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29.慌ただしさと影響

 


 午後。

 この街の取引を終わらせて、最後の取引先にロニーさんとラナさんを商談のために残したまま、従魔士協会にやってきました。


 やっぱり戦う気がないのに、冒険者協会(ギルド)はハードル高いです。




 その、従魔士協会の中は、とても慌ただしい雰囲気でした。


 オラヴィさんに続いて受付に向かう間にも、あちこちから怒声が聞こえます。

 その状況に身をすくめながら、小走りについて行くと、オラヴィさんは何かカードを出しながら奥を指しました。


「ちょっと待ってな」


 それを持って、受付の人が奥に引っ込んでいきました。

 わ。日本じゃないんだなぁ。新鮮。女の人がこういう喋り方、カッコいい。


 やがて、さっきの受付の人が戻ってきて、ついてきな、と案内し始めます。

 やっぱり、かっこいい。わりと若いよね? でも素敵。



 そんなことを考えているうちに、2階の一室に案内されてました。


「おう、また忙しいときに来やがったな」


 その部屋の中には、ちょっと目付きの鋭いおじさんがいて、オラヴィさんに握手を求めます。

 おじさんの手を握ったあと、無表情のままで尋ねるオラヴィさん。


「何があった」


 おじさんは、いやぁ、と言いながらソファを勧めました。


「お前の耳にも入ってるんじゃないか? あちこちに仕掛けられた強力な罠のよ」



 ……罠。


 もしかして。


「……こないだ、ロックリザードが引っ掛かってたな」


 そう。この間可哀想な怪我をした大トカゲ。

 あんなことが……「あちこち」? 


 おじさんは、ひとつ頷くと、ちょうど運ばれてきたお茶をテーブルに置かれる前に受けとり、一口すすりました。


「街道沿いにあるかと思えば、誰も通りそうにない森の中にあったり、また、罠に傷つけられたらしい魔物が飛び出してきたりだ」


 ……それは酷い。


「それが国内だけで十数ヵ所。帝国を含む国外を合わせるとそろそろ80近くになる。でかいのに反応するのか、いまのところ人的被害(ひとじに)はないが、一ヶ所大型荷車の牽獣ではなく、荷車に反応したらしいという報告が出てな。大混乱だ」


 おじさんは親指をたてて階下を指しました。

 それに考え込むオラヴィさん。


「主要な街道は安全が確保されたらしいが、油断はできねぇ。流通が止まれば小さい町は死ぬ」


 真剣なおじさんの顔に青ざめる。


 すごく、大変なことになってるんだ。



「と、まぁ、従魔士どもは身と従魔の安全がとれないと出渋ってる。が、荷を運びたい商人は、あちこちで値上がりが起きてる今がチャンスなんだ。ほぼ固定のお前さんには関係ないが、今、儲け時なんだよ」


 ニヤリと笑ったおじさんは、ものすごい悪人に見えました。

 ただ座ってるだけなら、普通のおじさんなのに、今なら盗賊にいてもおかしくないように思えます。


「ま、あんまり長引くとこっちもキツい。冒険者協会で複数人に依頼を出してるようだから、今だけ限定のフィーバーだな」


 そう言ってカップをあおります。



 なんでしょうか、このおじさん。

 儲け話の事しか考えてないように見えます。

 信用できるんでしょうか? こんな人……。


 ムッとしながら見ていると、おじさんがやっとこちらに目を向けました。


「で、こっちは? お前の妹か恋人か?」


 何だか嫌らしい顔をされました。

 さすがに生理的な嫌悪感は抑えられません。


「弟子だ。期間限定だが」


 オラヴィさんは気にした風もなく答えます。

 が、


「気に障ったか、悪ィ。しかし弟子か。その膝の跳兎か?」


 そう言って、おじさんは表情をただしました。

 そして、真面な顔でこちらを向きます。


「跳兎の登録をと思ったが、従魔士としての資質の他にも、彼女はたくさんの資質がある。保護してやりたい」


 隣に座っていた、オラヴィさんの尻尾の先が、私の腕のすぐそばにやってきました。

 改めて見ると、モフモフですね。


「資質?」


「まずこの跳兎だが、半日で懐かせた。しかも通常のテイム手順じゃない」


「特殊テイムか」


 って、うおおッ!?

 能力解析されてる!?


「その上、初級治癒魔法、大きめの収納箱、『祝福』持ちだ。狙われないわけがない」


 ってー!!

 怪しいおじさんに、全部ばらされてるー!!


 オラヴィさん酷いよ! 

 他人のステータスはおいそれと明かしちゃいけないんじゃなかったの!?


「……そりゃー、ヤバイな。オレにわざわざ言いに来るはずだわ」


 顎を撫でるおじさんが、口元を歪ませた。

 けれど、先ほどまでの嫌悪感がない。

 目が、真剣だからだ。


「それで従魔士協会に庇護の一端を貰いにか。冒険者協会には?」


「彼女は争いに駆り出すべきでない」


「そうだな。まかり間違って前線に立たされちゃかなわねぇ。教会にも通してねェな?」


「ない」


「ま、あそこは聖女さまで大わらわだしな」


 そう言っているうちに、私の目の前には、何枚かの書類が用意され、ペンが用意されると、書くように指示されました。




「従魔士協会ブライハイド王国東部支部長の権限で、お前を正会員として保護する。名前だけ書いてくれりゃあ、すぐ終わるからよ」

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