090 攻防と存亡と
昨日の投稿をすっかり忘れておりました。申し訳ないです。
シューシュー、と僕を助けてくれたアルウェルト『シルウェル』が吐息を漏らす。
「え? ごめん、僕はシェーナみたいに君の言葉がわかるわけじゃないんだ」
生憎と僕にはその意図を汲むことができない。
とりあえずそう言ってはみたが彼は構わず、シュー、とさらに一声、アルウェルト『シルウェル』が漏らしたかと思うと、いきなり地を舐めるように滑り、ギルガースへと向かっていく。
いや、動いたのは彼だけじゃない。シェーナもだ。アルウェルト『シルウェル』と同時に動き始めていた。もしや、先のアルウェルト『シルウェル』の言葉は僕に向けたものじゃなく、シェーナとのタイミングの打ち合わせだったのか。
「ほう、我が『万物を断つ剣』を見てなお向かってくるとは、なかなか勇敢なことだ。流石は【神】、と言ったところか? しかし」
「『収束せよ』!」
ギィン!
『【英雄】を殺す剣』は【英雄】にまつわる全てを切れる、というギルガースの説明を信じるなら、奴が万を辞して出してきたあの『万物を断つ剣』は、『万物』……すなわち、本当にありとあらゆるものを断ち切るのかもしれない。
そう懸念もしていたのだが、魔力の槍は『万物を断つ剣』と打ち合っても切断される様子はない。『万物』というくらいだから、その切断範囲もおよそ物と呼べるものに限られるのかもしれない。
「シャァァァアアアア!」
アルウェルト『シルウェル』もシェーナに一歩遅れてギルガースへ襲いかかるが、
「『【英雄】を殺す剣』よ」
ギルガースは右手の『万物を断つ剣』でシェーナを捌きながら、左に産み出した『【英雄】を殺す剣』でアルウェルト『シルウェル』を迎え撃つ。
「アルウェルト『シルウェル』!」
あの剣はまずい。【英雄】に由来する全てを断つというあの剣が【英雄】の『遺物』である彼を切れぬわけがない。
そう思って咄嗟に叫んだが、それはいらぬお世話というやつであったかもしれない。
アルウェルト『シルウェル』はその巨体に似合わぬ素早さと巧みさでギルガースの剣をすり抜けながら奴へと迫る。
丸呑みにするかの如く、ずらりと牙の並んだその顎を大きく開く。
それはもはや、咬合などという生易しいものではない。斬首斧のごとき牙の大きさと力強さ。ギルガースの首を刎ね飛ばさんとしたその瞬間。
「『罪裁き【英雄】を殺す剣』よ!」
ギルガースが新たな剣を唱える。必殺の『【英雄】を殺す剣』に未知の剣を複合した形。まだ手札があるというのか。
詠唱に呼応し、突如アルウェルト『シルウェル』の頭上に、エクスキューショナーズソードから柄を取り払って巨大化させたような異様な剣が出現する。
一瞬の間も無く、その刃は猛スピードで落下した。落ちる先には大蛇の首が。
アルウェルト『シルウェル』の牙がギルガースの首筋に迫り、ギルガースの剣がアルウェルト『シルウェル』の首を落としにかかる。
お互いのタイミングはほぼ同時。勝敗を分けたのは、ほんの一瞬の差。ほとんど誤差のような、真実ただ一瞬。
しかし、その僅かな間が無慈悲に命運を別つ。
ズバンッッッ……!
