10. カイクの町とキャラ
長閑な草原と浅い森との景観の中を、幌のない荷車が進む。
牽くのは茶色い毛並みの巨大な犬。乗員は男女二人ずつで、一人は成人したての少女だった。
つまり、私。
私が最初に降り立った街、ヘルダラタックは、この周辺で一番の大都市だった。
ここを中心に、一日~二日以内で行ける街や村が複数ある。
カイクはそのうちのひとつなのだそう。
穀物や果物が実る、豊かな町らしい。
そういったことをロニーさんやラナさんに聞きながら、荷車に揺られる。
荷車の床に座って乗っているが、藁や布などで座るところが作ってあるので問題ない。ラナさんが作ったのだそう。
「モモカは、ホントに知識にムラがあるな。いや、込み入ったことを聞くつもりはないけどさ」
助手席に座ったまま、不思議そうな顔でロニーさんは振り返ってそんなことを言う。
私は曖昧な表情で流すしかなかった。
私の知識はソフィア頼り。今も半透明の板に浮かぶ文字が、私のいろいろなことをフォローしてくれている。
けれど、その中の知識よりもロニーさんたちが語る実地の知識の方がより詳しく、より地域性が高いのは当然のこと。
ソフィアが詳細な地図や図鑑を見ながら案内してくれてる感じで、ロニーさんは地元のガイドさんのイメージってところかな。
けれど、ソフィアもこの案内を聞いて、どんどんアップデートされている。
実際の町の中も、一度案内されたら完全に覚えていそう。
『もちろんです。迷子にはさせませんよ』
うん、お願いします。
特に私は人とはぐれる迷子が多いのでお願いします。
『了解しました。同行者3名と、獣魔1頭をマークします』
人の居場所のマークもできちゃうとか、ソフィアさんまぢチート。うん、絶対に悪用はしません。誓います。
揺れる、荷車を牽く巨大なワンちゃんの尻尾を見ながらのんびりとラナさんとおしゃべりをする。
そこに時々ロニーさんが口を挟む。
オラヴィさんは喋らない。もともと無口な人みたい。でも嫌な感じはしないな。
のんびりまったり、ガタガタと荷車は進む。
時々、同じような荷車とすれ違ったり、浅い森の中を通って緑の光を楽しんだり。
「退屈じゃない? モモカ」
「全然。なんだかワクワクする」
その答えにクスリと笑ったのは、3人とも。
「そういえば、モモカはいろんな場所を見てみたいから、うちの体験をしてるんだったっけ」
「私達も初めて村を出た時はこんな顔をしていたのかしら?」
「初めての荷車に乗った時もな」
「初クエストの時も」
そこから、ロニーさんたちの冒険談になって、それもまた楽しく聞かせてもらった。
初めての町到着なのに、すごく残念な気分になりました。
― * ― * ― * ―
カイクの町は、周りが穀倉地帯になっていて、中はヘルダラタックよりは小さいものの賑わっていた。
ラナさんは降りて、ワンちゃんの隣を歩いているけれど、私は荷台に乗ったまま。
周りをキョロキョロ見回している。
「この町は初めて?」
馭者の助手席に乗っているロニーさんが、振り返って聞いてくる。
「実は村から出てくる時、周りの様子も町の名前も見ないで出てきちゃったんですよ」
ソフィアが用意してくれた、通ったかもしれない町を覚えていない言い訳です。
「えー、今の様子からは想像つかないな」
「とにかく早く、大教会でステータスを見てみたくって!」
「あはは。そっちは、ちょっとらしいな、って思っちゃった」
おお、ごまかせた! ソフィアすごい。
「普通の教会だって、見られるでしょ? どうしてわざわざ大教会まで見なかったの?」
え? そうなの、ソフィア?
『モモカ、こう言ってください』
うん、ええと……。
「だって大教会でしかステータス表って出してもらえないでしょ? 初めて見たステータスをそのまま貰いたかったんだもん」
で、いいのかな?
「なるほど。モモカちゃんらしいわね」
ラナさんは、ニッコリ笑ってまた周囲の警戒に戻った。おお、ごまかせた。
『ありがとうございます。モモカのキャラのおかげですね。怪しまれません!』
キャラって何!?
私ってどんな風に見えてるのかしら。
ちょっと不安になってくる。
『ああ、ごめんなさいモモカ。周りには、素直でまっすぐな子だと思われているはずですよ』
そうなのかな?
『だからこそ、ちょっと突拍子もないことを言っても信じてもらえるんです』
それは微妙。
そんなことがありながら、今日の取引をする商店の裏口についた。
お読みいただきありがとうございました。
本文に書こうか迷っているのですが、モモカは元々精神年齢が低く、さらにスキルや生まれ変わった体のお陰で15歳より低めになっています。
身長は151㎝と前世と変わりないけれど、周りからは12~3歳に見られています。(貧しいと15歳より前に村を出されるので。)
誤字脱字ありましたら教えていただけると有り難いですm(__)m




