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身の上相談

作者: 高橋なつみ

 ――相談員の皆様、私の友達に関する悩みを聞いて下さい。


 ボールペンの先を次の行に移す。


 ――私の友達は、心が狭くて困ります。買い物の時、手持ちが足りなくて5千円借りたら、1週間しか経たないのに、すぐ返済の催促があります。


 ――彼氏を見せびらかしたくせに、私がその彼と仲良くなったら、彼氏を盗られたと騒ぎます。ちなみに、私の方から誘ったわけじゃないです。


 ――遊びにいっても、ジュースもケーキも出さず、迷惑なのかと勘ぐりたくなります。


 ――テスト前にノートのコピーを頼んでも、他の友達にはあげるくせに、私にはくれません。バイトやデートで忙しいから頼んでいるのに、妬まれているのでしょうか?


 こうやって書き連ねている間にも、怒りがフツフツと湧いてくる。一杯のお茶で冷静さを取り戻してから、再びボールペンを走らせた。

 

 ――正直、彼女の話はくだらないんです。聞きたくないんです。なのに、押しつけがましくて困ります。


 ――他にもいろいろあって、書ききれません。こんな友達とどう付き合えばいいのか、アドバイスをお願いします。


 文末に、住所と名前、年齢、性別を、間違えないように書く。掲載されたところで、「二十代の女子大生、M」と表記されるだけだから、神経質になることもないと思われるかもしれない。だれど、私にとってはここが肝心なんだから。


 採用を祈りながら、私は丁寧に便箋を折り畳んだ。


     ※

 

 それから毎日、大学の図書館で、新聞の「身の上相談室」をチェックし続けて2週間――祈りが通じた。


 回答者は、恋愛物からミステリーまで、幅広い作風をもつ女流作家だ。

 

「あなたにとって、友達とは何ですか?」から始まる回答は、私の訴えをことごとく否定し、叩きのめし、最後は「もうそろそろ、自己中心的な考えを改めましょう。まずは、あなたと友達でいてくれる彼女に感謝することです」と締めくくっていた。

 

 私は、コッソリほくそえんだ。


 ダメダメ、すぐ驚きの表情に塗り替える。


 そばにいたエリに、「ねぇ、見て、この相談」と、身の上相談が掲載された新聞の紙面を見せた。


「なに、この女。自分正当化しすぎだっちゅーの。こんなこと相談するなんて、信じられなーい」


 エリの声に、ユミも覗き込んでくる。


「ねぇ、これミカが投稿したんじゃない?」


「あー、ありうる。あんた何様、女王様キャラだし」


「あいつ、自分が人からどう見られてるかなんて、全然気がついてないもんね。絶対ミカだよ」


「この友達って、あんたのことじゃないの? あんたのカレシ盗っておいてさ、テストのコピーたかったりしてたじゃん」


「そう思う」と私が頷くと、「ほんっと、あれはひどかったよねぇ」「無神経女の極みじゃん」と、同情のシャワーが降り注いだ。


「これ借りていい?」


 エリは、新聞を持って他のグループの輪へ突っ込んでいった。

 

 

 やっぱり、みんなミカにはムカついてたんだ。


 あ、ミカがエリ達に近付いていく。


 エリ達の冷ややかな視線が、ミカに集中している。

 

 ざまぁみろ。


<了>



ほんとにあったんです、こういう相談。


姑が嫁のことを愚痴った相談だったんですが、「これ、もしかして嫁が姑の非道を訴えるために、姑を装って書いたのでは〜?」と勘ぐってしまうほどの、勘違い、かなりムリな自己正当化相談。


誰が見ても、「お嫁さん、かわいそう……」でしたわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] こういう小説を読むと、人間ってつくづく恐ろしいなあって思う。人間関係って本当に難しい。 ああ、明日からもうちょっと愛想よく振る舞おうっと。
[一言] 先日はコメントありがとうございました。お礼もかねて小説読ませてもらいました。 面白かったです。発想の転換ってこのことですよね!確かにこの方法なら、直接に非難するよりも、効果があるような気が…
[一言] 初めまして、読ませていただきました。 うん! 面白い! 冒頭の相談内容に、登場人物「エリ」と同じ感想を持ってしまいましたが、まさかこれが、他者を陥れるための策略だったとは。 不覚にもすっか…
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