落とされたのは、大蛇の首だった。人間の胴と比べても数倍太いそれが切り落とされる。『【英雄】を殺す剣』の切れ味をもってしても強靭な抵抗を伺わせる、巨木を切り倒すような鈍く力強い異音が響いた。
シェーナが驚愕と悲哀に目を見開く。動揺のままに叫ぶ。
「父さまっ!?」
「余所見か、【女神】?」
「ッ!」
一瞬の動揺も戦場では立派な隙だ。ギルガースはそれをみすみす見逃してくれるほど甘くない。
アルウェルト『シルウェル』を仕留めたギルガースが、シェーナに『万物を断つ剣』を振るう。慌てて槍で受けるシェーナ。咄嗟に反応できたのは流石の一言だが、追撃までは受けられそうにない。
すぐさま周囲の兵士に命じてギルガースを襲わせる。
ギルガースはわずか動きを緩め、されど襲い来る刺客に視線を向けすらしないまま、
「邪魔だ、雑魚ども!」
『柵のごとき剣』。
地面から生え出た剣がギルガースを囲んでいた兵を刺し貫く。
だが、普通の人間の兵であれば痛みや死への恐怖に足を止めるような致命傷であっても、僕に支配された彼らは止まらない。むしろ死に際の馬鹿力を振り絞るように心なしか力を増す。
「厄介な……『罪裁く剣』よ!」
斬首の剣。一度の詠唱で五本。
アルウェルト『シルウェル』に対しては地面と垂直に現れた刃が、今度は水平に出現する。
『柵のごとき剣』に貫かれてなお動いていた五人の首を刎ね飛ばし、ようやく死に体の兵の身体からすとんと力が抜けた。
そしてそのタイムラグはシェーナが体勢を整え直すには十分。
単純スピードで上回るシェーナが全力で退けば、ギルガースは追いきれない。
そのまま一旦僕と合流する。
「父さまっ! 父さまっ!?」
首を刎ねられ、牙のペンダントの姿に戻ってしまったアルウェルト『シルウェル』は、ギルガースがシェーナと兵士を相手取っている間になんとか回収できた。
『シルウェルの顎』を受け取ったシェーナが縋るように名を呼ぶ。
呼び掛けること数度、絶望に曇っていた彼女の表情が次第に晴れていく。
「……! よかった、よかった……! 父さまがまた死んでしまったら、私、母さまになんて……」
「アルウェルト『シルウェル』、生きてるって?」
「はい! 声が聞こえました。ただ、まったく無事というわけでもないようで。すぐに戦うのは……」
「厳しい、か。くそ、やっぱり僕しかないか」
今の攻防で改めて身に染みた。あのギルガース相手に何度も攻撃を叩き込むのは現実的ではない。フルパワーのグラディー『コーウェン』と戦った後の今ですら、奴はほとんど無傷に等しいのだ。
手持ちの手札の中で一撃で決め手になりうるのは、僕の『支配する五感』だけ。
……いや。
「あるいは、僕の能力でシェーナをありったけ『強化』すれば」
呟いたそれは名案に思えた。
すでに今の時点でスピードではギルガースを上回る彼女にギルガースを一撃で殺せるほどの火力を与えられれば、と思ったのだが。
しかし現実はそう上手くはいかない。
「……すみません、レウ様。それは、できません」
「どうして?」
「……【神】として覚醒しつつある私に【魔】の魔力を注いでしまうと、私の『神性』が過敏に反応してどうなるかわかりません。最悪、今すぐ完全覚醒して【神】になってしまうかも」
「何か困るの、それ?」
「多分ですが、【神】の私は【魔】の敵味方を判別できません。【剣の魔】より先にレウ様とリューネを殺してしまう可能性すらあるんです」
「あー……それは、困るね」
「はい。ですから、それは……」
「なら、これは最後の手段だ。どうしようもなくなったら使おう」
「レウ様ッ……!」
「僕はいざとなったら使う。全滅するよりマシだろ?」
「でも、レウ様もリューネも居なくなってしまったら、私は!」
「その時は、君は村に帰って平穏無事に生きてくれよ。王位も【神】も、全部忘れてさ」
「そんなこと……!」
「ま、それは今は良しとしよう。そうならないための方策を考えるほうが有用だろう?」
