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40.薄暗がりとあの味

すみません、昨日の予定だったのに(汗)

お待たせしました

 一通り、落ち着いたあと、ラブロに荷車を牽いてもらって、夕食に向かいます。

 厩に来たのは、荷車を使うためだったんですね。


「念のためにね」


 とは、ラナさんの談。ああ、病み上がりを心配されてるんですね。

 もう大丈夫、だけど、ラブロの上機嫌な尻尾を見ていたいから、黙っています。


「個室の店だけど、あまり気を張ったりしなくていい、って評判のところがあるんだ」


 ロニーさんは、周囲の様子を見ながら、これから行く店を教えてくれました。


 周囲は、薄暗がりの中に、灯が点り始めています。

 夕食か家路かに向かう人々で、明るい喧騒に包まれていて、ゴトゴトという車輪の音が、荷台から伝わってきます。

 それが、人の笑顔や笑い声と一緒になって、この世界の暖かさを伝えてきてくれているようで、なんだか楽しくなってきました。


 歌い出したい気分を、そっとこらえて、だけども、頬の緩むのは止められないでいると、ラナさんは、ラブロとおでかけできるのが嬉しいのだと思ってくれたようです。


「あ、職業紹介所だ」


 ガタンゴトンと揺られているうちに、見たことのある建物の前を通りがかりました。

 あの時と同じように、いろんな人が、出たり入ったりしています。


 思えば、ここでみなさんと出会ったのだなぁ、なんて懐かしく思ってしまいました。まだ一週間ぐらいなのになぁ。


 私の独り言は、誰にも聞かれていなかったようで、返事は誰からも帰ってきませんでした。




 ― * ― * ― * ― 




 ヘルダラタックの食事処が固まった一角に、荷車留めがあって、そこで私は降りました。

 ラブロはお留守番です。オラヴィさんが、荷車をつけた時のように、優しく撫でながら、繋を外してご飯をあげています。


 私もあげたいけれど、従魔は主にもらうか自分で食べるかしか、食べ物を口にしません。

 もし、食べ物をあげて、食べてしまったら、それはその従魔の持ち主からその子を奪ってしまったことになるのです。


 仕方がないので、ダイフクちゃんにエサをあげます。モグモグ。ぁ、ダイフクちゃんは、小型従魔なので、一緒にお店に来ますよ。


「こっち。すぐだから」


 笑顔のロニーさんが、指差します。

 右手を差し出すラナさんの手をとって、反対側の腕でダイフクちゃんを抱えたまま、ウキウキと道を進みました。

 すれ違う人たちは、食事処を吟味しているのか、それとももう満足したのか、誰も彼も、機嫌よく仲間同士で笑いあっています。


 にこにこと、それを見ながら進んでいくと、間もなく一軒に、ロニーさんが入っていきました。


「ここですか?」

「そうよ。あら、緊張してる?」

「少し……」


 今までに、入った異世界の食事処よりも、少しだけ立派な門構です。

 例えるなら、今までのが、古い食堂やファミレス、ここは小料理屋さん。

 スッゴい高い、高級料理店みたいな雰囲気はないけれど、前世もほぼチェーン店で満足な、貧乏性の私には、ちょびっと緊張感があります。


 いや、そりゃ行ったことないわけじゃないけどさ。


「うふふ、大丈夫よ。初級から中級に上がったばっかりの冒険者がお祝いに選ぶお店のひとつ、って感じだから」

「町の人が、ちょっとしたお祝い事にも使うよな」

「美味しいしね」


 ああ、やっぱり、想像通りのお店なんですね。

 貴族が使ってそうとか、思ってたと思われてたんでしょうか。さすがにそこまで世間知らずでは……。

 まぁ、いいか。


「美味しいお料理! 楽しみです♪」


 大事なのは、そっちですからね!


 ウキウキと、ラナさんの手を握ったままお店に入り、ロニーさんについていきます。今までの平屋だてのお店と違って、2階があるようです。

 上ってすぐの部屋に入ると、すでに4人分のお料理が並んでいました。


「……お魚だ」


 テーブルの真ん中に置いてある大皿は、メイン料理でしょう。

 そこに寝かされていたのは、大きな魚。幅が広くて、たぶん白身魚だと予想。野菜の千切りが入った餡がかかっていて、とっても美味しそうです。


「魚大丈夫だっけ? 今さらだけど」

「生じゃなければ」

「魚生で食べるって、魔獣じゃないんだから」


 ああ、そういう世界なんだ。


「煮込の白身魚は、大好きです」

「ばっちりじゃん! やったね♪ 座ってモモカちゃん」


 やっぱり、そうなんだ! やったあ!


 促された席に座ります。

 それぞれの席に置いてあるのは、パンとスープ、サラダに控えめな肉料理、フルーツと、取り皿にコップ。


「じゃ、まずは乾杯しようか!」


 お茶の入ったコップで乾杯して、いつの間にかラナさんが取り分けてくれていたお魚を口にします。


 うわぁ! 美味しい!

 ふわふわの白身に、お出汁のきいた餡がからんで、絶品です!

 ブイヨン? とか、西洋風の出汁なんですけれど、やっぱりなんだか、お醤油が入ってるような味がします。


『特定しました。こちらの世界特有の植物、アラヤーを含む、3種以上の植物をブレンドした調味料と判断しました。ちなみに醤油と違って、粉末の調味料です』


 醤油っぽいの、粉末調味料だった! え? 一般的な調味料だったりする?


『魚料理に使うのが一般的です』


 どんぶり料理には、あまり使わない?


『珍しいですね』


 あの屋台にまた行きたくなった。

 けれど、そっか、やっぱり異世界なんだなぁ。

 けど、そうか。うん、そうか。



「……モモカちゃん? 大丈夫?」


 ラナさんが、覗き込んできました。えへへ。


「涙が出るほど、美味しいですね! この料理!」

お読みいただき、ありがとうございました。


前回のあとがきでも申し上げましたが、当作品は、「飯テロ」を目的にはしておりません。

あしからず、ご了承くださいませ。


モモカが涙もろいのは、この世界に体が馴染んできたからです。



誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。


▼誤字報告 機能がページの一番下に▼

ありますので、ぜひご活用くださいませ! 

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