パンドラの4大国家
「じゃ、アタシがちゃんと説明してあげるから、しっかり覚えなさいよ!」
「ミナミさんが講師では不安ですが、頑張ります」
「一言凄まじく余計よ。」
なんとか日が落ちるまでには、新たな地図を購入し、それなりの宿を見つけることが出来たアスカとミナミは、夕飯を済ませてすぐ、部屋にて世界…つまり「パンドラ大陸」にある国々についての勉強会を始めた。
バナデロの隣街「ガードン」は、
希少な鉱石が採掘出来る火山が近いため、「最大の鉱石採取街」と呼ばれるバナデロとは違い、
主に「第二の鉱石加工街」として有名である。
その呼び名の通り、街の3割は鉱石の加工や装飾を取り扱う店で賑わっており、
宝石や貴金属にうるさいブランド好きの女性から、
魔力を帯びた「魔結石」と総称される鉱石類を使用して武装を整えたい屈強なギルダーまで、
その客層は幅広い。
ちなみに、鉱石採取や鉱石加工は、
街どころか「バルカーナ王国」とゆう
この国そのものの経済に関わる程の物となっており、外国との貿易は、この希少鉱石の取引が主軸となっている。
「・・・それで、そもそもこの「バルカーナ王国」の貿易なんだけど、
国の南側にある標高2600m以上の「バルカニア活火山」が海岸に向けて溶岩を垂れ流しちゃってるから、海路の貿易は行ってないに等しいから、基本的には海路での「ワダツミ」との貿易は無いわね。
「バルカーナ」から見て北西部に位置してる「ハーリケン」とは陸路や空路があるけど、
どちらかと言えば「ドグラニ」との、陸路を使った交易が盛んね」
「はぁ・・・でも、この地図で見るに「ドグラニ王国」は、土地は広大ですがほとんどが砂漠ですよね?
需要はあるんでしょうか・・・とゆうか、首都にたどり着けるんですか?」
アスカが言うように、
地図にある「ドグラニ王国」とゆう土地は、国土として指定されている部分はどの国よりも広いものの、そのほとんどが「砂漠」の地図記号になっており、
中心部分・・・国土面積の約2割程の小さな円が「首都」であると表記されているのだ。
「正直「ドグラニ」には行ったこと無いからあまり実際の情勢は知らないのよねぇ・・・新聞とか子供の時に学校で習ったくらい」
「なるほど・・・でもなぜ貿易について?」
アスカは、メガネの位置を直しつつミナミに質問した。
ちなみに「勉強会」が決まった時に既にメガネはかけており、ミナミも気付かないうちの装着だった。
「アタシに勉強教えてくれた先生の言葉を借りるなら・・・「国の物流を知れば国の関係もわかる」!!」
「ドヤ顔はちょっとイラッとしますが理にかなってはいますね」
「一言凄まじく余計って言ってるでしょ。」
「それで、「国の関係」を知るために貿易から教えてくれているんですね・・・
結果として、この4大国家はどういった関係性が見えてくるんでしょうか?」
「ん?!あぁ〜えぇっとねぇ〜・・・」
急に汗をダラダラかき、目をキョロキョロさせ、引きつった笑みを浮かべ始めたミナミを見て、アスカはいつぞやに自分をギルダーに勧誘している理由を聞かれた時のミナミを思い出した。
「あぁ・・・分からなかったんですね」
「べ、別にそんな、わから、わからないわけないでしょぉ〜!ははは、はははは!!!」
「・・・ミナミさん。隠し事下手なら、もう素直になったらいいと思うんですけど」
「はは!ははははは!
