38. 説教 と 猛省
『――モモカは、馬鹿です』
ため息を付きそうな声で、ソフィアが言った。
ソフィアって、本当に多芸だよね。
やっぱりただのスキルとは思えないや。
『話をそらさないでください。そうではなく。エクストラヒールは使わないでください、って言ったじゃないですか』
うーん、私には、全部『ヒール』だからなぁ。
『待って、って言ったのに』
……ゴメンね、ソフィア。
私のわがままで、みんなに迷惑をかけちゃったね。
自分勝手に、自分のことだけしか考えてない。
そういう私だから、あそこで倒れてるラブロをすぐに助けたくて、たまらなかった。
ゴメンね。
『……わかってます』
私ね、可哀想だとか、正義だ義理だとか、そういうので、治してあげたいってなったんじゃないんだよ。
私ね。
自分が助かりたくて、やっちゃったの。
ここで助けなきゃ、私の中の何かが壊れるって、そう思っちゃったんだ。
ゴメンね、ゴメンね。
『ダメです』
……ソフィア……。
『私には止めろ、と言ったくせに無茶して。私は、本当に怒っているんですよ。全く、モモカは気を使う方向がおかしいんです! あのあと、モモカが倒れて、周りがどれだけ心配したと思ってるんですか! ラナは泣き出すし、オラヴィは怖い顔したまま固まるし、ラブロはあなたを必死に舐めるし、ロニー一人、異常な早さで周りを取り仕切るし。まぁ、お陰でなんとか、商人たちには見られませんでしたけど? パトリックは、ばっちり見ましたからね? ロニーが口止めしてくれましたけど、3人に対策会議、開かれてましたよ。今は『聖女』の噂で持ちきりだって、聞いたじゃないですか! 下手したら大騒ぎになるって、分かってたんですよね? ね? なのに、やっちゃったって? そんな気軽さで、気絶するほど、力使っちゃったって? ああ、もう本当に反省してください! 起きたら速攻、3人に土下座して謝ってください! 次また同じことしたら、私、もう知りませんからね? 自由にのんびり旅、なんて、とても出来なくなるところでしたよ!』
……ソフィアさん、マジ説教。
ごめんなさい、本当に反省しています。
『全く。次に止めたら、本当にゆっくり、落ち着いて、深呼吸してくださいね。そうすれば、あの状態でも、辺りを見回せます。辺りを見回したら、見えなかったものが見えてきます。そうすれば、その時に、何をするべきか、ちゃんと分かります』
はい。
……でも、ラブロが可哀想すぎて。
あんな痛そうなの、我慢できたかなぁ……。
『ロニーやオラヴィ、秘蔵のポーションなんかを使って、なんとかしたふり、とか、時間をかければできました』
あああッ!
え? それ、ホントに? え? ぁ、でも、次の日にとか?
『10分あれば』
はわわわわっっ!
ごめんなさい、ごめんなさい、本当に!
『辺りを見回しさえすれば、その時に、何をするべきか、ちゃんと分かります。落ち着いてくださいね』
……ハイ。
大変、反省いたしました。
私は、まさに心の奥底から猛省した。
― * ― * ― * ―
夢の中で、ソフィアに説教されて、猛省して起きて。
宿、かな?
木造の天井。無垢の木が張られた。
辺りを見ても、よくとるタイプの宿の部屋の様子。二人部屋。もうひとつのベッドの布団は、いつも通り丁寧に整えられている。
私はつい、畳んじゃうんだけど、ラナさんは整えるのよね。文化の違い?
時間は……お昼前かな。
場所どこだろう。
『ヘルダラタックの宿です』
へるだらたっく。○イクシリーズじゃないのね。だけど、なんか聞いたことある。
『最初にきた街ですね』
……最初に、きた、街?
え?
戻ってきたの?
『元々、あの町の次は、ヘルダラタックの予定だったようですので』
えっ、あれからけっこう時間経ってる?
『モモカは、4日、眠っていました』
私は、とりもとりあえず、身を簡単に整えると部屋を飛び出し、階段を駆け下り、1階で、キョトンとした顔のラナさんを見つけた。
「……っっ! ごめんなさいッッ!!」
90度、頭を下げる。
いや、ええと土下座だっけ。うん。
手を、付こうとしたら、ラナさんが慌ててやってきて、体を支えてくれる。
「もう、起きてすぐ無茶するから! 大丈夫? どこか具合の悪いところない?」
……体勢を崩しただけだと、思われちゃいました。
ゴメンね、ラナさん。
日本式、猛省の姿勢をしようとしただけなんです。
「いえ、あの」
「部屋に戻りましょう。あなた、丸3日も寝てたのよ。いえ、もう4日目ね。すぐ、モモカちゃんは無茶するんだから」
……ああ、そうだ。考えなしに動いて、心配かけることを反省したはずなのに。
「ごめんなさい」
うつむいた私に、ラナさんのため息が聞こえる。
「これが、モモカちゃんらしさなのは、よくわかったわ。でも、心配する側の身にもなってちょうだい」
見上げたラナさんは、優しく笑っていた。
うう……みんな、優しすぎるよ……。
そのあと、部屋のベッドに押し込まれて、柔らかいパンとスープが運ばれてきた。
ぁ、パン。
「私、みんなの分の美味しいパン預かったままですね」
「そんなこと、気にするのロニーだけよ」
……ロニーさんの、荷物も、預かったままだ……!
だめだ、私。
本当に、もっと猛省しなきゃならない。
もう、二度と、気を失うような無茶はしないぞ。
お読みいただき、ありがとうございました。
反省点が、とってもズレているモモカ。
それでも、他人に心配をかけている、ということの意味は、無意識にわかってきているような気がします。
次の更新日は、GW後になります。
ほんわか回になりますよ。
誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。
▼誤字報告 機能がページの一番下に▼
ありますので、ぜひご活用くださいませ!




