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第25話 英雄の器

一九日には間に合いませんでした。

 話を終えて、俺とゴコウさんも床に就いた。

 しかし、俺はなかなか眠れずにいた。

 ゴコウさんにお礼を言われたものの、それにどこかもやもやしたものを抱えていた。

 俺に主人公補正でもあったなら、颯爽と現場に現れ盗賊を蹴散らしただろう。

 しかし実際にできたことはすべてが終わった後通りがかっただけだった。

 もし、あの場所を通りがかったのが、俺以外の日本人だったらどうしただろうか?

 よほど性格が捻くれてなければ赤ん坊を連れて町を目指したことだろう。

 日本人に限ったことではない。ほかの馬車が一台あそこを通りがかったら赤ん坊を連れてこの村まで連れてきたことだろう。

 実際には俺があの場所を通りがかり、馬車も通ることがなかった。赤ん坊を救ったのは俺なのだろう。

 だが、ゴコウさんのお孫さんは救えなかった。

『ひ孫を助けてくれてありがとう』

 ゴコウさんのお礼の言葉には感謝の気持ちがこもっていた。しかし同時に悲しみに暮れているようにも見えたのだった。


   ☆


 翌朝、いつも通り起きて、いつも通り畑に向かう。事件の真相を知ったからと言って、何かが変わるわけでもない。結局のところ自分にできることをするしかない。せいぜい、次に何かあったときのために備えることくらいだ。

「ということで畑を耕すぞ」

「何がというわけなんですかねえ!」

 畑をザックザックと耕しながら隣にいるアドに話しかける。アドも鍬をもって隣で耕していた。

「畑仕事はよくある修行内容だぞ」

「何で私こんな人と組むことにしたんでしょう」

「不服か? まあ、アドからしてみたらただの畑好きにしか見えないんだろうな」

「違うんですか?」

「いや、真剣に修行の一環として畑耕してるんだが……。じゃあ、ちょっと、競争でもしてみるか?」

「なんでそうなるんですか……。大体、耕しなれてるシロキさんのほうが断然有利じゃないですか」

「じゃ、ハンデは三倍な。アドの三倍耕したら俺の勝ちで。じゃあスタート」

「っていきなり始めないでください! ちょ! 速! なんでそんな速いんですかぁ!」

 

  ☆


 アドは俺のペースについて来ようと必死になっていたが、途中でぶっ倒れることとなった。最終的に俺の四分の一も達しなかった。

 三倍のハンデを与えたら負けてもおかしくないと思っていたが、無理に俺のペースについて来ようとして勝手に自爆してくれていた。

「で、何が言いたいんですか」

 畑の横で悔しそうにうなだれるアド。

 元よりバカにする気などないのだ。

 なぜ大きな差になったかといえば、技術でもステータス差でもない。

「ただ、魔法を使っただけだからな」

「え? 魔法使ってたんですか?」

 やはり気づいてもいなかったようだ。

「肉体強化の魔法な。覚えると便利だぞ」

 ギルドでステータスを調べてもらったときに疑問に思ったが、どうにも属性系の魔法以外はすべてマイナーなようだった。

 俺からしてみれば属性魔法に使えないものの、その他魔力の応用力はケタ違いだ。ステータス鑑定に念話、さらに肉体強化に使える。おそらく回復魔法もその他に入るだろうし、瞬間移動のたぐいも入るんじゃないだろうか。

 あと、俺の酒とケーキもその他魔力から捻出していそうだ。何しろ酒のベースになりそうな水の魔力がゼロなのだから。

 そんな便利なその他魔力がないがしろにされている理由もわからないわけでもない。

 まず燃費が悪い。ステータス鑑定ですら魔力がごっそりと削られるし、念話もかなりの魔力を込めないと発動すらしない。非常に使い勝手が悪いのだ。

 次に、魔法の使い方の問題。俺の場合魔力を使い分けているため、火の魔力でファイアーボールを放ち、その他魔力で肉体強化を行える。

 だが、こちらの世界の魔法使いは魔力の使い分けをしていないため、自分にあった属性を極めることが一般的で、その他魔力は見向きもされない。

 そして最後。肉体強化は動きながら魔法を発動するため制御が難しい。

 日々、畑仕事で制御を試みている俺でも実戦で使えるレベルではない。

 ということを、アドにも説明する。

「はぁ、シロキさんほんと規格外ですね」

「このくらい普通普通。ゴコウさんのほうがすごいだろ」

 昨日の話で魔王に殺されかけたとか言っていたが、逆に言えば、殺されそうになるという状況に陥っても、なお生きていると考えれば十分すごい。

 レベルの恩恵に驕らず、鍛練を積んできたことがゴコウさんの実力を裏付けているのだろう。

 俺はスキルによって得られる恩恵がなければアドとたいして変わらない。

「そろそろ立てるか?」

「立てますよ。バカにしないでくださいよ」

 立ち上がるが少々ふらついている。畑仕事は腰に来るんだよな。慣れないとなかなかにきつい仕事だ。

 ふらつくアドのペースに合わせながら家路に着く。

 そんな時、いきなりアドが走り出した。

 何事かと視線を向けるとガラの悪い冒険者たちに囲まれている牛串屋の牛娘がいた。また牛娘にちょっかいをかけているようだ。

 そこにアドが割って入る。

 悪い男たちの下卑た表情がこれから何をしようか雄弁に物語っていた。

 リーダー格の男の手がアドたちに伸びていく。

「汚い手で触るなよ」

 男の手首をつかみ止める。

「アド、さっさとゴコウさんのところに連れてけ」

「シロキさんは」

「俺は代わりにこいつらと遊んでる」

 アドは一瞬迷ったようだが、牛娘を助けることを優先して、二人で逃げていった。

 やけにすんなりと二人を逃がしてくれたが、俺を逃がす気はないようだ。

 ぶん殴って憂さを晴らそうと俺を取り囲む。

 どいつもこいつも俺をレベル一だと思ってサンドバックだと思っていやがる。

 リーダー格の男だけが俺のことを警戒している。

 肉体強化の魔法を使って手首をつかんだからな。レベル一とは思えない力だっただろう。だからこそ俺を警戒して二人を逃がした。

 しかし、それで魔力もなくなったから俺はひ弱なレベル一でしかない。

 この後の結果は見えていた。

 あきらめてボコられるとしよう。


 男たちは俺を十数発殴ったらさっさと退散していった。ゴコウさんが来たら敵わないことを知っているのだから引き際は鮮やかだ。

 早々に開放されたため、痛む体を引きずりながら家路に着く。

 途中ゴコウさんが飛んできて、俺に回復魔法をかけてくれた。

 いや、本当にこの人は何でもできるな。

 ゴコウさんの家に着くと、アドと牛娘にお礼を言われるが、俺は何もしていないといっていい。

 最初に彼女の状況に気づいたのはアドだ。そして体を張って守ろうとしたのもアドだ。

 俺はただ状況に乗っかっただけでしかない。


 スキルがあろうと俺は英雄の器ではないのだろう。


次は一週間後くらいに更新すると思います。


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