ただひとつ
僕は捨てる
なにもかも捨てる
幸福な手紙も
親密な写真も
めくるめく過去も
なにもかも全部捨てる
あるべき未来を夢見ることもやめる
残ったのは
君の静かな声
そのまっすぐな視線
この小さな手のぬくもり
洗い髪のほのかな香り
さやかに夜を渡る月の光
そして今ここにあるささやかなよろこびとかなしみ
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幸福は今ここにしかない。
そのことに気付くのに、僕はどれだけの歳月を必要としたのだろう。
ただひとつ残ったものは、この一瞬の時。