第9話 魔法の練習その2
魔法の練習をしているのはゴコウさんには内緒にしておく。基本俺はおとなしくしているという方針を取っておく。
実際こっちの法律とかどうなってるのかわかんないんだよ。
例えば街中で魔法使ったらダメとかあったら、知らなかったとかじゃすまないかもしれない。
それに俺は仮釈放の身だしな。
ただ、俺についてきたパナシェたちは自重してくれないが。
ちなみに自重してくれないのはシャンディーを除く三人。三人とも畑仕事で張り合ってくる。一応パナシェは水やりするだけでマシだが、ミントに関しては作った薬草に加護を与えたりするから困る。
シャンディーは自分だけ仕事がなくてイラついているのか、俺に風球を当ててくることがある。意図的に前髪をめくろうとするのはやめてくれ。禿げてないけど気になる。
それにしてもゴコウさんも絶対に魔法を使っていることに気づいているよな。俺が使っているのか精霊が使っているのかまで判別できてはいないだろうけど。
建前上、俺は魔法を使ってないということにしておく。まあ、実際ゴコウさんの前で使ってるのは精霊たちなのだから問題ない。
問題ないよな?
まあ、それは置いておこう。
ゴコウさんが牛舎から帰ってくるまでもう少し時間がある。一通り属性魔法を試したわけだがもう一つ試しておくことがある。酒とケーキを出す能力が魔法のうちに入るのかどうか。
酒もケーキもあっさり出すことができるため、集中力が必要な魔法と同質なものなのかわからないのだ。
できれば酒と似ている水魔法でも試してみたいのだが、才能がゼロなので酒だけで試す。
まず手の上に酒を出して、それを操れるか試すのだ。
これで操れるというのであれば、これがただの酒ではなく、やはり魔法でできたものと判断できそうだ。逆に操作できないのであれば、魔法のように見えるほかの何かと言えるんじゃないだろうか。
大きな違いはないが、試してみる意味はある。
そんなことを試そうと手のひらに少量の酒を出す。
俺はその時点で気づいた。
酒に俺の魔力がしっかりと宿っているな。
つまり操るまでもなく魔法だったようだ。これまで気づかなかったよ。
まあ、魔法というものに慣れていないという理由と実際に魔法を見た後には酒やケーキはほとんど出していなかったため、わからなかったんだろう。
「魔法とわかったけど、動かすことができるか試すか」
手の平にごくわずかに溜まった酒に形を変えるように念じる。
おお、石ころを手に乗せて転がすように動く。面白いぞこれ。
フルフルと震えるそれを右へ左へと動かす。さらに手から浮かせてみたりスライムみたいにはねさせても見る。
「なんか魔法使いとして一歩踏み出せたような気がするな」
才能がないとあきらめた魔法使いになるという道を再び目指してみてもいいような気になった。
だがそんな鼻っ柱はすぐにへし折られる。
パナシェが俺のまねをしてスライムを創って遊んでいた。
俺の頭位の大きさのが庭をはねている。
しかも三十体くらいポヨンポヨンととても元気だ。
手元を見る。豆粒大のサイズのスライム君。試しにスライム二号を作ってみる。一体目のスライムは維持できなくなって儚く崩れた。
俺も打ちのめされて膝から崩れ落ちた。
いや、わかっていたことだ。ディーゼルががっつり畑を耕していたじゃないか。パナシェだってそのくらいできて当然じゃないか。
「くそ、いつか超えてやる」
顔を上げるとパナシェだけではなくディーゼルもふざけて土をはねさせている。ミントに至ってはどこからか出したのか木の枝を丸めたようなボールを使っていた。
「お前らすごいな」
悔しさを通り越し、尊敬のまなざしで見てしまう。そんな目で見られるのはうれしいようで、ひらひら照れるような動きで飛んでいる。
だが、一匹不機嫌な奴がいたことに気づいたときには遅かった。
シャンディーによって作られた風球が俺の前後左右から襲ってきた。
うん、だって風球は見えねえんだよ。三十九個あっても見えなきゃ尊敬できないよ。
ちなみに三十九は俺にぶつかった風球の数だった。