28.冒険者協会と従魔士協会
朝。
なんだか、お腹がポカポカします。
右向きに寝ていた私の両腕と、お腹との間に、なにか柔らかく、暖かいものがあるようです。
そっと布団をめくると。
まん丸いモフモフがそこにあり、ゆーっくりと、かすかに膨らんだり縮んだりを繰り返しています。
しかも、その下からちょこんと小さなしっぽが生えていて、リズムをとるようにペチペチと布団を叩いていました。
……。
このやろうっ、朝から悶え死にさせる気か!
抱き上げてほっぺでモフモフしたかったけど、眠ってるのを起こすと可哀想だったので、すごすごと、けれど慎重にベッドから降りました。
― * ― * ― * ―
起きてから、今日は朝ごはんを食べずに宿を引き払って、厩に集合。
ロニーさんの読み上げるリストの荷物を取り出します。
あ、これでほとんどの荷物がなくなりましたね。
あと10数箱です。
この宿はごはんが出ないタイプのところだったため、取引に行きがてらご飯を買って、食べながらの移動になります。
何せ今日は、荷物の他に従魔登録をするという緊急の予定が入ってしまったので。
お手数おかけします。
「今日一日周って、お昼食べてから協会行こう」
ロニーさんはチェックを終わらせると、そう言ってラブロの背を叩きました。
ずるい。いいな。今日はラブロにもタタールにも触れなかった。
ゆっくりダイフクちゃんの背を撫でながらそう思いました。
ダイフクちゃんは目を閉じて、気持ち良さそうです。
……それとも寝てる?
「どこの協会に行くのかが問題よね。移動することを考えると、従魔士か冒険者かよね……。モモカちゃんはどこにも登録してないのよね?」
首肯く私。
「ヒールを使えることを考えると、教会に届け出てもいいんだけど、跳兎の能力を思うと、難色を示されそうよね」
「あそこは治癒術か光魔術がないと、そういう登録してくれないからな。それにモモカちゃんが変に利用されかねないのも心配だ。見目のいい治療士は、ガンガン表に出して宣伝に使うところだからな、あそこは」
「ああ……噂の『聖女様』? たしかに、彼女も大袈裟な治癒能力はないんだっけ?」
うんうんと首肯くロニーさん。
聖女様? ほほう、そんな人もいるのか。
「と、するとやっぱり二択かぁ。うーん、一長一短よね」
ラナさんが後方を警戒しつつ、頭を左腕で支えています。
屋台の並ぶ一角につくと、ラナさんとオラヴィさんで買い出しに行ってくれました。
その間、ロニーさんから冒険者協会と従魔士協会の登録についての一長一短を説明してもらいます。
まずは冒険者協会。
ここで言う『冒険者』は魔物を討伐したり、町を移動する人の護衛をしたり、ダンジョンの探索や素材採取を主にしたりするお仕事のこと。
そういう人がお互いを助け合ったり、支援したりするのがこの協会。
登録すれば、魔物の出没情報やダンジョン情報、対応するための戦闘訓練などの支援を受けることができる。
代わりに、そういう情報を見つけたら報告の義務があるし、魔物がたくさん出たときに、周辺の人を守るために強制的に招集されることもあるという。
第一、私に戦闘の意思はない。
ロニーさんたちは3人とも、登録済みなのだという。うん、これまでの旅でもよく行ってたもんね。元冒険者、とも言ってたし。
従魔士協会は、従魔という人に使役された魔物を扱う人のための協会。
この言い方が不思議だったので聞いてみると、テイム能力がなくても、従魔を扱う知識があれば従魔士になれるのだそう。
輸送に労働力にと、様々な活躍を見せる従魔を扱う協会なので、あちこちに信用とコネがあり、他の町や他国の同協会との連携も密。
代わりに、正式な協会員になることも難しく、逆に仮会員だとしても抜けることができない。
「道に関する情報は従魔士の方が上だけど、魔物には冒険者の方が強い。それに、モモカちゃんの貴重性を考えるとどちらにしても正会員の方がいい」
悩ましい表情でロニーさんは指を組む。
道中に出やすい魔物の情報はあっても、突発的に出現した魔物の情報は遅れぎみで、その場に行ってから引き返さなくてはならないこともあるとか。
「冒険者なら『祝福』持ちはすぐに正会員に上げてくれるけど、従魔士は少し上がりやすくなるぐらいかな。紹介者はオラヴィがやってくれるけど、あとは強力なテイム能力か従魔があればいけるはずなんだけど」
「正会員じゃないとダメなんですか?」
私は首をかしげる。
単にダイフクちゃんの登録をしてもらうだけなら、それでいいはず。
「うーん……まぁ、な。ここまでで、どっちの方がいいなとかある?」
ううん。だったら……。
ロニーさんに告げたところで、ラナさんたちが戻ってきました。
買ってきてくれたのは、蒸しパンみたいなものの中に、具が入っているというもので、中の具が熱々。しっかり味がついていて、きちんと食事感があります。蒸しパン型の肉まん?
上機嫌で食べながら荷台に揺られている間に、今日の取引先、一件目に到着しました。
お読みいただき、ありがとうございました。
協会の解説に手間取りました……。
冒頭部分は、私の娘がときどきやることです。
あんよ たしたし。
また、誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。




