竜は好きらしい
久しぶりの更新です。
大声を上げ緑竜から飛び降りてきた幼女は、短い足を縺れさせながらアシュメルと、ガルの方へと近付いて行く。
「コラー!2人とも何をやってるんですかっ!竜を地に下ろすって事は、何か不足の事態でも起こったのですか?」
「ラ、ラナ?ちょ、偵察隊のお前がこっちまで出てきてどうすんだよ?」
「ガルの言う通りですよラナ。それに我々ですらこの事態は、よく分かってないんです。危険ですのでラナは、直ちに後方へと引き返してくれませんか?」
アシュメルもガルも、心配そうにラナと呼ばれた少女を気遣っているのだが、当の本人であるラナには通じない。
「何ですか2人とも!せっかく援護に来てあげたのに、そんなに私が邪魔なんですか?」
「別に邪魔ってわけじゃねぇよ。だけど危ないだろうがっ!」
「そうですよ。貴女も貴女の竜も攻撃には向いてませんし………心配です」
「……………心配してくれるのは嬉しいけど、私だって竜騎士なのですから、仲間が危険な時に、おめおめと自分だけ逃げたりなんて出来ませんよ」
「ラナ………」
「立派になって…………」
身体も小さく、か弱いイメージがあったラナから、いっぱしの竜騎士の言葉が聞けて感動しているアシュメイルとガルを尻目に、アトリは再度取り出した揚げジャガを、ポリポリと音を立てながら完食した。
「ふぅ……美味しかったわ。さてと…………………」
3人の世界を造り出している竜騎士たちに向かって、アトリは指をパチンと鳴らした。
「うきゃっ!」
「どあっっ!」
「うわっっ!」
その音とともに3人は地面へと、足元より垂直にめり込んだ。
「揚げジャガの怨みはこれで許して差し上げますわ」
アトリ的には寛大な処置であった。
いつもならば鬱陶しいので、消しているところであったが、今回は竜騎士である事を加味した結果であった。
アトリは竜は嫌いでは無い。むしろ好きな部類だった。その竜はパートナーを無くして悲しむ姿を見たくなかったのである。
「ええー!!ちょっと!ここから出して下さいよ~」
「うわあっ!何しやがるっ!ラ、ラルゴ!引っ張ってくれっ!」
「ガウッ?」
「………………2人とも静かに。落ち着いて下さい」
3人の中で唯一冷静であったのは、アシュメイルだけであった。後の2人は騒ぎまくるし、竜に無茶なお願いをして混乱させている始末。
「………………………………………………無様ですわね」
アトリはここまで未熟な竜騎士を見たことが無かった。
アトリの知る竜騎士は、心身ともに高潔で立派であったと記憶している。
こんな子供じみた竜騎士崩れを目の当たりにするのは、初めてであった。
「技術が足りないのは致し方ないとしても、これでは竜が可哀想だわ………」
そう哀しげに呟くと、アトリは主であるガルの周りをグルグル回るラルゴへと、手を伸ばす。
「あ、危ないっ!不用意に触っては…………」
ラルゴへ手を伸ばすアトリへ、注意を促すアシュメイル。
竜は基本的にパートナーにしか気を許さない。同じ竜騎士相手であれば、多少は譲歩してくれるが、目の前の美女はどう見ても竜騎士では無い。
だから自分を地面に埋めた相手であろうとも、止めてやりたかったのだが、美女はそのまま白魚のような手でラルゴに触れた。
アシュメイルの脳内に最悪の展開が過ったが、それは過っただけであった。
「グルルゥ………グルゥ…………グルグルグル……」
「よしよし、良い子ね。 やっぱり可愛いわね」
アシュメイルの目の前では、アトリに喉を擽られ、ゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶラルゴの姿があった。
「嘘だろ………俺のラルゴが………そんな、まさか………」
自分の竜を手懐けられてしまったガルは、アシュメイルよりもショックを受けていた。
「ふわぁ……お姉様………すごーーーーーい!」
ラナなどは既にアトリをお姉様呼びで、尊敬の眼差しまで送っている。
ひとしきりラルゴをなで回して満足したアトリは、クッションに乗ると竜たちに手を振りながら何事も無かったかの様に、この場を去って行ったのであった。
「で、 俺たちいつまでこうしてりゃいいんでしょうか?」
「…………………助けが来るまででかなぁ……でもそれっていつかな?」
「偵察隊のラナが戻らなければ直ぐに察してくれるでしょうから、死にはしませんよ」
3人は地面に埋まったままアトリに放置されたのであった。
「グルゥ…………………」
その横ではラルゴがアトリの消えた方をずっと見詰めていた。
既に色々失念してます。
ちなみにこの後、3人はジャスティンが呼んできた竜騎士仲間に助けてもらい事なきを得ます。
アトリの気紛れにより、消失を免れた3人であったが地面には埋まる。
土饅頭を想像して頂けると宜しいかと。
※土饅頭とは、熊が自分の獲物を土に埋める行為であり、この場合勝手に掘り起こすと熊が激怒し、襲われますので大変危険です。もし山中で見付けたら、全力でその場から逃げましょう。