39.『妖怪』と、狼
シンプルなパンとスープをいただいたあと、もう少し休んでいなさい、と言われて。
もう、充分に寝たのに、と思って横になったら、眠っていたようです。
時間は、夕食前。日が暮れかけてるじゃないですか。
背景に、「妖怪食っちゃ寝」という文字が踊っているようです。
『前世の休日ですね』
言わないで。
着替えていると、ノックの音。
「起きてるかしら? 一緒に夕食食べられる?」
ラナさん!
「はい! もう少しで、着替え終わるので、待ってください」
途中だったところを終わらせて、ささっと整えると、扉の方へ。
前世から、あんまり服装にもお化粧にも関心がなくて、女の子らしく、身支度に時間をかけたことがない。
汚れがないか、服装にシワがないか、寝癖なく整ってるか、それだけ。
今世だと、髪は癖ッ毛なのに、サラサラしてて、軽く撫で付けただけで、整って便利。
……ラナさんは、サラッサラだよなぁ。
「おまたせしました!」
扉を開けると、ラナさんのとろけるような笑顔。
「もう、具合悪いとこなさそうかな?」
「はい! 本当に、ご迷惑……ご心配おかけして、すみませんでした」
改めて謝罪すると、ふるふると横に頭を振って、私を腕の中に。
あ……あのですね、ラナさん。鎧がないと、お胸がですね……。
「心配なんて当たり前よ。私はモモカちゃんが大好きだから」
……暖かいです。
遠慮していた腕を、ラナさんの背に回しました。
ウキウキしながら、ラナさんと手をつないで、階段を降りて。
すると、見たこともないほど不機嫌な狼がいました。
体が、あそこまで、ビクッとなるものだとは、知りませんでした。
あれですね、怪我したラブロに近づいたときも、怖い顔してましたけど、改めて、オラヴィさんは、狼の獣人さんだったのだなぁと、思います。
「あの……オラヴィさん」
「モモカ」
「ひぃッ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
スッゴい重低音で怒ってるー! 眉間のシワふっかぁい! 犬歯のむき出し具合が、めちゃめちゃ怖い! いつもは癒しの耳と尻尾が! うわぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさいぃ!!
「すまなかった」
……。
へ?
「モモカを危険にさらした。危険があると予見できていたのに、打ち合わせを疎かにしていた。こちらの不手際だ。すまない」
ロニーさんにも、謝られた。
って、へ?
「いえ、あの私」
「続きは夕食を食べながらにしよう。個室のある店をとってある」
ロニーさんが、言葉を遮って、外を指しました。
ああ、うん。人通りが多くなる時間ですね。
行きましょうか。
私が頷くと、オラヴィさんの眉間のシワがさらにひどくなる。
ああ、これ、私に怒ってるんじゃなくて、彼の落ち込み方なんだな。そんなにシワ寄せると、型になっちゃうよ。
悪いのは私なのに。
あまり軽くない足取りで、先行する二人を追いました。
……ん?
この方向……って。
「厩」
朝、起きると向かう場所。
自然と駆け出します。
だってそこには。
獣たちが並ぶ舎の奥に、寝そべる、大きな猪の牙と。
「……ラブロ」
見慣れた大きなもふもふが、私の声に、鼻先が反応して、こちらを見ました。
「わふ」
なかなか鳴かない、ラブロが鳴いてます。
涙が、溢れてきました。
立ち上がってこちらを見ている、彼。
一旦止まった位置から、残りの距離を駆け寄ります。
ラブロは、引きちぎれんばかりにしっぽを振ってきました。
その額を、そっと撫でると。
目を細めて、手を受け入れるラブロは、今日もかわいい。
「ラブロ……ラブロ、良かったぁ」
ポロポロ涙をこぼしながら、ラブロの顔に抱きつきました。
嬉しそうに鼻を鳴らすラブロと、足元を嗅ぐタタール。
いつも通りだ。良かった。
ごしごしと、肌を擦り付ける私を、ラブロは舐め始めました。
「えへへ、ラブロ、痛いとこない?」
「わふ」
一声鳴いて、またペロペロ。
「ラブロには、一切傷はないよ。体内まできちんと治ってる。ありがとう、モモカ」
後ろから、先程よりは幾分か、柔らかい……ぁ、でもまだ怖い、表情をしたオラヴィさんが、話しかけてきました。
「いえ、ラブロが元気で良かったです」
笑うと、やっと表情が緩みました。
「そうだな、礼が先だったな。ありがとう、モモカちゃん。助かった」
「私もだわ、ありがとう、モモカちゃん。お礼を先に言わないといけなかったのに、ごめんね」
慌ててロニーさんとラナさんの言葉が続きます。
首を振る私。
「私が倒れてしまったから、心配が勝ってしまったんでしょ? それはそれで……変ですけど、嬉しかったですよ」
照れて笑うと、ほんわかした空気が広がる。
厩の片隅に、笑い声が響きます。
「ラブロの頭に、目の周りをこすりつけたろ。赤くなってる」
「あ、待って、タオルを濡らしてくるわ」
ハンカチを差し出そうとする、オラヴィさんの手を遮って、ラナさんが駆け出していきました。
あ、待って待って。
「私も行きます! 顔洗ってきますー」
もう一度、ラブロと、タタールの鼻先を撫でて、厩の入り口に立つラナさんのところに駆け寄りました。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちょっと、おどろおどろしいタイトルつけてみましたが、ただのほんわか回です!
次は夕食!
ちなみにこの作品、飯テロするつもりは、全くありません。あしからず、ご了承くださいませ。
今回、誤字脱字その他、多いと思います。
ご指摘いただければありがたいです。
▼誤字報告 機能がページの一番下に▼
ありますので、ぜひご活用くださいませ!




