23.野菜の花とゆらゆら
今回は野菜畑を回ります。
「うわぁあ!」
野菜畑は、どこまでも続いているようでした。
ラブロの背の上から見てこうなのだから、普通に歩いていたら、果てなどないように見えるでしょう。
ほとんどは緑の葉ですが、所々に白やピンク、黄色の柔らかい色の花が咲いていて、とてもかわいいです。
「あれは何の花かなぁ」
道の脇に、ぼんぼりのように白く小さな花が集まった花が咲いています。
「んー、わかんないな。野菜の実はよく見てるけど、花ってあんまり見てないからな」
『あれは、ニンジンです』
ロニーさんの返答の後に、ソフィアの解説が入りました。
ニンジン! って、こんな花が咲くの? 異世界だと違うのかな。うわぁ。
「あっちもキレイ」
朝顔みたいな花が咲いてる。数は少ないけど。
あれは観賞用なんだろうな。
『あれは、サツマイモの亜種です』
サツマイモ!? サツマイモの花って、朝顔みたいなの!?
いや、異世界だからだよね。めちゃくちゃだなぁ。
あ、ハイビスカスみたいのが咲いてる! これは普段私が見る赤いのじゃなくて、黄色いの。
『それは、オクラです』
嘘でしょ、ソフィア。さすが異世界……。
だけど、けっこうよく知ってる名前の野菜があるんだね。
『名称は近似する植物の名で案内しています』
近似する、か。だから花はいろいろなんだ。面白いなぁ。
『……』
「あ、この花はこの髪飾りのに形が似てるわね」
ラナさんが指したのは、柵に留められた背の高い植物に咲いている、紫の花。
下を向いていた花を見るために降りてみると、それはヒラヒラとした花びらのついた綺麗な花でした。
薄紫の花の真ん中にたくさんの黄色い花芯が伸びていて、なるほど髪飾りの花によく似ています。
もしかして、この花がモデルなんでしょうか。
「色違いですね。すごくかわいいです! 何の野菜でしょう?」
ラナさんが、さぁ? と首をかしげて、だけれど私の耳にはソフィアの解説が入ります。
『これは、ナスです』
ナス! ナスって、こんな時期だっけ? 花がキレイなのは知ってたけど、こんな花なんだ。
そっか、この髪飾りはナスの花だったんだ。
さすが野菜畑の町。おそれいります。
そこからも、ラブロのふかふかの背に乗ったまま、いろんな花を愛でながら移動しました。
異世界特有の野菜もあって、とても面白かったです。
― * ― * ― * ―
お昼はジャガイモ畑が見渡せる丘の上で食べることになりました。
なんと、ジャガイモ生地のビスケットに、野菜と肉と一緒に、薄くスライスした柑橘系の果物が挟まれたものなんです。
新食感な上に、知らない組み合わせ。
絶対に美味しくないと思っていたんですが……。
なんで美味しいんだろう? すごい不思議です。
この果物の酸っぱさが、甘辛い肉とマッチしてて、そこにビスケットのパリッとした食感がアクセントになっていて絶品なんです。
この町の名物携帯食だそうです。
うわ。ハーブティーとの相性バツグン!
これもここの畑産? そーなんだ。
すごいなぁ。
いいなぁ。
美味しいなぁ。
自然と笑顔になってきます。
白く揺れるジャガイモの花畑の中、ゆったりとした風と時間が通りすぎて、春の暖かい陽気が私たちの体を包みました。
ゆらゆら、ゆらゆら。
温泉でも、極楽天国と思いましたが、こんな場所にも天国はあったようです。
ラブロを背もたれにして、しばし食休みしましょう。
― * ― * ― * ―
町への帰り道は、タタールに乗せてもらうことになりました。
と、いうか頼みました!
「バランスとるの難しいから、絶対に持ち手を離さないで」
タタールにかけられたハーネスの余り紐を持ち手にして、いざ出発です。
「はわっ。あわわわわ」
動きに関しては、ラブロと変わりないのですが、タタールはツルツルしています。
「すっ……すべ……すべりゅ」
かみました。
とりあえず舌まで噛まないように、黙って掴まることだけに集中することにします。
手綱をもつオラヴィさんがハラハラしているのがわかります。
当の乗せているタタールは堂々としていますけれども。
ロニーさんとラナさんは分かりません。
何せ隊列が、タタールとオラヴィさんが先で、後ろにラブロと手綱をもつロニーさん、反対側にラナさんなので。
後ろを見る余裕などありません。
でもたぶん、ハラハラさせていると思います、ごめんなさい。
『個体名、タタールの動きのパターンを解析完了しました。スキル:テキパキにより最適化します』
を?
ゆっくりとタタールを乗りこなせるようになりました。
おおお! ソフィアありがとー!
『テキパキ』の自動化がすごいです。
まぁ、以前より運動神経が良くなっていることも理由のひとつなんですけど。
持ち手は放せないけど、周りを見渡すことはできます。
後ろをちらっと見てみると、驚いた顔のロニーさんと、驚きながらも笑顔で拍手してくれるラナさんが、誉めてくれました。
ふふふ。
町に帰った後は、ラナさんと服を見に行って、それからまた一緒に温泉に行く約束なんですよ。
すごく楽しみで、私はにこにこしながらタタールの背に揺られるのでした。
お読みいただきありがとうございました。
いろんな野菜の花を出してみました。機会があれば、本当はどんな花か調べてみてくださいね♪
綺麗な花ですよ(*´ω`*)
さて、このお話で年内最後の更新となります。
年末年始は忙しくなりますので、次の更新までには間が開くと思います。
ご了承ください。
また、誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。
ではでは、よいお年を。




