11.初 と 初
ロニーさんとオラヴィさんでお店に荷物を渡し、私とラナさんは荷車の近くで見張り番。
ロニーさんの荷車以外にも、荷車が停まっていて、荷降ろしをしている。
「女の人はいないね」
「力仕事はどうしても男性の方が得意だし、護衛も男性の方が多い世界だしね」
他の荷車を見ながらそんなことを言っていると、一台の荷車から、護衛っぽい男性がこちらに近付いてきた。ラナさんの知り合いかな?
「荷車に若い女がいるなんてな。何? ダンナの付き添い?」
なんかニヤニヤしてる。知り合いじゃなさそう。
「あんた、どこの商会?」
ラナさんは余裕綽々、こう聞いた。うん、私は気配を消します!
「どこの商会~? そんなの聞いてどうするんだよ。ショボい荷車からこっちに移るか?」
そう言って親指で指したのは、幌のついた大きめの荷車。
それをラナさんが厳しい眼で見る。
けれど、それは一瞬で、次には笑顔でそう、と言った。
「次はどこに行くのかしら?」
「この町をいくつか回ってから、ヘルダラタックだな」
「まぁ、残念。私、護衛任務で逆方向なの。まぁ、モナハン商会は知ってるから『あなたのこと言っておく』わね」
ラナさん、張り付けた笑顔でそんなこと言ってます。
男性はニヤリと笑うと、わかったと言って立ち去った。
私はほぅと息を吐く。
「モモカちゃん、ちゃんと隠れてたわね。偉いわ」
「大丈夫でしたか? ラナさん」
見上げながら言うと、ラナさんはそっと頭を撫でてくれる。
「私は慣れてるからね。ロニーたちがいても寄ってくるのよ」
「ラナさん美人だからね」
「ふふ、ありがと」
お世辞だと思っていそうなラナさんだけど、ホントに美人なんだから!
「それより、隠れてくれててホント助かったわ。自分が標的ならあんな風に簡単にすむけど、違うとちょっと長くなっちゃうのよ」
え? そうなの?
「……私も対応方法、考えてた方がいいでしょうか?」
「いやいや、モモカちゃんは、逃げるか信頼できそうな人に隠れなさい」
『逃げられなさそうなら、私を使ってください!』
ふむむ。ラナさんのようなカッコいい対応はできなさそうです。
「ラナおまたせ。何かあったか?」
そこへ、ロニーさんとオラヴィさんが戻ってきました。
「大したことないわ。バカが出ただけ」
ラナさんは手をヒラヒラしている。
「なっ、モモカちゃんは大丈夫だったのか!?」
ロニーさん、絡まれたのはラナさんですよ。ラナさんの心配してください。
「それがね、聞いてよロニー! モモカちゃんは私が言う前にちゃんと隠れられたのよ!」
「おお! 偉いな、モモカちゃんは! 見つからなかったんだな!」
ラナさんはうんうんと肯いて、ロニーさんはがしがしと頭を撫でてくれた。ちょっと痛いです。
「『収納箱』は、隠れたり逃げたりするのも仕事のうちだ。所持者が傷ついたり命を狙われたりした場合、中の荷物の危機にもなるからな」
あ、なるほど。荷物係なのに、お仕事ができなくなっても代わりがいないんだもんね。それは気をつけなきゃ。
「ちょっと。モモカちゃん自身の心配しなさいよ。ねぇ?」
ロニーさんの手から奪い取るように、ラナさんが背後から抱き締めてくる。
「あ、すまない! 勿論、心配したんだよ?」
慌てて言うロニーさん。わかってますよ。
「大丈夫、わかってます。今は商隊での移動の実地研修中みたいなものですから。私は知らないことがたくさんですから、いっぱい教えてください!」
そう言うと、はっとした声が複数聞こえて、背後からの抱き締める力が強くなった。
真面目ね、そう呟く声が頭上から。すまなそうな視線が前から。
ええ? そんな真剣に取り合わなくったって。
身動きも出来ず、どうすればいいのか戸惑っていると。
「次、出発するぞ」
うわぁ! 低音イケボ! イメージ通り!
ふわふわワンちゃんのお世話をしていた、オラヴィさんが、声をかけてくれた。
初めてオラヴィさんの声聞いた! レアだレア!
密かに興奮していると、そうだな、とロニーさんが答えて、ラナさんがごめんね、と荷台に私を帰してくれた。
うーん、しんみりした雰囲気は好きじゃないんだけど。
むむぅ、と唸ってみるけれど、これもまぁたぶん異世界との文化の差なのだろう。
ゴトゴトと荷車に揺られて、先程より小さなお店に2つほど包みを渡したあと、冒険者協会に寄ってから街を出た。
冒険者協会? モチロン、私はお留守番だったので、中には入ってませんよ。
でも、酒場と併設って感じじゃなかったなぁ。どちらかと言えば、裏が工場にでもなってるのかなぁ?って感じだった。
次の町の名前はナイク。
ちょっと早く走れそうな名前に似ているなと思った。
お読みいただきありがとうございました。
更新がお休みの時にも、じりじりptやブクマが増えているのが嬉しいです!
とにかく日常が続くお話ですが……少しずつでも成長していけたらな、と思います。
誤字脱字ありましたら教えていただけると有り難いです。




