1話 俺の異世界ライフが強制的に始まった
【弱肉強食。じゃあ、強いってどういうことなのだろう】
俺は中学校に行くバスの中で、いつも考えていた。
モテたい
だって俺、イケメンだもん! 運動もできるし、勉強も出来る! 俺超優秀! モテたい! 曲がり角で女の子とぶつかりたい! モテたい! 痴漢されてる女の子を助けたい! モテたい! モテたい! モテたいっ!
「俺はモテたいんだぁぁぁぁぁ!」
あ、ヤバい、声に出しちゃった。周りの人に変な目で見られてる。
「あ、人生終わったな」
呟いた直後に
「じゃあ、人生やり直す?」
え、何これ? まるで時間が止まったみたいに……
「聞こえてますかー?」
すごい、時間が止まっているということは……
「あの、聞こえてますか?」
何でも出来るぞ!例えば……
「聞こえてんのかって聞いてんの!」
「うぉ、びっくりしたぁ」
声のする方向を見ると、バスの通路に12歳くらいくらいだろうか? 桃色の髪をしたショートカットの、可愛らしい女の子が立っていた。これが、犯罪の香りがするという噂の、桃髪のロリッ子ってやつか。
「全く、これだから最近の若者は」
ロリッ子にはいわれたくねぇよ、と言ったら怒りそうだから言わないでおこう。
「ところで、誰? 時間を止めるってことは、もしかして、神様?」
「そのとおーり! 私は神様だよ! とっても偉いんだよ!」
マジか……神が来るってことは俺は選ばれし者だったのか……。
「で、その神様がこのイケメンな俺になにか用ですか?」
「『人生終わったな』って言ってたから、転生とかどうかなーって思って。来ちゃいました!」
「来なくていいです」
転生ってことは生まれ変わるってことだろ? つまり、この顔ではなくなっちゃうのか。めんどくさい。関わりたくない。ロリッ子に興味はない。
「えー、でもさぁ……」
「来ないでください。」
めんどくさい。だるい。モテたい。
「えー、でもさぁ……」
こいつ、しつこいな。
「来るんじゃねぇーよ! 誰だって一回くらい『人生終わったな』って思うことあるだろ!? それだよ! いいか!? 俺は今のこの人生に! この顔に! この顔面にめっちゃ満足してんの! 転生なんてクソだるいから! そんなことより、俺はとにかくモテたいの! ねぇねぇ、神様なら出来るでしょー? 俺をモテモテにしてよー?」
「えー、でもさぁ……」
「なんだよ!」
「もう転生の手続きしちゃったしぃ。と、いうわけで目が覚めたら異世界だから。じゃ、おやすみなさーい!」
桃髪のロリッ子、自称、神の姿が薄れていく
「ちょ、ちょ、ちょっとまって! お姉さん! 顔、顔はどうなるの! 俺の顔面どうなっちゃうの!? かお、おれ、の、か、ぉ……」
寝ちゃったのか。確か、バスの中で変なやつに会って、それで……
目を開くと、見たことの無い景色が広がっていた。青色? だろうか。俺はキョロキョロしながら、今、自分がどこにいるのか確認する。魚がユラユラ泳いでいる。可愛いな。
「魚!?」
俺は跳ね起きた。体が妙に重い。まさか水中? ジャンプしてみると、浮力でぐんぐんと上昇していく。やがて、水面から顔がでた。ここは町に流れる川だったらしい。絵に描いたような綺麗なレンガ造りの家が規則正しく並んでいる。少なくとも日本ではなさそうだ。
とりあえず地上にあがって、自分の体を確認してみる。隅から隅まで眺めてみるが、見た目に変化はない。走ったり、ジャンプしたりしてみるが、いつも通り優秀だ。水中で呼吸が出来ていた事以外に異常はない。てゆうか、転生とかいきなりすぎるだろ。
「あの野郎! せめてガイドしろや!」
ボソッと呟くと
「野郎じゃないよぉ。まあ、気にしないけどね!」
後ろから、あの憎たらしい声が聞こえてきた
「あんた、どこにでも現れるなぁ」
「ふっふっふ、ありがとう!」
「褒めてないから。いまの状況を説明してくれ」
「ではでは、説明を始めまーす! あなたは眠るように安らかに死に、あなたは転生しました! しかも! ただの転生ではなく、異世界転生でーす!」
「待って、俺死んだの!?」
「異世界生活は大変だと聞いたので、少し、ほんの少し、雀の涙ほど、腕力を強化させていただきました!」
「それは素直に喜んで良いのかな? てゆうか、俺は死んだの!?」
「この世界では!」
あっ、無視された。
「弱肉強食が当たり前となっております! まるでゲームのような世界観!」
今すぐにでもあんたを殺したいのだが。
「しかも! 条件達成で特殊能力を身に付けることが出来るのです! 猿やゴリラ、チンパンジーなど、お好みの能力を身につけることができます!」
「はーい、質問です。猿やゴリラ、チンパンジーの他にどんな能力があるのですか?」
「生物の能力だよ。 厳密にいうと生物の特性と身体能力かな!? 条件を達成することで、生物の能力を自らの力として、体に宿すことが出来るんだよ!」
「生物の力? 俺が水中で呼吸出来てたのってもしかして……」
「転生サービスで『トラフサンショウウオの力』をプレゼントしました!」
「強そうな名前だな。ところで、『条件達成で能力を身につけることができる』って言ってたけど、条件って具体的にはどんなのがあんの?」
「ふっふっふ、例えば! 猫をたくさん食べると『猫の力』! ゾウを一時間以内に素手で100頭殺すと『ゾウの力』! そんな感じです! 動物によって条件は変わってきます!」
前者と後者の難易度の差がすごいな
「『猫の力』にも種類があって、『猫の力~イエネコ~』とか、『猫の力~白虎~』とか!」
なるほど。ん?
「俺はどんな、トラフ……なんとかウオの力を宿してるの?」
「時間があるときに教えるよ。他の質問は無さそうだね。じゃ、行こっか」
「どこに?」
「私たちが寝泊まりするところを探しに!」
「えっ、私たち?」
「言ってなかったっけ? 私たちは一緒に生活するんだよ!」
「は?」
「私たちは一緒に生活するんだよ!」
「さっき聞いた。それ、俺が好きだからとかじゃないよね?」
「違います!」
「じゃあ何で俺と?」
「実は私はまだ神様じゃないのです……。神様になるには、この弱肉強食の世界で数年間生き延びなくてはならないという厳しい掟がありまして。」
神様も意外と大変なんだな。
「でも、好きなものを一つだけ持っていって良いらしいのですよ。」
は?
「で、私は、勉強も運動も優秀なあなたをこの世界に持ってきました! 思ってたより言葉遣いが悪くて少し残念ですが。」
「おまえ、ふざけんなよ!俺はあんたの付属品ってことか!?」
「はい! 雑誌のちょっと嬉しい付録みたいなものです!」
俺は頭を抱えて、応援団にも劣らないくらいの大声で叫んだ。
「なんてこったぁぁぁぁぁ!!!」
こうして、俺の異世界ライフが強制的に始まった。