ははは・・・すいません」
アスカは少し深めの溜息をついてミナミに言った。
「まぁ分からないなら分からないで大丈夫ですので、
ミナミさんが分かる事はしっかりと教えてください」
「がんはります。」
こうして、ミナミが知っている範囲内での世界情勢についての勉強会は、夜通し開催された。
〜〜〜〜〜
以外、アスカがノートにまとめた世界情勢の中から、4大国家の部分より抜粋。
「バルカーナ王国」
・パンドラ大陸の北部にある国で、海岸側に「バルカニア活火山(標高2600m以上)」があるため「港」を持たない。
・希少な鉱石の採取・加工が盛んで、それの輸出が盛ん。
・海路を持たないため、貿易や交流は主に陸路か空路
・海路がないため「ワダツミ王国」との交流は少ないものの、「ゴーウ」とゆう大きな港を持つ国を介して、間接的に物流はあるため、関係は概ね良好。
・「ドグラニ王国」に頻繁に鉱石を輸出しているが、肝心の「輸入」している物が何かは情報があまりない。
「ハーリケン王国」
・パンドラ大陸北東部にある「霊峰ラック(標高9000m強)」を中心に首都が築かれた国で、この「霊峰ラック」以外にも5000〜6000m級の山脈が連なって、自然の城壁となっており、諸外国との交流はほとんど無いため、情報が余りない。
・広大で深い森に囲まれ、さらに海にも面しているため自然豊かであり、貿易が必要では無い程に自給自足・地産地消を行っている。
・首都を囲む「対巨大モンスター用迎撃防壁」外の森は、防壁の名が差すように巨大なモンスターの宝庫であり、噂では「ドラゴンの集う巣」や「古代種」と呼ばれる様な今だ謎に包まれたモンスターまでいると言う
・地図上では防壁外だと、森一帯と森を囲む様に連なる山脈も含めて「ハーリケン王国」となっているが、実際のところ森の中には未だに独自の文化を持った「村」が点在している。
「ワダツミ王国」
・パンドラ大陸南東の沖合いにある大小十数個の島々からなる島国。
・島同士はほとんどが「海上鉄道」が敷かれている為、ある意味陸路での往復が可能。
・漁業が盛んで、諸外国に輸出している。
・島とゆう性質上、土地面積の節約の為、耐震性に優れた高層建築が特徴的で、建築の技術支援をドグラニ王国から受けている。
・「海上鉄道」を始めとして、陸・海・空の様々な乗り物を作っており、海産物の他には乗り物の技術支援を諸外国に行っている。
「ドグラニ王国」
・国土の8割ほどを砂漠が締める国で、パンドラ大陸の北東部に位置する。
・国土のほとんどが砂漠であり地盤もあまり安定しないが故に、その建築技術は諸外国と比べ物にならないほど卓越している。
・首都は砂漠の中心部からやや東にズレたところにあるオアシスにある。
・諸外国との物流はあるものの、人の行き来はほとんど無いため、ハーリケンとは違った意味で余り情報がない国である。
〜〜〜〜〜
「んなぁぁぁぁあ、疲れた・・・」
アスカがノートをまとめた頃には、既に空は暗い夜闇から紺色に変わっており、間もなく朝日が昇るであろう雰囲気となっていた。
メガネを外して目頭を軽く揉みながら、アスカはふとミナミを見た。
アスカがノートをまとめている途中に睡魔に負け、テーブルに突っ伏した明るい茶髪のポニーテール少女は、軽く寝息を立てていた。
「僕もそろそろ寝るかな・・・」
開きっぱなしだったカーテンを閉めようと窓際に立ったアスカは、外に見えるガードンのメインストリートを見下ろした。
「・・・ん?」
明け方の誰もいないメインストリート。
街灯も消えてしまっている時間のため詳しくは見えないが、数十人の集団がぞろぞろとこちらに向かって歩いてきていた。
ある程度近くまで集団が宿の近くまで来た時、その集団の全員が「黒山羊」の頭を模した被り物をしている事に気がついた。
そのシルエットはまるで悪魔を彷彿させる様で、さすがのアスカも、一瞬背筋に冷たいもの走った。
と、その時。
「パチン」と音がなり、部屋の電気が消えた。
瞬時にアスカは腰に下げた刀に手をかけ、いつでも抜刀できる様、体勢を整えながら振り向いた。
目が慣れてきた頃、部屋の入り口に人影が立っているのが分かったが、想定していたより小柄なその人影に、アスカは眉間にシワをよせた。
「・・・誰ですか」
「・・・敵ではないです。まだ味方でもないんですが」
アスカの問いに答えた声は、やはり思った通り少女の声であった。
アスカ自身よりも若いのではないか?と思える声である。
ハッとしてアスカは窓の外を見た。
集団は宿のほぼ直下におり、先頭の者がアスカのいる部屋を見上げていた。
被り物のせいで、その者が「男」なのか「女」なのか、はたまたこちらに「気付いている」のか「気付いていない」のかは一切分からなかった。
「・・・一点吸聴」
唱えた呪文の効果により、アスカの耳には黒山羊の集団・・・その先頭にいる者の周囲の音が入ってきた。
「…きほどまであの部屋の灯りが点いていたと思ったが」
「二グラス様。アレは確か宿屋ですので、もしかしたら掟を知らない者が今まで起きていたのかと」
「ふむ…我々を見たか調べておけ。場合によっては処分が必要だ」
「承知しました」
「・・・なるほど。アレが「黒山羊教団」ってことか」
魔法を解除したアスカは、集団が宿の前から遠ざかっていくのを見届けて呟いた。
「パチン」と音がなり、消えていた電気が再び灯り、人影の全容が伺えた。
少女は左半分が銀、右半分が金の髪色、そして、黒い帯によって目隠しをしていた。
「さて・・・その服は、分かりやすい「修道女ですね」
黒と白を基調としたシンプルなシスターの服装をした少女は口元に笑みをたたえた。
「はい。正確には「元」シスターですけれど」
「それで、その「元」シスターさんが・・・どうしてそんな物騒なものを持ってこの部屋に来たんです?」
シスターの服を着た不思議な少女の左手には、
軽く少女の身長と同じ…あるいは少しそれより小さいくらいの
巨大な十字架が握られていた。