25.商魂とお手伝い
昼食をとるために立ち寄った場所には、すでにたくさんの荷車がありました。
同じ頃に出た荷車は、だいたい同じぐらいのところで休憩を取ることになりますし、ちょうどハイクライクとの中間あたりになるここは、双方から来る荷車で賑わうのだとか。
「元はただの広場で、こんな村なんかなかったんだと。いつの間にか、ここで商売を始めるやつが出てきてこうなった、というわけだ。いやはや、商魂逞しいとはこのことだね」
なんだか弾むような声で、目をキラキラさせたロニーさんが言います。
温泉宿のオーナーさんの話といい、ロニーさんはこういう『商魂逞しい』のが好きなんでしょうね。
私はというと、ラナさんが捕まえてきてくれた跳兎ちゃんと一緒に、荷台から辺りを見回していました。
ロニーさんはただの広場、なんて言ったけれど、見ればそうでないことがわかります。
あちこちに並んだ荷車、その向こうにある露店や小屋。
その奥から滝のような音がして、水場があるのがわかりました。
おそらくですが、もともと水場があることで、ここは荷車を牽く人の休憩の場になり、その人たちが踏みしめるから広場になり、そしてその人たちを目当てに商売する人が集まってさらに人が増え、村になった、そういう必然的な理由のある場所なのでしょう。
荷車の並び方でさえ、皆思い思いに止めているように見えて、きちんと何やら、暗黙の了承で決められた通りになっているようなのです。
私と跳兎は、ふたりでそれを面白そうに見回しました。
「さて、お昼だけど、買ってきたのにする? それとも屋台を覗いてみる?」
ロニーさんの言葉に、私は収納箱の中身を思い出しました。
事前に注文していた大量のパンを、今朝受け取って入れたのです。
そうなると、答えはひとつ。
「このパンに合いそうなおかずを買いましょう」
「だな」
ロニーさんとラナさんで、あれこれと相談している間に、オラヴィさんはタタールのための藁を敷いています。
「オラヴィさん手伝いましょうか?」
顔をあげたオラヴィさんが、首肯いて藁を差し出しました。
私は荷台に跳兎ちゃんをおろし、藁を受け取ってタタールの隣へ行きました。
タタールに話しかけながら、藁が均等になるように、そしてそれがタタールよりも少し大きくなるように広げました。
途中で二人が買い出しに行くというのに手を振って、なんとかこれでいいかな? という出来になった頃、荷台とつなぐ長柄との器具をはずされたタタールが寝そべりました。
「ありがとう」
ぼそっと言われたオラヴィさんの言葉に、自分から積極的に動いてしたことに礼を言われたのが、ずいぶん久しぶりだったのに気がつきました。
それに気づいたとたん、顔がにやけて頬が赤くなるのが止められなくなりました。
周りにとっては、大したことがないことなのかもしれません。
でも、良かれと思ってやったことに、ため息をつかれたり、顔を引きつれさせたりしなくてすんだのが、ずいぶんぶりな私にとってはとんでもなく大きなことです。
こっそりソフィアと喜びを分かち合いました。
それを不思議そうにみている、買い出しから帰ってきたラナさんにも気がつかないほどに。
あう……恥ずかしかったです。
― * ― * ― * ―
「おいしい~~♡」
はぁー、と息を吐き出しながら、頬を緩めます。
ロニーさんとラナさんが買ってきてくれたのは、ビーフシチュー! っぽいもの。
それが木製の器に盛られ、木製のスプーンがついています。
パンとの相性は言うまでもありません。
あ、でもこれなら、前の町のちょっと固いパンの方が合うかも。って、ちょっと贅沢?
『少量ですが、確保してあります。出しますか?』
あるの!?
ええと、いや、いいです。だって十分おいしいもん。
それに。
「本当、モモカちゃんは美味しそうに食べるわよねぇ」
「だって美味しいですから」
みんなで食べるんですもの。十二分に、美味しいです。
ニコニコしながら、パンで掬いとったシチューを口にいれていると、ロニーさんがこんなことを言い出しました。
「今まで食べた店のいくつかでもそうだったけど、モモカちゃんが食べてるの見て、同じものを買いに行く人がちらほらいるな。あの店のオヤジに宣伝料せびりに行かないとかな?」
そう言って笑うロニーさん。
私はビックリして首を振ります。
えええ! 私を見てとかないでしょー!
「人が食べてると、美味しそうに見えて、とかはあると思いますが、私を見て、なんてことはないでしょう。美人なラナさんならあるかもしれませんけれど」
そう言うと、3人ともにないないと手を振られました。
えー。
「言っちゃなんだけど、こういうのは美醜じゃないのよ。前にもどこかにいたわよ、ものスッゴい平凡な顔立ちなんだけど、すっごく美味しそうに食べる人」
「ましてやモモカちゃんは美少女だもんな。そりゃ目を引くさ」
「びっ……!?」
美少女って、誰だ……!!
『モモカは以前の日本人らしい顔に、こちらの西洋風の顔が交ざったため、まるでハーフのような顔立ちになっています』
転生の余波だった!
でも、そうか。この世界の私はカワイイのか。
……。うん。
中身は私なんだから、調子には乗りません。
でも、やっぱり恥ずかしい。
私は体を縮めながら、残りをいただいたのでした。
みんな、そんな温か~い目で見ないでください。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回は、パンとビーフシチューの定番組み合わせでした。やっぱり……定番は異世界でもはずせないはず!
今回でやっと、5万文字です。やっと、目標の半分!
……そもそもこの話、10万文字も行くんでしょうか……?(ぁ
誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。




