あおいそら
空を見ていた。
「あおいね。」
空があおいね、と彼女は言った。
僕は空を見上げていて、けれど改めて空を見てみた。
「あおい?」
あおくはなかった。お世辞にしても何にしても、とてもとてもあおとは言えない、黒ずんだ色を空はしていた。
「あおいよ。」
けれど彼女は、その空をあおいと言い切ってしまう。
仕方が無く、僕はまたその、彼女いわくの
「あおいそら」を見上げてみた。
「…あおくないよ。」だってこんなに暗いのだ、全然あおくなんかない。無理したところで、紺あたりが限界だろう。
「あおいよ。」
それでも彼女はいう事を変えない。彼女の空は、あくまでもあおであおくてあおいのだ。
けれど僕のはそうではなかった。じっと、目をこらして見ても、空はあくまで黒ずんだままだ。
時々、ちかりちかりと輝く星が綺麗だから、これはこれで結構綺麗だ。
あおぞらじゃなくても、別にいいじゃん。そんな感じで、不満でも零してしまいたくなる。
「…あおい、かなぁ。」
「うん、あおい。」
彼女は、嬉しそうに頷いた。ちょっと溜息を付いてやろうかと顔をさげたら、彼女の笑顔が見えてしまった。
見えたのはほんの一瞬なのに、その瞬間で目に焼きついた。
幸せそうな笑顔だった。満面の笑みとは、こういうものであったのか。
僕はしかたなく溜息を引っ込め、彼女に合わせて無理矢理に笑った。そして次の瞬間には、僕の口から言ってやるのだと意気込んだ。すうっ、と、気合を入れて息を吸い込む。
「きょうは、そらがあおいね」
彼女は一度目をしろくろさせ、それから満面の笑みで笑った。
さっきのよりも、今までのよりもずっとずっと、幸せそうで、印象的なすごい笑顔。
僕は言葉に詰まってしまって、そのまま俯き黙りこんだ。
隣から、楽しげな笑い声が聞こえた。
少女のように、子供のように幼子のように、無邪気な様子で彼女は笑んだ。
そして一人で走り出すと、楽しそうにくるくると回り踊るのだ。一人でくるくる踊るのだ。楽しそうに、舞っているのだ。
顔をあげてしまった僕は、たった独りでそれを見ていた。
こみあげてきた、涙を無理矢理押さえ込んで、僕は独りで観客となるのだ。
あおいそらのその下で、くるくると楽しそうに踊る、彼女の唯一の観客になるのだ。
勢いで書いちゃったよどうしよう、みたいなそんなブツ。
なんか「小説書いたぜ〜」みたいな気分になりたかったんだと思われ。