16.もっふもふと決意
『おはようございます、モモカ。只今4時半頃です。起きますか?』
ソフィアの言葉に、私は上半身をゆっくり起き上がらせた。あれ?
「あら、おはようモモカちゃん。起こしちゃったかしら」
「おはようございます、ラナさん。いえ、普通に目が覚めたんです」
今日はまだラナさんがいた。
でも、すっかり準備ができて、出掛けるところみたい。
「そっか、私は朝の訓練にいってくるから、もうちょっと寝てていいからね」
そう言って鞘に納めたままの剣を持つ。
……なんかこのままベッドにいるのもイヤだな。
「いえ、ずっと荷車で移動してるだけで疲れてませんから。一緒に行っていいですか?」
「あら、見てても暇よ? ……でもそうね、厩にオラヴィたちがいるかもしれないわ。行く?」
「行きます!」
そうだ! 昨日はもふもふしそびれてたんだ!
今日こそはもふらせてもらおう!
私が急いで寝台から降りて、用意すると、ラナさんが、ふふっと笑って厩まで案内してくれた。
厩には、何匹かの動物たちがいた。
馬に近いもの、鹿っぽいもの。犬?……になんか混じった感じのもの。ええと、なんだっけ? ハイエナ?
カエルっぽいものがいて、一瞬ビクッとしたけれど、ラナさんの反応の方がすごかった。
「……ラナさん、カエル苦手ですか?」
「……(こくこく)」
固まって青い顔をするラナさんを、カエルっぽいのから庇いながら、先へ進んだ。
カエルっぽいのをお世話している人が苦笑していた。よくあることなのかもしれない。
少し奥側には、ラブロの他に、ちょっと怖い顔をした馬みたいのと、大きな猪がいた。どちらも牙がスゴい。
「おはよう、オラヴィ。モモカちゃんと、ラブロとタタールを見に来たわ」
ラブロと猪の間から、オラヴィさんが顔を出してお辞儀した。
そう言えば、町に着いたとき荷車を牽いていたのはこの大きな猪だった。
「この猪さんが、タタールですか?」
これに答えたのは、オラヴィさんではなくラナさんだった。
「そうよ。この子はタタール。ラブロと交代で牽いてくれてるの」
そして、ぽんぽんと頭を軽く叩く。
それを見たオラヴィさんが、ちょっとムッとして、鍛練はいいのか、と言った。
あ、と言って振り返って行こうとしたラナさんが、ピタッと止まる。
あっ、と言って私はオラヴィさんに言った。
「厩の入り口まで、ラナさんを送ってきます」
ラナさんはゴメンねーと、私の腕をとった。
誰にだってどうしてもダメなものというのはあるものだ。
戻ってきてからの第一声は、もちろん。
「ラブロを撫でてもいいですか?」
オラヴィさんは、ふと笑って首肯くと、猪のタタールの向こう側に回っていった。
私はラブロの首すじを、そっと撫でた。
ふわわわわあぁああ!
なにこのふっわふわ! 高級な絨毯の上に寝そべったよう。高級な毛皮だってここまでふわふわしてないよ。めちゃめちゃ気持ちいい!! うわぁ! 幸せだよぅ~! あ、背中はちょっと毛足が短い。温か~い! こっちもこっちで幸せなさわり心地。この、指通りの感触が。ね。ね? なんて素敵なんだろう。これで、耳や尻尾を触ったら……。ううん、それはちゃんとお伺いをたててからにせねば。まずは、アゴの下から……あ、ここは硬めの毛とスゴく柔らかい毛が混ざってるんだ。おおー面白~い♪ 次お腹っ! お腹行ってもいいかな? ダメかな? ちょっと脇に近い辺りぐらいならいいかな……ふわわあ! 柔らか~い♡
そんな風にラブロを堪能していると、唖然とした声が聞こえた。
「……君は魔物が怖くないのか」
猪の向こうから顔を出したオラヴィさんだ。
ええと、魔物? 魔物は怖いよ。遭ったことないけれど。
『モモカ、ラブロはヒュージ・ボレアス・ドッグという種類の魔物です』
あ。
『ちなみにあちらはタイラント・ボアという種類の魔物です』
ソフィアの案内板が、大きな猪を指す。
そっか。
「ラブロって魔物だったんだ」
「知らなかったのか」
オラヴィさんは呆れたような目をしている。けれど。
「でも、関係ないや。ラブロは可愛いし、いい子だもん」
私は再び、ラブロの首すじを撫でる。
ふわふわ、もふもふ。ああ、幸せ。
それからも暫くラブロを堪能させてもらった。
その間、オラヴィさんが何をしていたのか全く分からないぐらい夢中だったので、時間を知らせてくれたときは、苦笑いしていた。
けれど、とても優しい目をしてくれていたのが何故か印象に残る。
一緒に厩を出ると、ラナさんが待っていて、一緒に宿の向かいの食堂へ行こうということになった。
食堂で暫く待つと、ロニーさんがやって来て、美味しいパンと一緒に楽しく朝食をとった。
前情報通り、本当に美味しいパンだった。
慌ててソフィアに、収納箱に入れたらどれぐらい持つのか聞くぐらいに。
『持つ量を少し縮小すれば、時間停止状態で持つことができる、と内緒で伝えてください』
と、言われたので、こっそり相談したら、パンをたくさん買っていくことになった。わーい♪
そんなことをしている間に、私は悩みが吹っ飛んでいたのに気がついた。
そうだ、私は私で、それ以上でもそれ以外でもない。
ならば私は私としてしかいられないのだから、私のままどこまでやれるかやってみればいい。
立派な事なんてできるわけがない。
立派になんてできるわけがない。
神様だって使命なんてくれなかった。自由に生きよと言ってくれていた。
私は私だ。
私のままで行く。
そう、笑顔で決めることができた。
落ち込むこともあるけれど、モモカは元気です。
次からは、平常通り。
ですが、ちょっとストックがやばいので、ゆっくり更新になるかもしれません。
お読みいただき、ありがとうございました。
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