第52話 ギルドの酒場
ギルドの受付に近い位置に座って、酒を頼む。
「お酒飲むんですか?」
「あー、悪い」
俺はこれからしばらく暇になるが、アドのほうはそうじゃない。ギルドに戻ってきた冒険者たちと職員のの会話に耳を傾けなくてはならない。俺にはこっちの言葉が分からないのでアドに任せるしかない。面倒なことをアドに任せるのは心苦しい。
もっとも、ギルドの受付前で話される程度の話であれば後で聞きに行けば教えてもらえるだろうから無理に聞き耳を立てる必要もないのだが。
「いいですよ。シロキさんがドワーフのように酒を飲むのは知っていますから、というかここ最近は飲んでいませんでしたよね」
「そういうこともある」
といったものの実際に久々の禁酒であった。
体は酒でできている。
血潮は酒精で、心は麹。
そう誇れるほどに、酒好きである。ただ、毒の件があってから日本酒を出して飲んではいなかった。料理に使っているので厳密に言えば飲んでいたと言えるのかもしれないが、個人的に酒を楽しんでいなかった。
いつどこで毒を混ぜられるかわからない。そんな状況にあって俺の日本酒とケーキは完全に安全なものだった。
しかしそれだけで過ごしていたら、毒を混ぜようとしてくる者がいた時に俺の能力がばれる可能性が高かった。
大きなトラブルを避けるためにもばれないことにこしたことはない。ある程度自衛できるレベルに上がったと思うが、上には上がいる。警戒するに越したことはない。
それゆえに酒を出すことはできる限り自重していた。
すでに精霊たちによって、事前に毒が仕込まれる可能性を大きく減らせていたのも大きい。
それでも毒がいつ混入されるかわからない中過ごすのは相当に負担になる。
その負担を減らすため、宿の自室でケーキだけは出してアドと精霊たちと食べてはいた。
「まあ、何で飲んでいなかったのかは察しがつきますけどね。私のことは気にしなくてもよかったんですよ」
「何のことだか。酔ってたら何かあったときに対応できないから飲んでなかっただけだ」
しらばっくれてみるが、アドは分かっているといった様子だ。
実際その通りで、アドのことを気にして飲んでいなかった。
一蓮托生というわけではないが、一人だけ安全な飲み物をガバガバ飲むのはともに行動する者としてどうかと思ったのだ。
仕事を押し付けて飲むのはいいというのは変な話ではあるのだが。
☆
酒を飲んでいると次第に冒険者達がギルドに帰ってくる。
たいていの冒険者は職員の話を聞いた後、併設された酒場で酒を飲むかそのまま帰るものが多かった。
しかし、中には話を聞いた後顔色を真っ青にして挙動がおかしくなるものがいた。
すでに実を食べていたようだ。そういった冒険者は病院に行くように勧められていた。
毒の実を食べたものは病院へ、そうでないものは関係ないとばかりに、いつも通りに行動する者が多い中、違う動きをするものもいた。
大柄で粗暴に見える冒険者が話を聞いた後、いきなり酒場に向かって何か叫び、ものすごい勢いで外に飛び出していった。それに酒を飲んでいた何人かが追従する。
ギルド職員に話を聞くと、彼はクランの部下をひきつれて森にいる冒険者に注意を促すために走ったらしい。
見た目こそ悪いものの、彼の実績はB+。相当町のために貢献している冒険者で、Dランク冒険者が毒殺されていることを気に病み、町の見回り等積極的に引き受けていたそうだ。
「私たちも、行くべきだったんじゃないでしょうか?」
「いや、任せたほうがいいだろ」
毒だと知っていて、それを知らせに走らないでここにいる自分を不義理な人間だと思ったのだろうが、それは俺たちにできることではない。
「森の詳しい道を知らないし、俺たちはよそ者で信頼がない。毒だと言っても信じてもらえないかもしれない」
それにあの場所には正体不明の魔物もいるのだ。それを知っている俺たちはあそこから奥に進むのは難しい。
「私たちは何もできないんでしょうか……」
自らの無力を噛みしめ、アドは思いため息をついていた。
週2更新出来たら、などと言いつつ8月は週1。9月は月2更新しかできていないという状況。
10月はもう少更新したいところです。
流石に月2だと更新を待ってくれている人に申し訳ないです。




