知り合いに頼ろう。
「オズワルもーん!助けてよ。」
俺は昨日出会った冒険者のオズワルドさんに助けを求めた。
なにしろ、この世界の常識が一切分からない。金銭感覚も無い。頼れるのは、昨日メシを奢ってくれた人の良さそうなオズワルドさんだけだ。他の人に聞いても、騙されるかもしれないし、少なくともオズワルドさんは昨日俺を助けてくれた人だ。
つい、勢いで、未来の世界の青いペット型ロボットみたいに話しかけてしまったが。
「何だ?まだ村に入れないのか?もしかしてお前犯罪者か?だったら、昨日奢ったメシは無駄になったな。まあ俺の人を見る目が無かっただけだが。」
「そんなことありません。ここでも、前も何もしてません。(世界1つ消滅させたけど、あれは犯罪のレベルじゃ無いよね?木も何本か消滅させたけど、それが犯罪なら木樵という職業は存在しませんから。)
ここでお金を稼ぐアテが無くなってしまい、どうやって生活したらいいか、教えて欲しいんです。」
「待て待て。俺とお前は初対面だし、お前を助ける理由が無い。昨日メシを奢ったのは、冒険者の仁義だ。
『自分が本当に困った時に助けてもらいたければ、本当に困っている人は助けろ』
俺の師匠の教えに従ったまでだ。幸い昨日の俺はクエストを達成したばかりで、フトコロに余裕があった。
お前が村に入れず困っている村人だと思って、メシを奢ってやっただけだ。」
「ハイ、分かりました。あなたいい人決定。仁義をわきまえ、弱者を助ける。冒険者としてクエストも達成出来る。ぜひお供させてください。」
とりあえずオズワルドについて行けば、メシの心配は無さそうだ。後はおいおい考えればいい。衣食住の最低一つは確保しないと。
「だ〜か〜ら〜、待てって。俺は知らない奴と仲間になる気は無いし、第一仲間も探していない。お前の申し出はお断りだ。」
「それでは私の今日の朝ご飯が無くなってしまいます。ぜひお供させてください。」
「大体、俺はお前の名前も知らないぞ。そんなヤツを仲間に出来るか。」
きっと、オズワルドもご飯が食べられなくて、ひもじい思いをした事があるのだろう。同じ否定でも、ちょっと否定のトーンが弱くなった。
「失礼しました。私の名前は幸田紡と申します。コウダは姓なので、ツムグ、又はツグと呼んでください。」
「姓名があるのか。貴族なのか?でも、爵名はないのか?」
これはアレだ。フォンとかなんかの貴族の位を表わすミドルネームがあるんだろう。この世界では。
「爵名はありません。取り潰されましたので。ただ、お父様の遺志で、姓名だけは残し、いつかは爵名を取り戻せるよう、励んでおります。」
おーおースラスラと嘘が出てくるよ。この辺はラノベによく出てくるテンプレ対応でいいかな。
「名前を聞いた処から、急に口調が変わったな。本来はこの口調に馴染んでいるのか。没落貴族の末裔なのか?
なぜその日の食事代も無くなった?村に入る為の列に並んでいたのだから、入村料ぐらいは持っていただろう?昨日はとりあえずメシを奢ったが、今日の朝メシを食えない程金が無い事はないだろう。」
えっ、入村料っているの?
町とか都市ならあるだろうけど、村にまであるなんて。
「すみません、入村料って必要なのですか?」
「もちろんだ。村の中なら夜中に襲われる心配も無いし、食事も補給も出来る。入村料はその保証金だ。その金で村は警護をする人が雇える。因みに俺は今この村の外周警護をしている。だから昨日、倒れているお前を見つけたんだ。」
オーマイガッ!村に入る事すら出来ないよ。ここは何としても、オズワルドさんの舎弟にしてもらわないと。
「では、あなたのお手伝いをして、入村料を稼ぎます。ぜひお供させてください。」
「だから、仲間はいらないと言っただろう。ギルド指名依頼の外周警護が終わったら、俺たちは固定パーティーで又ダンジョン探索に出るつもりだ。お前を連れて行く余裕はない。」
「では、今の依頼の間だけでも、お手伝いをさせて頂けませんか。食事と寝る所だけで構いません。もし、寝る所が無いなら、毎日このキャンプから通います。ぜひお供させてください。」
「は〜〜、引く気は無いみたいだな。没落貴族の割には、根性がありそうな所は気に入った。メシだけだぞ。面倒はみてやる。朝メシ食ったら俺について来い。雑用係として使ってやる。メシ代以外は、働きによって払ってやろう。」
やった。当たりだ。オズワルドさんはやっぱりいい人(お人好し)だった。チョロっと辛かった話を挟めば、やっぱり同情してくれた。【同情するならカネをくれ】バカ言ってんじゃ無いよ。同情できる気持ちを持てる人は優しい人なんだよ。
俺はその優しさに力で応えよう。