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15.罠とあの日の思い

今回ちょっと鬱になります。


 

 


「……ま、違うだろうな」



 ただの罠じゃない、ってどういうこと?


 私は前に止まったままの荷車を見た。

 道は緩やかなカーブを描いていて、荷車の向こうは見えない。


 ロックリザードは、その辺りに倒れているのかな。だけど、獣の鳴き声とかは聞こえないんだけど。


「緊急用の麻酔薬で眠らせて暴れないようにしてあるが、大人4人で見張りながらじゃ絶対に動かせない。オラヴィに手伝うよう頼んだから、俺たちは周辺の見張りとモモカちゃんの護衛だ。必要があれば、連れて逃げること。いいな?」

「了解」


 麻酔で眠ってるから、鳴き声とか聞こえないのか。苦しんでなくて良かった。

 え? でも今度は私たちが逃げなきゃならない事態になるかもしれないの?


 ホントに、なんの罠なの? 


 私は、一緒に荷台に乗ったまま、周囲を隙なく警戒するラナさんの、裾をちょっぴり握った。


「ん? どしたの、モモカちゃん。大丈夫よ」


 ラナさんは、裾に気付くと目元を少し弱めて、安心させるように優しく笑んでくれた。けれど。


「あの、私、ヒールが使えます。それで少しは牽獣さんを癒せないでしょうか?」


 私としては、見えない悪い人や企み、悪意害意より、そこにいるだろう癒しを求める存在が気になってしょうがない。

 ほんの少しでも気休めでも、してあげられないだろうか。


 すると、二人は目を見合わせて、やがてロニーさんが、あー、と声をあげた。


「うん、確かに一手は一手だね。けど、リスクが高い」

「リスク、ですか?」


 こてん、と首をかしげる。

 ラナさんが私の頭を撫で出した。


「モモカちゃんが狙われる確率を上げるリスク。ヒールはそれだけでも、それなりに有用なスキルよ」

「あ」


 そうだ。私は、できるだけ安全に過ごさなくてはいけない。それが『収納箱』の役目だから。


「もうすぐ脇に寄るから、すぐに出発して町にこの事を知らせた方が早いし正確だ。幸い毒も、あの巨体には効かないものだったし、それでなくてもヒールは毒には効かないだろう」


 そうか、毒には『キュア』か。

 使えるけれども、私の開示ステータスには載ってない。使えばそれこそリスクが上がる。


 私に今できるのは、大人しく運ばれること。

 できるだけ早く運ばれれば、倒れている牽獣さんの苦しさも早く終わるはず。


 私を撫でるラナさんを見上げる。


 私が持つ『聖属性魔法』は、自分を守ってくれる誰かが倒れたときに使うものだ。癒して代わりに戦ってもらうために。自分の安全のためだけに。



 ああ、なんだ。このスキル構成。

 全部、他人に守られるためだけのものじゃないか。


 自分だけは安全なところにいて、高みの見物をするためだけのものだ。



 『全ての魔法が使える能力』だの『他人を魅了する能力』だの『他人の能力を奪える能力』だの。

 神様は欲がどうたら言ったけれど、とんでもない。

 どれも自分から動いて、自ら矢面に立たなければならないものばかりじゃないか。


 確かに私にはそんなものは無理。


 なにが「今度は誰かの役に立ってみたい」だろう。



 ここにいるのは、前世と同じ、誰かの迷惑にしかならない私だ。



 やがて、道の脇に寄せられたロックリザードのお腹を見ながら、荷車は進んだ。

 盗賊やら何やらは、出てこなかった。


 サイクの町に早く着くために、荷車は昼休みを取らずに走り、予定よりもずっと早く到着するまで、私はずっと落ち込んでいた。



 走っている間、牽いているのがラブロじゃないことに気がつかないほど、落ち込んでいた。



 ― * ― * ― * ― 



 予定よりも早くついたので、宿を取る前に1ヶ所配達することになった。


 ロニーさんに、頭をぽんぽんとされながら、リストの荷物を出す。



 なにやってるんだろう私。

 こんな風に落ち込んだ所で、何の役にもたたないのは同じじゃないか。


 私は私を奮い立たせる。

 奇しくも前世と同じように。


 私はできるだけ周りには『何の悩みもない』ように見せてきた。

 実際に私ごときの悩みなど、自分一人の何でもない不安のようなものだ。

 もっと深刻な悩みを持つ人がごまんといる。


「大丈夫」


 私は、大丈夫。


 延びをする。

 きっと宿について、温かいものを食べて眠れば、明日は()()()()()

 だから大丈夫。


『モモカ、モモカ』


 ごめんね、ソフィア。

 優秀なあなたの持ち主として見合うように、明日からがんばるから。


『モモカ……』



 そのまま荷車は、いくつかの建物に寄ってから宿につき、ニコニコ笑って夕食をいただき、部屋に入って横になった。


 外は夜。


 ああ、本当に、私は誰かの役に立てる日がくるんだろうか。



 ピクリとも動かないロックリザードのお腹の白さを思い出しながら、私は目を閉じた。







 ― * ― * ― * ― 







 朝。




 前世の夢を見た。



 自分なりに頑張ってるんだけど、全部空回りして失敗してしまう夢。


 なにもしないで居る方が、すべてうまく回って、私なんていない方がいいんだといつも思っていた。



 ……ダメだなぁ、私。

 寝て起きたら、全部リセットして忘れてるつもりだったのに。



 ここにいるのは、ちっとも前に進んでいない、ただの私だ。




 

すっかり落ち込んでいるモモカですが、

これが彼女の行動原理になりますので切って離せないものになります。


次回には解決(?)しますので、お待ちくださいませ。


お読みいただき、ありがとうございました。

また、誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。


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