03.大教会とステータス
街の入り口はほぼ素通りだった。
ソフィアによると、街の入り口には結界があり、魔物と犯罪者は弾かれるようになっているのだそう。
私の身分証は、職や住み処を得るためのもので、そういうものがない人は選択肢がかなり絞られてしまう。
たとえば日雇いや『冒険者』、家は宿か一括払いだったり。
そういえば、小説の『冒険者』もそんな感じだなぁと思う。簡単に実力者になるから不便はないように描かれるけれど、やはり身元がはっきりしない人間は信用度が低いものみたい。
もともと、就職活動のために街に出てきた設定なのだから、持っていない方が不自然。
これで目立たず普通に職と住む場所を探すことができる。
「神様、私が言わなくてもいろいろ考えてくれたんだね」
『願いがとても珍しいものだったので、『遊び心』だそうですよ』
……遊び心?
一抹の不安を感じつつ、大通りを進む。
まず向かうのは、大教会。
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大教会では、所謂ステータスを確認することができる。
ステータス表を発行してもらえ、これを持っていると就職に有利になる。
ステータスの確認は少額だが、表の発行にはその5倍の金額がかかる。
けれども、地方の教会で発行された証明書を持っていくと、2回目まで無料で発行してもらえる。
お得。すっごいお得。普通は1回でいいんだけど。
で、そんなお得なステータス確認をソフィアに勧められてやってみたんだけど。
なにこれ。
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(正)
[名前] モモカ・ヤマ=ノウチ
[年齢/性別] 15 / 女
[種族] 普人族
[加護/称号] 転生神の加護 / 転生者
[レベル] 1
[HP] 500
[MP] 800
[固有能力] 【ナビ】【テキパキ】【他言語理解】
[能力] 頑健,無限収納箱,生活魔法,聖属性魔法,
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(提出用)
[名前] モモカ・ヤマ=ノウチ
[年齢/性別] 15 / 女
[種族] 普人族
[加護/称号] 創世神の祝福 /
[レベル] 1
[HP] 15
[MP] 8
[固有能力] 【テキパキ】
[能力] 壮健,収納箱(中),生活魔法,ヒール,
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なんで2つもステータスがあるの?!
2回無料って、こういうこと?
『(正)がモモカの本当のステータスです。教会などに見せると目立ちますので、控えめにしたものを提出用ステータスとしてプレゼントされています』
所謂、偽装ステータスを神様公認でいただいた、ってことですか。
なんか至れり尽くせりで申し訳ないです。
ええと、じゃあ、発行してもらえるステータス表は提出用だけ?
『はい。本来のステータスは、私の方で読み込めましたので、いつでも手元でご覧いただけます』
そう言って、鑑定板に写し出されたステータスと同じものを、ソフィアは空中に映し出した。
って、わわ。
『今さらですが、この文字や私の声はあなたのスキルなので、他人には感じることもできません』
あ、そうなんだ。良かった。
でも考えたら当たり前か。こんなの人の回りにふよふよしてたら邪魔だよね。
『ちなみに、固有能力【ナビ】【テキパキ】はモモカ専用スキルです。【他言語理解】無限収納箱は、転生もしくは召喚者限定能力です』
あ、思ってたの。【テキパキ】って何?
すると、ソフィアの案内ではなく手元の表示でスキル説明が浮かんだ。
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【テキパキ】
超速思考と並列思考、演算加速と沈着冷静のスキルセット。どんな状況でも常に最速で思い通りの選択をすることができる。スキル【ナビ】と連動中。
(表向きは、自らの動きを補助し、なんでもテキパキとこなせる能力)
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何それ、チートか。
私、チートは求めていないんですけれど。
『神様の遊び心です』
そんな遊び心はいらない。
私は穏やかに暮らしたい。
うーん、でもいろいろ考えてもらってるし、第一これぐらいのチートスキルじゃないと、私のフォローは難しいのかも。
じゃあ仕方ないね。
とりあえずそこまでにして、私は教会のステータス確認用の個室から出る。
出入口にはここまで案内してくれた修道士さんが待っていて、証明書に似た赤茶色のカードを渡してくれた。
開くと間違いなく提出用のステータスが書かれている。
お礼を言い、代金に多少の上乗せをしたものを渡して、教会の入り口へ。
行き掛けにもしたけれど、教会の奥に見える主神像にお辞儀をして退出。
この国、精霊信仰らしいんだけど。
まぁいいか。
高台に立つ教会の扉から見た街は、まるでヨーロッパの古い町並みをそのまま再現したような、石造りの美しい景観が広がっていた。