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02.街と証明書

 私は丘の上に立っていた。


 見えるのは草原に疎らに生える木々、その左手奥には森、右手奥には城壁に囲まれた街。

 街。


 すごい。

 転生して降り立ったら、どこへいけばいいのかさっぱり分からない森の奥、とかじゃないんだ! すごい親切! 


 はしゃいでいると、もっと親切なものがやってきた。


『こんにちは、モモカ。はじめまして。これからあなたをサポートする、サポートスキル≪ナビ≫のソフィアです。よろしくお願いします』


 耳に心地よい女性の声が聞こえる。

 あたりに人の姿は見当たらない。スキル? ナビ?


『はい。私はあなたの持つスキルの一つです。あなたのこの世界での生活をサポートいたします』


 えぇー! わぁ、すごい! 親切だぁ!! 


『さっそくですが、左の胸ポケットをご確認ください』


 ん? 胸ポケット? そんなのあったかなぁ? って。


「服装変わってる!」

『はい。あなたは15歳の少女に転生しました。その時にこの世界に合った服装や装備品、金銭を付与されています』

「15歳?!」


 なんでそんな若い……ぬぉう! 髪が、ええと何色だこれ。蜂蜜色! 私、一度も染めたことないのに!

 あれだ。転移に近い転生じゃなくて、本当にこの世界の人に転生しちゃったんだ。


『はい。あなたから『目立ちたくない』という意思を受け取り、あなた自身をベースにこの世界にいても不自然のない姿に変更されました。ちなみに他の転生者はだいたい黒髪です』


 ぬぉう……そっか、黒髪は目立つのか。

 私、自分の黒髪好きだったんだけどなぁ。仕方ない。


『黒髪の人は稀少ですが、存在しないわけではありません。変更を申請しますか?』

「いえ、目立つならいいです」


 目立ったっていいことないもん。ひっそりコツコツのんびり生きるのだ。


『では、説明を続けます。左の胸ポケットに、カードが入っておりますので、ご確認ください』


 ああ、そうだった。左の胸ポケットね。

 カード、これかな? 免許や保険証より一回り大きいサイズのカードが入っている。定期入れのサイズだね。

 二つ折りになっていて、カードというより、財布に入れるのが不便なスタンプカードみたいな。

 外側が茶色みがかった黒で、開くと中に不思議な文字が書かれている。ええと……。



――――――――証明書――――――――


[名前] モモカ・ヤマ=ノウチ

[年齢/性別] 15 / 女

[種族] 普人族

[発行元] ブライハイド王国 ノウチ村分教会

[特記能力] 読み書き,四則演算,生活魔法,


―――――――――――――――――――――



 わ、これもしかして。


「身分証?」

『はい。村を移動する平民が教会に発行してもらう一般的な証明書です』

「わぁ! ありがとう! はじめから身分証があるってなんか安心だね」


『この世界では15歳で一人前と認定されます。所謂成人ですね。村に身寄りがなかったり、貧困による出稼ぎのために街に出る人は15歳が最も多く、あなたもその一人であるという設定です』


 あ、設定とかあるんだ。そうか、15歳までこの世界で生きてたことになるんだものね。必要だよね。


「詳しい設定とか、覚えていた方がいい?」


『そうですね……ノウチ村はここから北西にある開拓村の一つです。あなたはそこに付属する『ヤマ=ノウチ村』で生まれましたが、たまたまノウチ村に住む祖母のところにいる間にヤマ=ノウチ村は魔物に襲われ、あなたは唯一の生き残りとなりました。その後しばらくは祖母に育てられ、祖母が亡くなってからはノウチ村の教会で育ちます。15歳になったので、独り立ちするために街に出てきた、ということになっていますね。なお、この世界では出身村の名前を名字として使うのが平民の常識です』


 はう。

 とりあえず、小さい頃に家族をなくしておばあちゃんと過ごしてたけど、おばあちゃんも死んじゃって天涯孤独に。

 教会で過ごしてたけど、成人になって追い出されたから、街に出てきたのね。納得。


 名前の変なところに区切りがある理由もわかった。


『そういうバックホーンを念のため用意してありますが、忘れてしまっても都度私がフォローしますので、ご心配なく』


 あ、なんとなくでも大丈夫そう。

 ありがとう、ソフィアさん。


『いえいえ。あ、ちなみに分かりやすくするため、音声案内と共に文字案内も表示しておりますが、オフにすることも可能です。いかがなさいますか?』


 ──そう。さっきから字幕のように邪魔にならないあたりに文字が浮いてソフィアさんの説明の概要が綴られている。


 実は私は言葉を音で聞くより、文字で見る方が覚えがいい。

 人の名前を自己紹介されるよりも、名札をチラ見する方が覚えてしまうのだ。まぁ、名前を覚えても顔を覚えられないという致命があるのだけど。


 これは便利。私にピッタリです。ぜひこのままで。


『わかりました。では、さっそく街に向かいましょう』


 ドキドキの街デビュー。

 この世界で始めて街に出る子もこんな気分なのかなぁ。

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