31.貨幣協会と会員証
「あの」
登録を終えて、職業紹介所の会員証と同じぐらいの大きさの、従魔士の会員証を受け取ると、お礼を言って協会の建物から出ました。
身分証や、ステータス証明書の二つ折りにした証書には、それが書かれた反対側に、ポケットが付いていることを教えてもらったので、そこに2枚を挟みます。
全然気がつかなかった……。
それはともかく。
従魔士ギルド支部長のおじさんとの話で、気になったことをオラヴィさんに聞きます。
「貨幣協会って何ですか?」
商人協会はなんとなく想像つくんですけど。商人の人たちの協会ですよね?
「かへい」って、どういうことでしょう?
コインの協会……?
するとオラヴィさんは、自分の懐から、カードを一枚出してきました。私がさっきもらったのと同じ、従魔士協会の会員証のようです。
そしてその一部分を指して言いました。
「このマークがついたの持ってない?」
そこにあったのは、7枚の弁を持つ花を図案化したようなマークでした。
私の持っている会員証にはありません。もちろん他のものにも。
首を振ると、ついでに行こう、と言われました。
え? 結局、貨幣協会って何ですか?
― * ― * ― * ―
そこにあったのは、黒い壁の頑丈そうな建物でした。
真っ黒ではないのですが……謎の迫力です。
「貨幣協会は、どこもこういう黒い建物」
オラヴィさんがそう言って、ズンズン建物に進んでいきます。
そういえば、冒険者協会の外観はけっこうまちまちだったなぁ、と思い出します。
普通の家みたいなとこや、宿か食堂みたいなとこ、石造りも木製もありました。
この貨幣協会は、外観が大体、統一されているそう。
よく読んだ小説の、冒険者ギルドは、外観が「わかりやすいように」統一されていると書いてあったけれど、ここはどうなんだろう?
そんな風に思いながら、オラヴィさんの開けてくれた扉をくぐり、建物の中に入ります。
そこは、職業紹介所の中を思い出すような景色でした。
つまり、大部屋になっていて、そこを長めのテーブルがまっすぐに横切るように並んでいて、その向こうに、何やら作業をするための机や資料の入った棚があり、何人もの人があちらこちらで仕事をしている、役所か銀行のような場所、ということです。
そういえば、従魔士協会は、机が壁際の棚の前に並んでいて、逆側は階段とか外に出るだろう扉だとか、むき出しの土間だとかが見えたっけ。
この違いなんだろう?
そう思っていると、カウンターのように並んでいるテーブルではなく、その手前にある机の前に、誘導されます。
そして、そこにあった紙を渡されました。
あれ? 紙ですよ?
紹介所で手渡された登録用紙は、木の皮みたいでした。
これ、ちょっと分厚いし、ガサガサしてるけど、ちゃんとした紙です!
バッとオラヴィさんの顔を見たら、特になんという表情もなく、頷かれました。
えー。
もう一度、その紙を見ると、
『口座開設申込用紙』
と、書かれていました。
……口座? って……
『そうです、モモカ。貨幣協会というのは、いわゆる銀行です』
ちょ。ソフィア、問いかけても黙ったままだと思ったら……!
『すみません。こういった仕組みはあちらでもこちらでも複雑化しておりまして、参照しつつお互いに照らし合わせるのに手間取っておりました』
そうなんだ……。
でも、心配するから、ちょっとした返事はしてくれるといいな。
『ご心配おかけしました。こういった場合のプログラミングを組みます。それはそうと、モモカ。口座開設を推奨します』
推奨。
その言い方は初めてだね? ぜったいしておいた方がいい、ってこと?
『はい。あちらの銀行よりも、安全な仕組みになっています。金利は低いですが、その他にも便利な機能がたくさんあります』
そうなんだ! たとえば?
『まずは手続きを進めてください。待ち時間に案内します』
そう言われて、私は用紙に名前を書くと、オラヴィさんと一緒に、開設受付に行きました。
そこで、私の持つ身分証全て、つまりステータス表以外を預けて、さらに金貨を預けて、また後日来るようにと、預り証を渡されました。
金貨は、そこから手続きに必要な金額を引いて、それから新しく開設された口座に、残りを入れてくれるのだそう。
本当は銀貨どころか、黒貨数枚で良かったのだけれど、なんとなく、金貨がいいかな、と。
ソフィアが言うには、貨幣協会の口座では、前世の銀行口座と同じように、貯蓄、給料等の振り込みができる他。
自動的に税の引き落とし(自分でやるより少しお得!)をしてくれる機能があるので、口座のマークがついていない身分証より、信頼性が上がる、=安定した就職にさらに有利なのだとか。
うん、ソフィアが推奨したのは、そのためか。
さらに、冒険者協会の会員証や、単なる身分証明証だけでは、物凄く時間がかかるらしく、従魔士証や、身分を保証してくれる人がいる場合は、手続きが早くすむとか。
それで、オラヴィさんが、ついでに、と言ってくれたんだ。
ありがたいことです。
お読みいただき、ありがとうございました。
これで、とりあえず怒濤の世界設定祭りは、一旦終了です。
……ぁ、なんで日本側の銀行より安全なのか、書き忘れてる。
……まぁいいか。いつか出てきた時に書きます!
いつも、応援や評価 ありがとうございます。
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