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18.お風呂と事情

 


 サイクの町は、野菜作り、つまりは農業で支えられた町だ。


 裏通りから見える家の裏にも、たまに畑があったりする。売り物ではなくて、家で食べる分だろうけれど。



 そういうのでもホッとするのは、私が田舎育ちだからだろう。


「町に入るとき見えたんだけど、タイクに穀倉地帯があったように、サイクには畑が広がっていてね。さらに町中にも畑があるのが特長なの。ホントに畑に埋もれてるから、出るときに見られるかもね」


 ラナさんは、荷台の端に足をかけて、立ったまま言う。

 しかも。


「土まみれになるからなのか、それともお湯が沸いてるから野菜を作り始めたのか。ここには温泉が何ヵ所かあってね。そこに誘おうと思ってたのよ」

「温泉!?」


 温泉ってあれよね、旅館にあるような! つまり、お風呂! 



 ここで『生活魔法』のことを紹介しておこうと思う。

 この世界で2人に1人は使える超便利魔法。それが『生活魔法』。


 だいたいが、コップ一杯の水を出す『出水』、ろうそくの火ほどの火を灯す『火種』、水で濡らした布で拭う程度に体や装備を清潔にする『清浄』、この3つのセットでたまにどれかがなかったり、逆に増えてたりするらしい。


 普段はこの『清浄』で、体をきれいにしたり服をきれいにしたりするわけだけれど、手軽なかわりに物足りない。

 布で拭う程度に、だから石鹸で洗い、お湯で流すほどにはならない。



 つまり。



 わぁーい♪ 待望のお風呂だぁ~♡♡♡



「モモカちゃん、ものすごい嬉しそうな顔してる。温泉好きなの?」


「好きですぅ♡」


 きれい好きで風呂好きの日本人だから、とは言わない。

 前世では割りとカラスの行水と言うのか、お風呂の時間は短かった。

 清潔にしておけばそれでいいだろう、っていう、まるで男の子みたいな方針で入っていたけれど、それは暖かいお風呂がいつでも身近にあったからなのだとわかる。


 離れてわかる、その大切さ。


 今度いつ入ることができるか分からないし、ゆっくり入ろう!



 そう思っていたら、しみじみとロニーさんが頷いた。


「そうだよな、町にある銭湯と温泉じゃ、なんか違うもんな」


 ……え?


 銭湯?

 町にある?


 え? ソフィア? 


『この国の町には必ずと言っていいほど銭湯が設置してあります。過去に勇者が清潔にすることで病魔を退けることができると広めました』


 ちょ……! じゃあ、今までの町にも、お風呂あったの?! 


『ありました』


 うわーん! 言ってよ、ソフィア~! 


『……』


 打ち拉がれているうちにも、話は進んでいたらしく、ラナさんにはこう理解されたらしい。


「そうね。銭湯じゃ他の人も沢山いるのが普通だから、モモカちゃんじゃ気後れしちゃうんでしょ」


「う……ぁ、ハイ」


「温泉は温まるし、石鹸も良いものが置いてあるし、個室もあるからゆったりできるし。ねぇ、一緒に個室借りましょ。二人で使ってもゆっくりできるとこ」


「……そうですね、ラナさんとなら」


 うきうきしているラナさんを見ていると、コレで良かったのかも、と思い直した。

 前世でも、温泉は行ったことはあっても、銭湯には行ったことがない。


 温泉でも知らない人の前で脱ぐのは気恥ずかしかったものだ。

 ラナさんは、知り合って間がないものの、なんだか安心感がある。


 うん。ねぇソフィア。個人や宿にはお風呂はないのね? 


『はい。相当な高級宿や温泉宿、中高位の貴族邸ならありますが、一般家庭では銭湯に通うのが通常です』


 そっか。じゃあ、やっぱりこちらのお風呂に慣れる練習をしてから、のほうがいいね。

 ありがと、ソフィア。


『いいえ。あと……モモカ』


 ん? 




 ― * ― * ― * ― 




「ええと、これですね」

「うん、ありがとう。じゃあ楽しんできて、モモカ」


 午後。

 みんなでご飯を食べたあと、温泉街の近くで、丈夫な木箱の荷物を受け渡したあと、ラナさんと二人で下ろしてもらった。


「モモカちゃんと、美味しいものを食べたい!」と言うラナさんのリクエストにより、昼食は控え目にした。

 別腹はないのです、申し訳ない。



「よーし、まずは温泉! 洗いっこしましょ」


 笑いかけてくれるラナさんの言葉に、ドキッとする。


 大丈夫かな?

 自分の体を見る。


 それを見たラナさんが、やっぱり個別にするか聞いてくれる。ちょっと残念そうに眉尻を下げて。


「いえ、……ちょっと相談したいこともあるので、一緒に入ってほしいです」


 入りながら、お話もしましょうと笑う。

 ラナさんは、任せといて! と先導してくれた。



 ラナさんがこの温泉街に来るのは6度目だそうだ。そのうち3度はここと案内してくれたのは、少し奥側にあった大きめの宿。


 えっ、大丈夫? ちょっと高そうなんだけど。


「ふふっ、大きさにびっくりした? ほとんどが個室になってて、2階や3階にも温泉が引かれてるの。その割にリーズナブルなのよ」


 なんでも、普通の宿の個室みたいなところが、浴室と脱衣場になっていて、受付で鍵を渡されそのまま案内なしに客だけで向かう……本当にこちらの宿の方式そのままみたい。


 ただ、別館がきちんとした案内もある個室になっていて、そちらは高いのだとか。


「でも景観が素敵なんですって。一度は見てみたいわね」


 受付に銀貨を何枚か出しながら、ラナさんが笑った。


 

お読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。


次は……またちょっと重いかもしれません。

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