家を買う(本宅)
別に馬車暮らしでも良かったんだけど、二人ほど贅沢を覚えてしまったので、家を買うことになったようです。
踵を返してフレイヤさんの元へ。
「すみません。住む所を紹介して下さい。」
「ちょっと待って下さい。それは私達の業務権限を、確実に逸脱しています。私がそれをやってしまうと、民間の業者の利益が遺失されます。なので、それはできません。」
「そんなあ、でしたらその民間の業者の名前だけでも教えて下さい。交渉はそちらとします。」
「名前を出すだけでも、贔屓をした事になって、問題になってしまうのですが、、、。でも貴方には恩があります。どこで探せば良いのかだけの、ヒントはあげましょう。小規模の商店では、選択肢が少なくて、良い物件は見つけにくいです。できるだけ大規模の総合商店でまず当たりをつけた方が、良い物件に巡り会えるでしょう。この町の大規模な総合商店なら、どこの屋台で聞いても教えてくれますよ。」
「ありがとうございます。早速行ってきます。」
「すみません、串焼き五本と、総合商社の名前を教えて下さい。」
「なんだその注文は。串焼き五本は二百五十ペリカ。総合商社は何を買いたいんだい?」
「家を買いたいんです。新築している時間が無いんで、今ある都合の良い物件を探しています。」
「うーん、うちの畑とは違うから、専門的なことは答えられんが、一般的にこの町の総合商店と言ったら、マイヨネスかネルフーリだろうな。どちらも商社、と呼ぶほどの規模じゃないけどな。」
うん、どっかで聞いたことのある名前だぞ。ただ、どちらもフェルナンドさんは好印象じゃ無かった。
でもしょうがないんで、場所を聞いてマイヨネス商会に行ってみる。
「すみません、家を探しているんですが…」
「ハイ、いらっしゃいませ、こちらの窓口で受け付け致します。」
えらく愛想の良い、立派な身なりのおじさんが飛んで来た。若い受付の係より、ずいぶん偉い人に見える。どっかの銀行を思い出した。家の取引となると、大口商いになるから、ピンときて優先してくれたんだろうな。こういう商売のセンスは、嫌いじゃ無い。
ただ、受付の若いにーちゃんが最悪だった。物件のカタログを見せるだけ。相場が王都より高いと文句を言っても、「私どもはその価格で承っております。」の一点張りで、値引き交渉も出来やしない。
しょうがない、この街では家は王都より高い、という相場を教えてもらった、と思って、次のネルフーリ商会に行ってみよう。
「すみません、家を」
「いらっしゃいませ!!!本日はなんのご用でございますか?私本日受付をさせて頂きます、アーサーと申します。」
全部言わせてもらえなかった。
結構若めの、シュッとしたお兄さんが出迎えてくれた。それも、受け付けへ案内するのではなく、自分で対応してくれた。話もちゃんと聞いてくれ、提示してくれた物件もさっきより二割は安い。支払方法によっては、さらに値引きも検討してくれるらしい。
「さっき、マイヨネスへ行って来たんですが、ずいぶん対応が違う気がしますね。」
「ああ、そうですか。あちらはこの町一番の大手ですからね。放っておいてもお客さんが来てくれるのです。でもこちらは二番手、新規のお客さんを見かけたら、積極的に取り込まないと。リピートしてくれそうな人なら、初回サービスもアリですよ。うちは、今は二番手ですが、一番を目指す現状二番手ですから。」
気に入った。この人と商談をしよう。でも、何でフェルナンドさんは嫌っていたのかな?
「正直に言って、今の店長は、異常なケチなんです。利益率を下げて、大口を売るより、高い利益率で買ってくれる者だけに売る。そんな商売が好きな人なんです。」
「だったら、あなたの商売の仕方は、店長に認められないんじゃないですか?」
「そこが商売人の醍醐味ですよ。実質値下げしているのを、得しているかのようにプレゼンする。売上が出れば、店も得をする。お客さんも安く買えて得をする。店長も、高く売った気になって気分が良い。これが出来てこその、商売人冥利につきるってヤツです。」
プロや〜〜。プロの商売人がここにおる〜〜。
即日入居可で、5人が住めて、馬車が置ける家を、ちょっと離れているけどその分手頃な値段で即金で購入した。
ネルフーリはダメかもしれないけど、あの受付のアーサーさんはアリだなあ。
風呂がない〜とか文句出そうだな。
その辺は後日考えよう。




