのモモカです! よろしくお願いします!」


 礼をすると、やっぱりちょっとビックリされてから、微笑まれた。カッコいい!  

 これまで礼をした人だいたいみんなそんな反応なんだけど、可笑しいのかな?


「獣人にもその丁寧な対応なのね。まぁ、侮蔑がなくて良かったわ」


 ラナさんが苦笑しながら言った。


「あの、獣人のひとに、初めて会いました」


 ウキウキしながらラナさんに言うと、穏やかな笑みに変えてフワッと頭を撫でてくれる。わわわ。


「ごめんなさい、いやだったかしら」

「いえ、嬉しいです」


 前世から撫でられるのは嫌いではなかった。

 15歳の身寄りのない少女に生まれ変わったせいか、余計に心地よい。

 しかも、こんな美人に。


 にこにこと二人でほのぼのしていると、ロニーさんから横やりが入った。


「ほのぼのするのはいいけど、まずは荷物を頼むよ。移動が遅れると荷車が混んで動けなくなる」


 そうでした。

 ロニーさんのとなりで荷物を確認しながら、スキルの収納箱に入れていく。


『ロニーから預かった荷物を、カテゴリー分けします』


 それをソフィアが中で整頓してくれる。


 全部入れると、ロニーさんは乾いた笑い声をあげた。


「容量があるとは聞いてたけど、とんでもないな収納箱(中)」

「あと、この箱が数箱ぶんでしょうか。私の荷物もあるので、これぐらいの量までが限界だと思っていただければ」


 見本にちょうどよさそうな箱をソフィアに出してもらい、ロニーさんに説明する。

 もちろん本当は無限収納だからまだまだ入るんだけど、(中)の振りをしておかないと。


 ロニーさんはそうか、と言って辺りを見回した。


「とりあえずまずはここから移動しよう。適当な場所を見繕って、外に出していていい荷物を荷車に移そう」


 それを聞いたオラヴィさんが、こくんと首肯いて、荷車を引っ張る獣の所に行く。引っ張ってくれるのは、大きな犬っぽい子のようだ。後で撫でさせてもらえないかな。もふもふ。


「モモカちゃん、乗って」


 荷車の荷台に足をかけて、ラナさんが手を差し出す。その手を取って、私は荷台に入った。


「よし、出してくれ」


 操縦席からロニーさんの声がする。オラヴィさんとロニーさんはそこに並んで進むよう。


 すぐにガタガタと車は動きだし、街の門から出立した。




 ― * ― * ― * ― 




 しばらく進んだところで荷車を停めると、荷物の一覧を見ながらロニーさんが出してほしい物を言って、それをソフィアが選んで渡してくれる。


「すごいな、一つも間違えない」


 真剣な眼で荷物をチェックしていたロニーさんが、口の端を上げて呟く。

 私がやってるんじゃないんです、とは言えない。


『私はモモカのスキルですが?』


 ソフィアを私自身だとは思えないよ。


『……』


 ソフィアから残念そうな思考が伝わってくる。もうこの時点で完全に別人(別人格)だと思うんだけど。


 そんなやり取りをしている間に、ロニーさんのチェックが終わり、見張りをしていたラナさんが荷台に戻ってくる。


「まずはヘルダラタックからカイクへ運ぶ荷物だな」

「カイクね。2時間ぐらいかしら」


 ……あれ? 街の名前も、今知ったよ。



 

 ― * ― * ― * ― 

 ソフィアの蛇足な補足

 ― * ― * ― * ― 


 『荷車』について、調べてみました。

 モモカの世界では、過去に犯罪者を『荷車』で運んでいた歴史があったため、人を運ぶものに対して『荷車』とは言わないのだそうです。荷物扱いするなということですね。

 こちらの世界では、当初から移動手段としても使用されており、さらにはモモカの世界より動力として使う動物の種類が多いことから、荷台があり車輪のついたものは全て『荷運びの車』。同じ言葉で呼び、分けては使わないようです。

 対応するものも『車』ぐらいしかなく、するとモモカの脳内では一般的な『自動車』と混ざってしまいます。

 これからは、人を運ぶものは『相乗り車』(=自動車で例えると小型バス)『呼び車』(=自動車で例えるとタクシー)など、個々を呼ぶものがあればそちらを案内しようかと思います。


 ちなみに、貴族が使うものは『豪車』『華車』などと呼ばれ、区別されます。装飾されていて、庶民が使うものとは見た目が違うからでしょう。




 ― * ― * ― * ― 


 お読みいただきありがとうございました!


誤字脱字ありましたら教えていただけると有り難いです。


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