「……そう、ですね。……やはり、あの【魔】を倒すにはレウ様の『支配する五感』しかないと思います。レウ様が【剣の魔】に触れるために、私がその注意を引きます」
「いや、駄目だ。それじゃさっきまでと変わらない。今度はアルウェルト『シルウェル』も居ないんだ。ギルガースの意識を僕から反らすには、君以外に何か……」
「なら、俺たちの出番だな」
「ッ、マサキ!?」
「よう。困ってんなら仲間を頼れよ、アーク」
思案する僕の肩をぽんと叩いて、マサキ=ニシキギはそう言った。
いつのまに近づいていたんだ。全然気がつかなかった。
「『支配』した兵の指揮は? 君たちに任せたはずだけど」
「あの【魔】に大分殺されたからな。数が減ったってことで、指揮権はバークラフトとハーレルに集約した」
言われて、見れば確かに後方で声を張り上げているのはその二人だけ。残りのダヴィドとフリッツは弓を携えてこちらに手を振っている。
「手が足りないんだろ? 俺たちがシエラさんと一緒にあの【魔】の注意を引く。後はお前がなんとかしてくれよ?」
「あいつに触れられれば。だけど、危険だ。【剣の魔】はヴィットーリオ『ロゼ』なんかとは訳が違う」
「何を今さら。危険は重々承知だ。大丈夫だよ、死なねぇから」
「根拠も無いようなことを……。……君を危険に晒す。ごめん、甘えさせてくれ」
「おう! 任せろ!」
「では、私とマサキさんは【剣の魔】の左手側から、レウ様は右手側から攻めましょう」
「そんなに露骨でいいんですか?」
「どのみち、狙いを隠すのは難しいかと。こちらの攻め手が乏しいのはもう見抜かれているでしょうから。であれば【疵の英雄】の力を喰らったレウ様が一番【剣の魔】を討てる可能性があるのは自明で、だからこそ警戒もされます。なので、警戒されてなお私たちに意識を向けざるを得ないように、危険を感じてなお私たちの相手をしなくてはいけないように。私たちで先に【魔】を討つつもりで参ります」
「……まあ、長々と丁寧に作戦考えるような暇もないか」
マサキがギルガースをちらりと見遣る。
そこでは、バークラフトとハーレルが指揮する兵士たちとギルガースが刃を交えているが、当たり前のように彼らの力は【剣の魔】には遠く及ばない。
一人が『万物を断つ剣』で身体を縦に両断され殺される。一人が切れ味の無い『【英雄】を殺す剣』で頭蓋を砕かれ殺される。一人が『罪裁く剣』で首を刎ねられ殺される。一人が身長ほどの縦長な鳥籠のような形で展開された『塞ぎ留める剣』に股から貫かれて殺される。
殺される。殺される。殺される。
何人も殺される。
兵の数も、戦い始めた頃と比べると半数以下まで減っている。悠長にはしていられない。
シェーナ誰よりも先にその自慢のスピードで飛び出した。
「はっ、馬鹿の一つ覚えのようだな! まさかそのお粗末な誘導で我輩があの男に隙を晒すと本気で思っている訳ではあるまいな?」
嘲るギルガースに、シェーナは無言で産み出した槍をぶつける。
もちろん、それは容易く『【英雄】を殺す剣』に防がれたが、シェーナは攻めの手を緩めない。
突く。振るう。薙ぐ。時にはわざと『爆裂』で得物を自壊させタイミングを外してからまた瞬時に槍を作って攻める。
「ほぉう、なんだなんだ! ずいぶんといい成長をする! 先程までは素人に毛が生えた程度かと思っていたが、なかなかどうして我輩の太刀筋に適応し始めているではないか!」
何が嬉しいのか、ギルガースは満面の笑みで叫ぶ。
だがそれは、ギルガースの余裕の現れでもあった。奴はシェーナの苛烈な攻めも笑顔のままに捌き続ける。
「ふぅむ、欲を言えばもう少しやり合っていたかったが……まあ、やむを得んか」
『塞ぎ留める剣』。
ギルガースは自らの周囲にそれを展開し、握った剣ではなくその檻でシェーナの槍を受け止める。
安全圏の中の奴が構築したのは、『天駆ける剣』。三振り。
高速で射出された剣を、魔法で二重に強化されたスピードでかろうじて躱したシェーナだったが、体勢を保てない。崩れたところに檻を解いたギルガースが剣を振りかぶる。
「オオォォォオオオオオ!」
「むっ!?」
