世界にはまだまだ知らない事があるらしい
えー、時間の概念はこちらと同じにしてありますが、物の単位などは少しだけ変えてあります。
1メートル=1エートル
って感じですので宜しくでっす。
ヘーゼル村を出て約2時間。アトリは未だにクッションの上で、ぐでっと寝転んだままである。
王都があるアイゼンへは、残念ながらまだ着かない。
空を飛んで移動しているので、楽に山を越え谷を越えてサクサク進める。
この世界の通常の移動手段とはもちろん馬か馬車など、地面を進むものが主である。
ほんのごく一部の者以外は、空を飛ぶ手段など無い。
「こんなに時間が掛かるなんて……………。もしやヘーゼル村ってかなりの田舎だったのかしら?」
アトリの若干失礼な発言に、否定する者も、ましてや肯定する者も居ないため、青空へと霧散して行った。
「景色もそんなに代わり映えしないし、もう少しスピードアップしてくれるかしら?」
アトリはクッションを、ポンポンと叩き合図を送ると、飛ぶスピードを速めた。
クッションはアトリのその命令に、俄然やる気が出た!と言わんばかりの高速スピードで空をかっ飛んだ。
***
「団長!報告します!先ほど王都近郊の砦より伝令があり、現在未確認の物体が王都へ向かって物凄いスピードで接近している模様です!」
「未確認の物体、ですか?」
「はい。物体の色は黒。大きさは目測ですが、縦横2エートル程度です!」
「フム…………。王城の周りには魔障壁が展開されてますから、王宮は無事でしょうが、町が心配ですね。その物体が町に空から進入する前に、撃ち落とすしかないですね」
「了解しました!通達はどちらの団に頼みましょうか?」
「そうですね………。魔術師団は火力はあるんですが、今回は殲滅戦などでは無いので竜騎士団へお任せしましょうか」
「はい!では団長のご意志を竜騎士団や各方面に通達して参ります!」
「宜しく頼みましたよ」
若い兵士は一礼すると、駆け足で部屋から退室して行く。
団長と呼ばれた青年は怜悧な美貌に少し思案げな表情を作ると、ポツリと呟いた。
「…………………………………………………まさか、ね」
そう小さく溢すと、青年は手元にある伝令書に再度目を通しながら団長室に置いてある革張りの椅子に座った。
***
クッションにて飛行すること約2時間30分、アトリはようやく遠目に城らしき輪郭を確認した。
「ふわぁ……………。やっと着いたみたいねぇ」
どうやらクッションの上でマッタリしている間に、少し眠気に襲われていたようで、ひとつ欠伸をすると億劫そうに座ったまま伸びをした。
「もう目と鼻の先なのだからスピードは緩めて結構よ?」
クッションにそう言うと、移動速度が緩やかになった。
そのままぼんやりしながら移動しているアトリの視界に、城からこちらに向かってふたつの黒い影がかなりの速さで近付いて来た。
どんどん近付いて来る黒い影の正体は、直ぐに竜である事が確認出来た。
「あら、珍しいわね。竜に人が乗ってるなんて……………………」
アトリの持っている知識では、竜は孤高の生き物であり、人族などを乗せて飛ぶ事などまず無かったのだが。
「世界にはまだ私が知らない事もあるのね…………」
アトリが自分もまだまだだであると驚いていたのだが、実は相手の竜騎士たちも驚き、慌てふためいていた。
「アシュメル先輩……………俺、いま起きてますよねぇ?それとも目が悪くなっちゃったんですかねぇ? 何か黒い物体の上に人が乗ってるみたいに見えるんですけどぉ?」
「大丈夫だ。ガル。俺にも人が乗ってるように見えるから、お前は起きてるし目も悪くはなっていない」
「よかった~………あ、いや良くはないかぁ?」
「だな。物体を落とせばそれで終了、では無さそうだな」
アシュメルと呼ばれた竜騎士は、厄介そうな案件に当たってしまったと感じ、対してガルの方は「それにしても、空を飛ぶマジックアイテムっすよぉ~!うっひゃあ!乗ってみたい~」などと能天気に騒いでおり、アシュメルは軽く頭痛がしてきた自身のこめかみを強く揉んだのであった。
次回またも一触即発!?
薄々気付かれておりますでしょうが、アトリは気に入らなければ誰でも消します。
指パッチンの刑です。
私もたまに指パッチンしたくなります(オイ)