護衛任務、ツグ、行きまーす。
さあ、始まるザマスよ。
行くでガンス。
んガー。
「左舷、弾幕薄いぞ。敵の防御力は低いんだから、パワーより手数で対処しろ。」
現在、絶賛交戦中です。俺たちのパーティーは、ダンジョン探索の予定を変更し、安全にレベルアップする為に、護衛の仕事をする事にしました。
今回のお仕事は、貿易旅団の警護のお仕事。いろんな商人さんが、街から街へ移動する、その護衛です。
交易ルートは決まっていて、弱い動物ぐらいしか出ない、と言う話だったので、新生「エキなんとか」パーティーの仕事しては、丁度良いと思って引き受けたのですが、確かに出てくる動物は弱いです。しかし、数がハンパない。現在は船で渡渉中にハニービーの群れと遭遇している所です。
蜂って昆虫じゃないのかよ!とツッコミたいですが、この世界の分類では、動物扱いのようです。エルフもドワーフも人族ですしね。
俺の200人力なら、なでるだけで倒せる。でも、同時に倒せるのは2匹だけだ。奴らは同時に10匹以上で襲ってくる。
俺は良いよ、奴らの攻撃力ではダメージを受けない。
ネイさんも大丈夫だ。前に出て奴らの攻撃を受けまくっているが、ダメージは無い。
問題はシリルだ。
通常のパーティーバトルなら、ネイさんが食い止めた敵をシリルが仕留めていくのだが、今回は敵の数が多すぎる。シリルにもガンガン敵が襲いかかっている。
さっきからリリルがヒールし続けているが、このままではリリルの魔力が尽きた時点で詰みだ。
「選択の自由さん、この状況を打破できる選択はありませんか?」
返事がない。YES or NOの選択すら出てこない。
ちくしょう、やはり自分でこの状況を打破できるアイディアを見つけるしかないのか。
魔法さえ使えれば、広域魔法で一発なんだが。そんな魔法はいくらでもある。
でも、魔力ゼロの俺に使える魔法は無い。
どうすればいいんだ。
魔法は俺の生まれた世界に無かったから使えない。だったら、俺の生まれた世界に使える力は無かっただろうか。
ある、いや、あったはずだ。子供の頃テレビで見たことがある、中国のカンフーの達人が使った技。遠くの相手を倒すカンフーの技。今の俺ならできるんじゃないか?
俺は襲ってくる蜂達を無視して、手のひらに意識を集中した。
「か〜〜め〜〜◯〜〜め〜〜波〜〜」
ホントは百歩震拳なんだけど、俺にはこの方がイメージしやすい。
『YES or NO』
選択肢が出た。
もちろんYESで。
俺の手が目の前の空気を急速に圧縮した。圧縮された空気は反動で、手のひらの反対側に打ち出された。目の前の蜂達が、急激な空気圧の変化で、次々と潰されていく。勿論俺にも反動は来るが、そこは200人力。充分抑えられる。
あ、ダメだ。俺の乗っている船が急速に回転してしまう。
「こら〜ナナシ、テメー、何をしやがった?」
今回の警護団のメインパーティー『白馬』のリーダー、ブライトさんに怒られた。
この人はパーティー名を名乗らない俺たちを、勝手にナナシと呼んだ。俺はツグだと名乗ったのに、チームナナシのリーダーなのでナナシと呼ばれた。
面倒臭いからそのままにしている。
「とりあえず目の前の蜂達を吹き飛ばしましたが。」
「バカヤロウ、そんな力があるなら、とっとと船尾へ行って、船をここから脱出させろ。蜂はテリトリーから離れれば、襲ってこない。」
あ、なるほど。さすがメインパーティーのリーダー、的確な判断だ。
「か〜〜め〜〜(以下略)」
俺はジェットエンジンと化して、船を危険水域から脱出させた。
途中からは、水の中に手を突っ込んで、水を押し出した。
質量が大きい物の方が、反動が大きいからね。
なんとか安全地帯に到達した俺たちは、体力と魔力の回復と、装備の修理をした。
「おい、ナナシ、なかなかやるじゃないか。この後もさっきの魔法を使えば、あっという間に目的地に着けるな。」
『白馬』のエースアタッカー、アムロさんが声を掛けて来た。
「バカな事を言うな。あんな強力な魔法が連発出来るものか。さっきのはまさに火事場の馬鹿力だろう。
すまなかったな、ナナシ。随分とムリをさせてしまった。」
ブライトさんが謝ってくれた。この人、戦闘中は荒い言葉遣いだけど、知り合いには礼儀正しい感じなんだな。
「アムロもちゃんと礼をしておけよ、今回被害が少なかったのは、ナナシのお陰なんだ。」
「はい、改めてアザーっす。」
アムロ、礼をしてくれる。ホントは嶺らしいけど。
なんか面白くなってきたのは俺だけだろう。
「アムロさん、あなたは今普通の鎧を装備している様ですが、『白馬』のエースアタッカーとして、敵の注目を自分に集める工夫をしたらどうでしょう。
一番強いあなたに敵の攻撃が集中すれば、盾役の人の負担も減りますし、後衛も支援する対象を絞りやすい。
そうですね、今回の報酬で白い鎧を新調してみてはどうでしょうか。」
「そんな事したら、俺が目立ちすぎて俺の命が危ない。」
「アムロさんが耐えられない攻撃を、他のメンバーは耐えられるのですか?他のメンバーの犠牲の上で、パーティーの勝利を喜べるのですか?」
「確かに、俺の守備力はパーティーで2番目だ。今回の報酬で新しい鎧を新調すれば、チーム1になるかもしれない。でも、戦場で白はないだろう。」
「何を言っているんですか。チーム名は『白馬』。エースアタッカーのあなたは『白い悪魔』しかないでしょう。」
「分かった。白い鎧を作れる防具職人を探してみよう。」
きっと、将来地恩軍との戦いで、役に立ちますよ。
まだまだ行くよ!生麦生米!