そのピンチを間一髪マサキが救う。
マサキの持つ剣は軍の制式であるなんの変哲もない直剣だが、幸いギルガースが受けたのは【英雄】以外には切れ味を発揮しない『【英雄】を殺す剣』。
「ほう、貴様は他の兵より大きな力を持っているのか? だがまあ、我輩の敵ではない」
「はっ、それはどうかな」
「うん?」
「見えて無ぇんだよ、テメェには」
「ははは、いいや、見えているとも。つまり……」
ギルガースの視線が右手側に……すなわち、こっそりと奴に近づこうとしていた僕に向かう。
まずい、と慌てて駆け出す。
「そちらが本命だろう?」
空いていた……いや、空けていた、のか。おそらくは初めから僕を斬るためにわざと使わなかったのであろう『万物を断つ剣』がこちらに向く。僕を両断せんと刃が煌めく。
「いいえ。やはり貴方には見えていませんとも」
シェーナの声がなにも無いはずの虚空から響く。
見れば、いつの間にやら彼女の姿が消えている。『隠形』したのか、あるいは。
「ふ、舐めるな。『幻聴』で惑わし、『隠形』で別方向から攻める……今さら騙されるとでも思ったかッ!?」
『万物を断つ剣』が反転し、空間を薙ぐ。シェーナの声がしたのとはまた別の位置。
けれど、その剣は空しく空振る。
「何ィ!?」
「だから見えていない、と言ったんです。『幻影』で作った私をあえて『隠形』で隠す。まんまと引っ掛かってくださったようで」
ギルガースが『隠形』を見透かせることを逆手に取った戦術。
本物のシェーナは『幻影』で風景を自身に重ねて姿を消していたのだろう。リューネが見せたやり方。
そして、本当に彼女が居たのは最初に声のした位置だった。
「『収束せよ』」
「ッ、『我が身護る剣』よ!」
心臓を狙って突かれた槍は、しかしわずか食い込んだだけで止められる。
「ぐ、うう……! 体内で『剣』を展開するのは避けたかったがな……! この借りは貴様の命で返して貰おうか!」
ギルガースが『万物を断つ剣』を振り上げたその瞬間。
ヒュ、と風切り音が鳴る。立て続けに三度。
「ぬ、ぐっ……!?」
音の正体は矢だ。後方で控えていたダヴィドとフリッツ。彼らが威嚇のように射かけた矢が、ギルガースの右腕に二本、突き刺さる。
「ハッ、やっぱ見えてねぇな! 人間を侮ってるからそうなる! ちゃんと見てりゃあ、お前なら防げたのになぁ!」
「戯言をぉぉぉッ……! っつ、ぐぅぅッ!? な、これ、は……!?」
「『幻影』で姿を隠していたのが私だけだと思いましたか?」
「兵士までも、姿を隠して……!?」
ギルガースの脇腹に、背中から長槍が突き刺された。
【剣の魔】のおそるべき反射神経のせいで致命傷にこそならなかったが、それでも槍は確かにギルガースの脇腹の一部を抉り取っていった。
先の矢とあわせて、初めての負傷らしい負傷。
「ク、ソどもがあっ!」
「マサキさん!」
「うわっ!?」
咆哮とともに『柵のごとき剣』を放つギルガース。
ギルガースを傷つけた兵士は逃げ切れず串刺しにされたが、シェーナがマサキの首根っこを掴んで下がり彼らは事なきを得る。
そして。
「ああ。ありがとう、みんな」
「ッ、しまっ……」
ギルガースの注意が完璧に僕から外れた。その数瞬で接近には十分。
この間合いなら触れられる。ギルガースが剣を振るうのは間に合わない。そして僕は、一度やつを掴んだら絶対に離さない。例え『柵のごとき剣』や『天駆ける剣』で身体を貫かれても、ギルガースと相討ちにまでは持ち込む。仲間を守るためなら、仕方ない。
だがしかし、百戦錬磨の【剣の魔】の思考は僕の想定を容易く上回る。
「『天駆け鈍なる剣』よ、来たれ!」
不可思議な詠唱。しかし、その理由はすぐに知れた。なぜなら、ギルガースが産み出した剣が照準したのは僕ではなく。
産まれた『天駆ける剣』が、ギルガース自身の腹に突き刺さった。剣に押し出され、奴の体が宙に舞い上がる。
紙一重の距離まで迫った僕の指先からするりと奴が抜け出ていく。
「くっ、待っ……」
「待つものか! 『光輝く剣』よ!」
パアアァァァ!
