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白髪の旅人  作者: らくしむす
19/32

フレイの過去

2年前・パンドラ教会。



「教祖様、今晩の夕食は何にいたしますか?」


12歳のシスターは、教会にある庭園で花に水をやる老人に声をかけていた。


「おぉ、そうじゃのぅ…昨日お医者様には脂っこい物は控えるように言われたからのぅ…」


老人は水やりの手を止め、左右で金銀の髪をした少女の頭を撫でながら考えた。

12歳とは言え、しっかりした性格なのであろう事は、その佇まいから伺える。

ただ、それは表情からも伺えるが、


少女の目は光を得ていない。

本来まぶたがある位置は酷い火傷の痕のようになっており、

それが生まれながらではないようだと、少女を初めて見た者は誰もが思う。


「教祖様?」


「んんん・・・今日は唐揚げが食べたいのぅ」


「脂っこい!」


しかし少女は、そんなハンデがある事を忘れさせる程に、明るく笑顔を見せ、楽しそうに喋る。

そんな少女を見て、教祖と呼ばれている男は少し顔色を暗くする。


「教祖様、また私の目の事で暗くなりましたね!」


「ん?あ、いやぁ面目ない。フレイには敵わんのう。ほっほっほ!」


「当然です!お医者様が言っていました!「人間は光を目で吸収して物を見る。でも眼球のない君は、魔力を見ているのかも知れない」って!」


フレイが受け売りの医者の言葉を、自慢気に教祖にはなすが、

その実、その推測は正解であった。

フレイは生まれながらに全盲である。

火傷のような稀有な見た目をしながら、生まれながらに全盲と言われるとおかしく聞こえるが、事実だ。


〜〜〜


フレイの母親は陣痛により産婆のところにいく為馬車に載っていた。

家はちょうど「ゴーウ」と「バナデロ」の間付近の田舎で、強いて言うならば「バナデロ」寄りであったため、バナデロの産婆を選んで・・・向かってしまった。


本当に「運が悪かった」としか言いようがなく、

フレイの母親を馬車に乗せてくれたのはガードンへ貴金属を買いに行く途中のゴーウの富豪で、

陣痛のために家の前で動けなくなっていたフレイの母親を見かけて乗せてあげたのだ。



その結果、襲われた。



盗賊は魔力を持った武器を使っていたため、おそらく追放されたギルダーである。

その中の1人は、フレイの目の原因となる「燃える刀身の剣」を持っていた。


振り下ろされた灼熱の剣は、たやすく妊婦の腹を切り胎児の目元を焼いた。

とっさに名も知らぬ富豪は、炎の剣を持った男を馬車にから追い出し、魔法で馬車に結界を張った。



警備兵が来た時、

そこには富豪の無残な死体と、結界により守られた馬車だけが残されており、

警備兵の1人が、結界を解除すると、中には息絶えた妊婦のと産声をあげる赤ん坊がいた。


この中で「運が良かった」のは、

富豪のおかげで炎の剣による切り口が浅く、赤ん坊の頭そのものを斬ってしまっていなかった事と、

赤ん坊が「逆子」で、お腹の中で顔を前に向けていた事で、斬られたのが後頭部ではなく目の方だった事で、


そして赤ん坊が「生きていた」ことである。


〜〜〜


フレイは、身寄りのない子を引き取って育てていた「パンドラ教会」に預けられ、

12年後、

教会の庭園で、医者に止められた脂っこい物を食べたいと言う教祖を叱咤している。


魔力を付与された剣で斬られたためか、その目は本来の眼球としての能力は無いものの、

「魔力を見る」事により、日常生活に支障はない。


フレイ本人からすれば「見える」のと変わらない。



教祖が暗い顔をした時、

フレイには魔力が「哀しさ」「憂い」などの感情を抱えた人特有の物に変質するのが見えていた。


「唐揚げはダメです!今日は野菜カレーに決定です!」


「脂っこくは無いだろうけど、老人には思いのぅ…」


「じゃぁ買い物に行ってきますので、お留守番お願いしますね、教祖様」


「うむ。多分言う立場はおかしく感じるのじゃが、気を付けて行っといでフレイ」


笑顔のシスターは手さげカバンから黒い帯を取り出し、それを目隠しの様に巻きながら教会を後にした。


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