表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/93

第1話 始まり

 俺は何が悪かったのだろうと自問する。

 そして、自答する。俺の人生すべてであると。いや、すべては言い過ぎか。


 俺こと風谷城樹は、ごくごく普通の二十九歳。独身男性であった。

 彼女いない歴イコール年齢。顔は悪くないと思っている。身長体重もまあ、一般の平均より少々低い程度である。趣味は一応料理。

 今は手によりをかけたケーキを仕上げている。しぼみ気味のスポンジに生クリームをたっぷり塗りたくる。奮発したイチゴ、あまおうをその上に並べる。その上にさらにスポンジを重ねクリームを塗りたくる。さらにイチゴを並べ、チューブに入ったチョコレートで文字を書く。HAPPY BIRTHDAYと。下手な字だった。


 もうじき三十歳になる。というかすでに誕生日であるので三十歳というべきなのだが、生まれたはずの時間まで見苦しくも二十九歳といいはっているだけであった。

 三十歳の誕生日を前にして、今後の人生を考え、先がないと感じたときに浮かべた問いが先ほどのものだった。 

「たぶん無理だよなぁ……」

 今後結婚、どころか彼女ができる未来が見えない。これまで彼女ができたことがないことも理由だが、職場結婚などができる環境もないし、お見合いおばさんのような人も身近にいない。婚活しようにもアニメ、漫画が好きな三十代のおっさんのアピールポイントが浮かばない。

 そもそも男女問わず人付き合いが苦手なのだ。男友達すら数えるほどしかいないし、その男友達すら、あまり連絡を入れていない。

 そんな人間が結婚しようと思うのが間違っている。せめて社交的になれればいいのだが、どうにも人との距離感の取り方がうまくなればいいのだが、これまでの生き方を変えるのは難しい。最も、生きていくだけなら何の問題もないのだ。仕事でのコミュニケーションは十分できている。公私の付き合い方の私のほうが決定的に下手なのだ。

 それでも三十を超えたらおっさんなどという、自身を偏見の目で見たとき、独り身で人生を終える可能性をさみしいと思ってしまったのだ。

 そして二十九歳である最後の時間、やけくそになってケーキなどを作ったのだ。

 

 飾り付けが終わり、やけくそとばかりに日本酒を一升瓶からそのまま飲む。世界から高く評価されている酒だが、俺にとってはいつも飲んでいる呑みなれた酒だ。


 出来上がったケーキを食事用の折り畳み机にもっていく。

 ろうそくを忘れていたので、一升瓶とライターを一緒にテーブルに運ぶ。もうじき間違いなく三十歳になることが確定していることを憂鬱に思いさらに酒を口にする。

 机の前に座り、ろうそくを無理やり二十九本立て、最後の一本にライターで火をつける。それを使いすべてのろうそくに火をつける。

 手に持つろうそくをため息とともに突き刺した。

 時計を見るとまだ少し時間があった。酒を飲みながら、時間が来るのを待つことにする。

 これからどうするかしばし考えるが、やはり、明るい未来は見えなかった。


 時間が来た。


 俺はこれから先も変わることができないのだろう。あえて変わるとするのだとしたら、これで魔法使いになるということくらいか。

 ぼんやりそんなことを考えながら、息を吹きかけた。一度では消えなかった。

 三十になって肺活量も落ちたのか。これから落ちていくばかりだ。

 ああ、俺が変われないなら世界が変わればいいのか。

 もう一度しっかりと息を吹きかけすべてのろうそくを消した。

 そうして俺は魔法使いになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