瞬間、太陽を直視したかのような猛烈な眩しさが目を襲い、思わず瞼を閉じる。
視界が塗りつぶされていたのは三秒ほどか。
目を開いたとき、ギルガースは僕らから十数メートルほど離れた位置で脇腹の傷口を押さえながら笑っていた。
「くく……いやはや、してやられたなぁ。ニンゲンを侮ってるから、か。なるほど確かに、認めざるを得ないようだ。たかだかニンゲン程度であっても、そのように力を与えられれば脅威たる。うむ、うむ。よくよく学んだ。ゆえに……その煩い虫けらどもを先にまとめて殺すとしよう」
「ッ、攻撃が来るぞ! 下がって備えろ!」
「『天駆ける剣』よ!」
ギルガースが産み出したのは、もうすでに何度も見た、空中を飛ぶ剣。一度に十本以上産み出せるということも既に知っている。
だが。
「な……こ、れは」
す、と虚空から、一本現出する。続けざまにさらに、一本現出する。とどまることなくさらに、二本現出する。加えてさらに、五本現出する。尽きることを知らずさらに、八本現出する。今までの最大を越えてさらに、十四本現出する。この辺りから数を追うのすら怪しくさらに、二十三本現出する。もう正しい数かもわからずさらに、四十五本現出する。
現出する。現出する。現出する。
おそらく数はとうに二百を越えた。これこそが、【剣の魔】の力の真髄。そして、絶望的なまでの量の『天駆ける剣』が、
「行け」
放たれる。
……僕はもう、自分の身を護るだけで精一杯だった。『支配』兵を集めて盾にし、雨霰と降り注ぐ剣を受けさせる。時折、剣は兵士の身体を貫通して僕を傷付け、皮膚を裂き、肉を抉りとっていく。
その猛攻はおそらく数十秒たらずの出来事だったが、僕には一時間にも二時間にも感じられた。それでも、攻撃はいつか終わる。
──剣の雨が止んだ。
盾にしていた兵たちは一人残らず絶命し、うち半数ほどは最早ヒトの形を保っていない。僕は全身をボロボロにされながらも、なんとか戦闘不能になることは免れた。
咄嗟に、仲間の安否を慮って周囲に視線を向ける。
……それは、失策だった。
「レウ様! 上です!」
シェーナの叫び声に、反射的に剣を抜き放って頭上に掲げながら、追うように視線もそちらへと向ける。
そこには、飛び上がって剣を振り下ろすギルガースの姿が。
反射的に剣を抜いていたのは幸運だった。奴の一撃を受け止めるために剣を頭上で盾のように構え、
「え」
す、と音もなく。熱したバターを切るように。
そうだ。ギルガースが手にしているそれは、『万物を断つ剣』。たかだか鋼鉄の剣程度で受けきれるはずもない代物。あらゆる防御は容易く無に帰す。
僕の掲げた剣を無慈悲に断ち切ったギルガースの『剣』が僕の眼前に迫り、そして。




