24.ダンジョンの種類と初遭遇
明けましておめでとうございます。
今年もまったり更新いたします。
よろしくお願いいたします。
野菜の町、サイクを出たのは朝食をとってすぐでした。
今日は一日かけての移動なので、ロニーさんから預かった荷物を出す必要もなく、朝露のかかる野菜畑の中を、タタールの牽く荷車に揺られて進んでいきます。
次の行き先は、ハイクライク。
ハイクという町とライクという町が合併してできた町で、ダンジョンがあるのだそう!
「ダンジョンが、町の中にあるんですか?」
ゲームの中ではお馴染みのダンジョンですが、危険はないのでしょうか?
それにはロニーさんが笑い声をあげて答えてくれました。
「ハイクライクにあるダンジョンは、採取ダンジョンと呼ばれるタイプだな。あそこは香辛料やハーブがよく採れるんだ。町の名産だね」
「採取ダンジョン……ですか?」
ソフィアによると、この世界には『澱み』という力の偏りがあちこちにできやすく、その影響で魔物やダンジョンが生まれるのだそう。
人の多い場所には『澱み』が出来づらく、また、人が行き交うとだんだんと散っていくため、ダンジョンは人を呼び込んでバランスをとろうとする性質を持っているのだとか。
「ダンジョンの種類は主に2つ。採取と戦闘」
ロニーさんが二本指をたてながら説明してくれました。
「モモカちゃんは、ダンジョンっていうと、魔物がいっぱい出てくる戦闘ダンジョンを思い浮かべただろ?」
首肯く私。ロニーさんは、けど、と続けます。
「そういうダンジョンもあれば、いろんな素材がとれるダンジョンもある。両方の性質を持つものもあるけど、そういうのは珍しいし、どっち付かずな感じになるから割りと人気がない」
ロニーさんの説明を、うんうんと相づちを打ちながら聞きました。
「採取ダンジョンは、一般の人も入れるぐらい危険な魔物がいない所だ。試しに入ってみるかい?」
笑顔で聞いてくれるロニーさんだけれど、私は頭を横に振ります。
いくら危険は少ないと言われてもダンジョンなんですよね?
『モモカ、採取ダンジョンには最奥以外、害のある魔物は出ませんよ。ダンジョンの仕組み的に、大勢の人間に何度も周回してもらわなくてはいけないので』
そう言って目の前の私にしか見えない板に表示されたのは、ダンジョンの仕組みの図解。
戦闘ダンジョンは『澱み』を直接魔物に変換して、それを倒してもらうことで偏りを解消するタイプ。
採取ダンジョンは、たくさんの珍しい植物や鉱物を配置することで人を呼び、何度もダンジョンの中を歩き回ってもらうことで『澱み』を散らしてもらうというタイプみたいです。
安全が確保されているほど、歩いてくれる人が増えるということなので、安全性が高くつくられているそう。
うーん、でも。
「また今度にします。今はあまり興味がないので」
そもそも、私は今、安全第一モードなのです。
自分から危ないところに行くのはいけないのです。
『……安全ですよ?』
ダメだよソフィア! 私の安全基準が揺らぐ!
フィールドでも、すぐそこに見えてるからって藪の中に入っていきかねない私が見えるから!
『……了解しました。モモカが危険な時はなんとしてでも止めます』
……。ソフィアが違う方向に解釈したような気がする。あれ?
タタールの牽く荷車は、順調に進んでいきます。
― * ― * ― * ―
もうすぐ昼休憩予定地、というところで、荷車が止まりました。
荷車は先程、明るい森の中に入ったばかりです。
するとラナさんが、鞘を抜かないままの剣を取り出しました。
「どうしたんですか?」
「うん、魔物の気配がするの」
……え?
「まっ……魔物って」
「大丈夫。モモカちゃんはここにいて。すぐに戻ってくるから」
そう笑うとラナさんは荷台から降りて、森の木の蔭へ走っていきます。
ええええっ! だ……大丈夫かな?
そう思ってオロオロしても、ロニーさんもオラヴィさんも平常通り。
「大丈夫だよ、モモカちゃん。ちっちゃいネズミかウサギだから」
軽く笑うロニーさんだけれど、私はハラハラしっぱなしです。
けれども、そうこうしていると、すぐにラナさんが戻ってきて、私に手を振りました。
片手に、何か持っています。
「ただいま、モモカちゃん。モフモフしたの捕まえて来たわよ」
「モフモフですか!?」
うってかわって荷台から身を乗り出した私に、ラナさんが近寄ってきてくれます。
クスクス笑われたけれど、関係ないです。モフモフ!
はい、と言って見せてくれたのは……
「わああっ カワイイ!」
白くて真ん丸い毛玉に、長い耳がちょこんと出ていて、小さな赤い目がこちらを不思議そうに見ています。
ラナさんの片手に乗るほどのそれは、ぬいぐるみのような、真ん丸いウサギでした。
「カワイイでしょ。跳兎っていう最弱の魔物よ。魔物だけどこの通り大人しいの」
「えっ、こんなカワイイ魔物もいるんですか?」
驚きです。魔物ってなんか、グワーッとして、怖い顔をしたものなんじゃないでしょうか。
ふふふ、と綺麗な笑顔のラナさんが、跳兎を持ったまま荷台に戻ってきます。
「愛らしい姿を持つ魔物もたまにはいるわよ。跳兎ぐらい敵意のないのは少ないけれど。従魔師じゃなきゃ町には持って帰られない、旅の間だけのペットね」
そう言ってラナさんに撫でられる跳兎は気持ち良さそう。
うわぁ。こんなカワイイ魔物がいるなんて!
『ハイクライクのダンジョンにいる魔物は、この跳兎です』
……。
やっぱり、ダンジョン入ろうかな?
お読みいただき、ありがとうございました。
亥年の始めに、猪で始められました!
モフモフもあるよっ!
楽しくハッピーエンドになるようがんばります。
また、誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。




