オヤツはお預けらしい
誤字脱字は諦めて下さい。
アシュメルとガルは非行物体の上に座っているアトリを視界に捉えられるまで近付くと、今まで出会った者たちと同様に、ピッキーンと凍り付いた。
「うわあ…………」
「………………………」
前者がガルで、後者がアシュメルである。
そんな2人の様子に、すっかり慣れているアトリは、特に気にする事もなくクッションの上に座ったまま2人の間を通過して行く。
その瞬間、アシュメルがすぐさま正気に返り、惚けて凍り付いたままのガルへと指示を出す。流石は王都を護る竜騎士である。一般人よりは立ち直りが速かった。
「…………っ!!ガル!抜けられた!直ぐに追うぞ!俺は右から回り込むから、お前は左から行けっ!!」
「んあっ……………はっはいはい、分かりましたぁ~。んじゃあ俺は右から回り込むんで、先輩は左からですねぇ?」
「はあっ!?お前、惚けててちゃんと聞いて無かったのか?俺が左だ」
「うえっ!?ちゃ、ちゃんと聞いてましたよ。先輩が…………………ええっと?」
アシュメルは指示をちゃんと聞いていないガルに対して、蔑む様に睨め付けた。
「俺が左だ。ガルは右。分かったな?」
「はい。今回はちゃんと聞いてましたよ!俺が右ですねぇ~。じゃ、ラルゴ!竜のスピードをあの美女に見せてやろう?」
「グオウッ!!!」
ラルゴと呼ばれたガルの相棒の赤竜は、応えるようにひと鳴きした。
「やっと伝わったか…………。ではジャスティン、我々も行くぞ?ラルゴに遅れをとるなよ?」
「ギャウッ!!!」
アシュメルの竜は青竜で名をジャスティンという。ジャスティンはアシュメルが告げた様に、ラルゴに負けぬ位のスピードでアトリの後を追う。
「小腹が空いてきたわね。う~ん…………甘味って気分じゃ無いから………そうね、このジャガイモを薄切りにして揚げた……何て名前だったかしら?ま、良いか。これにしよう」
一方アトリは小腹が空いてため、虚空からオヤツを取り出して食べようとしていた時であった。
突然クッションが急停止した。
「ああっ!そ、そんなぁ……………!!!」
急停止したため、いざ食べようとしていた揚げジャガが、アトリの手元からパラパラと下へと落下して行く。
まるでこの世の終わりのような叫び声を上げ、落下して行く揚げジャガに手を伸ばしたが、あと一歩及ばなかった。
「わ、私の……………私の揚げジャガ……………が」
「はっはー!どうだぁ!追い付いたぞ!流石に俺のラルゴのスピードには敵わなかったなぁ!」
俯きながら声を震わすアトリに、全く気付かないガルは、クッションのスピードが自身の相棒であるラルゴの方が速かった事が嬉しかったのか、何やら勝ち誇った笑みを浮かべて居る。
「こら、ガル!回り込む時に声を掛けて停止をしてもらわないと。上に人が乗ってるんだぞ?振り落とされたら一大事だったんだから、そんなに喜ぶな」
勝った勝ったと興奮するガルを、アシュメルが嗜める。
「あっ。……………………そっか!人が乗ってましたねぇ」
「ガル…………お前のその鳥頭何とかしてくれ」
「それは無理ですねぇ。小さい頃からですから、もう直らないです」
「はぁ…………。まあガルはどうでも良い。それよりも…………今はこちらの人物だ」
アシュメルはガルの事は後回しとし、アトリに目を向けた。
現在彼女は顔を俯かせているため、表情は読めないが、両肩が僅かに震えていた。
怖かったのだろうと、アシュメルは思いアトリに声を掛けようとしたその瞬間、突然ジャスティンが「グアウッ!!」と、ひと鳴きして急降下し出した。
「お、おいっ?ジャスティン?ど、どうした?」
驚くアシュメルと同じく、焦るガルの声を聞こえて来る。
「ちょ、ちょお、ま、待て待て待てぇーーー」
ラルゴもジャスティン同様に急降下する。
訳もわからず焦るアシュメルとガルであったが、手綱を引いても全く言うことを聞かず、両者の竜は我先にと地面へ降下すると、相棒であるアシュメルとガルですら見たことの無い服従のポーズをとる。
強者へ竜が尊敬と敬服を現すポーズ………それは犬の伏せの様な体勢であった。
そんな初めて見る竜の服従のポーズに、アシュメルとガルは唖然とする。
そんな中、ゆっくりとアトリを乗せたクッションが、静かに下降してくる。
「……………………………………竜の方が利口とは、な」
地を這う様な怒りと蔑みが滲んだ声音でアトリがそう小さく呟くと、その場の空気がズシリと重くなった。
「私の揚げジャガの怨み……………………………」
アトリの手がアシュメルとガルへと照準を合わせようとした正にその時、重い空気を破る様に新たな人物が乱入した。
「ス、ストップストップストップーーー!!!」
緑の竜に乗った銀髪の幼女が空から舞い降りたのであった。
アシュメルとガルの運命はいかに?
以前の誰かと同じ末路を辿るのか?