聖クロスブロウクス
「少しお話ししませんか?白髪のお兄さん」
「・・・少し外の空気を吸いますか」
「いい提案ですね」
シスターとアスカの間には、ピンと張り詰めた…形容するならば高音域の音色を奏でるために張られたピアノ線のような空気が流れていた。
〜〜〜〜
ガードンの裏通りから少し進んだ場所にある、家が3件ほどは建てられそうな開けた土地。
いつものように黒い衣服に白いフード付きマントを羽織った白髪の青年は、
同じようなカラーリング服を着た目隠し修道女と、
2〜3mほど離れ、相対して立っていた。
「私はフレイアル・ハルペイシア。
元は「パンドラ教会」に属していたシスターです。
今はわけあって旅をさせていただいています。
あなたは?」
「アスカ・アレキサンドラです。
ギルド「無頼のサーカス」のギルダーで、その前は今のフレイアルさんのように旅人をしていました」
「フレイでいいですよ。長くて言いづらいでしょう?」
「では、フレイさん。
あなたは一体何者なんですか?」
うっすらと射してきた朝日に照らされて、フレイの髪が金と銀に煌びやかに光っていた。
「・・・しがない「旅人」ですよ」
フレイがその巨大な十字架に振るうのと、アスカが黒い刀を引き抜くのはほぼ同時であった。
ガキィン!!
と金属がぶつかる音が響き、アスカは約10歩分ほど、後ろに弾かれた。
「あっれ?この刀、結構凄い切れ味だって聞いてたんですけどね?」
「あら?そうなの?でも無駄ですよ」
フレイは十字架・・・いや、十字架を模したその武器を構え直した。
「この「聖クロスブロウクス」の外装には、霊峰ラックの地下でしか採れない「堕龍鋼」が使われていますから」
「なんですかそれ?」
「古代パンドラ人がドラゴンと闘う際に使用していた鋼です。ドラゴンやその系譜にあたるモンスターの体組織に反応して瞬間的に超硬質化する「魔結石」の一種です」
朝日は三分の一ほど顔を出しており、その日射しはお互いの武器を輝かせていた。
「どうしてそんなに詳しく話してくれるんです?そうゆう情報は教えない方が有利に進められるでしょう?」
「そうですね」
口元だけ微笑むフレイは、一直線にアスカへ走り出した。
ガキィィンッ!!
「くっ!!」
「踏ん張らない事で衝撃を和らげたんですか?」
重い十字架の一撃を受けたアスカは、更に後方へ弾かれる。
いくらアスカの刀が頑丈であっても、さすがにフレイの振るう十字架とは質量の差があり、
その細い腕からは想像できないような十字架の薙ぎ払いは、易々とアスカを飛ばしてしまう。
「ところでシスター。
その目隠しは、手加減のつもりか?」
アスカの口調も敬語が抜けていた。
「コレですか?
これは生まれつき全盲なので、なんとなく巻いているだけですよ」
「じゃ一体、何を「見て」攻撃してるんだか、なッッ!!」
キンッ!!
アスカは素早い突きを放つが、
それなりに面積もある十字架は盾としても機能するらしく、寸前で防がれてしまった。
「見えるとゆうより・・・「分かる」んです」
フレイは後方に飛び去りながら、十字架の持ち手ガチャガチャと動かした。
着地するまでの間に十字架は細かいところが、スライドしたりパーツが出てきたりしだと思うと、
すかさずフレイは十字架の持ち方を変えた。
今までは十字架の一番長い部分に備え付けられた持ち手を、片手もしくは両手で持っていたのだが、
今、十字架は、その交差した中心部分から変形によって出てきた別の持ち手があり、さながらその見た目は・・・
「いきますよ「聖クロスブロウクス:魔弾砲」!!」
手持ちの大砲といった見た目になった十字架は、しっかりとアスカを狙い、銃口を向けていた。
「重火器にも変形するのか…こりゃキツイな」
「FIRE!!」
フレイが叫ぶと同時に「ビヒュゥゥウウウン!!」という聞きなれない音が鳴ると同時に、十字架の銃口からピンクとも紫とも取れる色をした光弾が発射された。
「ふぅぅぅ・・・「二分竜頭」!!」
発射された光弾は、目にも留まらぬ斬り下ろしにより真っ二つにされ、アスカの両脇をかすめて後方で着弾した。
「魔力で作り出した光弾…実質的には核となる小さな魔結石に魔力を纏わせた弾丸ってとこか…」
「すごいですね?一発で分かったんですか?」
「予測が当たっただけだ。
純粋に魔力だけを打ち出すなら「銃口」なんで必要ないからな」
不意にフレイの声が先ほどより明るくなった。
「素晴らしい洞察力ですね!それに光弾が二分割されたという事は、核の魔結石をしっかりと斬ったという事です」
ここまでの間に、朝日は残り三分の一がまだ隠れているといった具合で、
既にあたりはかなり明るくなっていた。
フレイは十字架を、元の形状に戻すと、更にロザリオ程度のサイズにして首にかけた。
「・・・なんのつもりです?」
「大変ご迷惑をおかけ致しました。
改めて…フレイアル・ハルペイシア。元パンドラ教会シスターで、現在は旅人をしており、
あなたに目を付けたのは、私が「黒山羊教団」の敵だからです」
サァッと心地よい朝の風が吹き、
シスターの金と銀の髪、
そして白髪の青年のマントを揺らした。
「詳しいお話を・・・武器は無しで、させて頂きますので、ひとまず戻りませんか?」
目隠しをしていながら、その表情は先ほどの手合わせとは打って変わって、微笑みが眩しかった。
刀を収めたアスカは、根拠は無かったものの、フレイが「黒山羊教団」の敵である事は間違いないのだろうと感じながら、並んで宿への道を歩き出した。
宿までの道にて
フレイ「どうでもいいお話をしてもいいですか?」
アスカ「はい?なんでしょうか?」
フレイ「旅に出てから、何故かずっと肩が凝るんですよねぇ・・・」
アスカ「はぁ…?」
フレイ「もしかして…成長期なのかと思ってるんですよ!」
アスカ「・・・ちなみにそのロザリオは、旅に出るときに貰ったりしたんですか?」
フレイ「はい!仲の良かった鍛冶屋の子に貰ったんです!旅の無事と護身用にって!」
アスカ「・・・そうですか(肩凝りってそれじゃないのか?)」
フレイ「やはり・・・成長期でしょうか!やっとオトナの女性になれるんでしょうか!」
アスカ「あの、それは僕に聞かないで下さい・・・」
フレイアル・ハルペイシア
バスト→B
彼女の成長期はこれからだ!