「コンビニ・ウォーズ」 前編
少女は車窓からの景色を眺めていた。
その目に映る風景には何の感情もない。
ただの暇つぶしに過ぎない。
少女はポニーテールがよく似合い、身長は女子の平均より少し高い。
胸はそこそこだが、引き締まった身体はすらっとしている。
何人かの男がナンパしようとしたが、完全無視。
逆に睨みつけられ、彼らはスゴスゴと席へ戻っていった。
彼女の名は剣良子。
中学2年生の女子だ。
今、彼女は新幹線で京都から大阪に向かう途中である。
何故、彼女は大阪に向かっているのか。
それには少しばかり事情がある。
実は良子には両親がいない。
父が行方不明になり、後に母も姿を消した。
今もその行方はわかっていない。
いなくなる前、母は良子と一緒に京都の山奥へと来ていた。
そこで母の友人である女性に良子を預け、去っていった。
「すぐ戻ってくるから」という嘘を残して・・・。
それは良子がちょうど3歳になる時のことだ。
今ではもう母の顔も朧げにしか残っていない。
だが、その去りゆく背中はよく覚えている。
それからは母の友人が実質、良子の育ての親となった。
彼女は自らを「染井吉野」と名乗った。
有名な桜の名前だが、勿論、本名ではない。
一度訊いた事もあるが、うまくはぐらかされてしまった。
彼女は実に博識で、世間一般の常識から勉強、料理、裁縫、政治など多岐に渡る。
それらを全て惜しみなく、良子に教えていった。
良子もそれを学び、存分に会得していった。
剣に関しては特に厳しく教えられ、その修行・指導も苛烈だった。
それでも良子は歯を食いしばり、耐え切った。
良子は染井を「師匠」と呼び、尊敬している。
苦労のかいあって体力もつき、剣術も強くなった。
大変な毎日だったが、友人もいて楽しい日々でもあった。
その友人の名は橘礼奈といい、良子とは親友といっても過言ではない。
相思相愛の二人は共に師匠の家で暮らしたが、半年後。
礼奈の事情により、二人は離れ離れになってしまった。
良子は別れを悲しみ、毎日泣いていた。
それから数ヶ月が過ぎ、良子は染井の勧めで家を出ることになった。
染井がかつて住んでいたという一軒家が大阪にある。
そこは今でも染井名義で存在しているが、ほとんど使っていないらしい。
その家を今回、良子に与えるという。
今まで修行を一生懸命頑張ったご褒美だということらしい。
ただ、染井はそれ以上何も言わなかった。
恐らく、礼奈と離れ、悲しみに暮れる良子を思っての行為だろう。
新天地で生活すれば少しは心も軽くなるかもしれない…。
良子は提案を受け入れ、長年住んだ京都を離れ、大阪へと向かった。
3時間程度で新大阪につき、地下鉄に乗り継ぎする。
乗り継ぎから30分、ようやく地上へと出れた。
既に日が暮かかっており、夕焼けが最後の悪あがきのように空を紅に染めている。
場所は多少、郊外ではあるものの、それなりに都会の町のようだ。
ただ繁華街に比べると幾分落ち着いており、大都会という程でもない。
街ではなく、町という方がしっくり来るといえるだろう。
駅前にはコンビニが数件並び、マグナムバーガー、ドラッグストアも立ち並んでいる。
ただ、遊技場はカラオケしかなく、ゲームセンターなどは存在しなかった。
それが残念といえば残念だろうか。
駅からはすぐ商店街になっており、そのまま歩いていく。
商店街には昔ながらの店もあるが、スーパーや携帯ショップもあるようだ。
人の数は多いが、若者はあまりおらず、中高年の男女が目立つ。
若者が少ないのもあるのだろうが、ちょうど今は会社を終えて帰宅する時間だ。
あるいは献立を考えながらスーパー等に向かう主婦も多いのだろう。
街の喧騒はどこか大人しく、少し優しい感じがした。
「まあ、住むにはいい場所かもね。なんかジュースでも買おうかな」
良子は商店街の出口近くにあるコンビニ・ファミリーマートンに立ち寄る。
パックの野菜ジュースを1つ買い、ついでに店員に場所を尋ねてみた。
「あの、すいません。ここに行きたいんですけど…」
「ええとですね、ここからずっとまっすぐ行くとお寺さんがあるんですよ。
そこのお寺さんを左に曲がって奥に入っていった所ですね」
顔は青髭で濃いものの、口調は若いお兄さんが親切に教えてくれた。
多分、実年齢は若い人なのだろう。
どう見ても外見は40代にしか見えないのだが…。
良子は「ありがとうございます」と礼を言い、さっそくお寺に向かって歩き出す。
コンビニから歩いて数分で寺につき、左に曲がって路地に入る。
そのまま道なりに進むと一軒家があった。
二階建てで屋根は青色。
木の表札には「剣」と書かれていた。
表札は新しく、どうも最近変えたようだ。
これも師匠の計らいだろう。
ここに間違いない。
「よし、ここだ。鍵は確か…」
財布から鍵を取り出し、施錠を外してから中に入る。
玄関で靴を脱ぎ、ついでに鍵を閉めておく。
「へぇ…」
1階には居間、キッチン、風呂、トイレがある。
居間は6畳程度で狭いながらも庭もあるようだ。
一人暮らしには十分の広さだろう
キッチンで水道とガスを確認してみるが、どちらもOK。
勿論電気も通っており、特に問題はないようだ。
冷蔵庫を覗いてみる。
幾つかの食材とミルミル牛乳が入っていた。
しかも1Lの物だけが5本も入っている。
「お、ミルミルあるんだ。さっそく飲もう!」
その内の一本を手にし、左手を腰にあて、右手で牛乳を持つ。
ゴクゴクゴクとそのまま一気飲み。
「ぷはー!この為に生きてるんだよなー!」
と、ヒゲがついたまま、満足する良子。
このミルミル牛乳は昔から飲んでいるお気に入りの牛乳だ。
飲み続けて既に10年以上経っている。
値段は少々するが、普通の牛乳に比べて少し高いだけだ。
良子は腹が丈夫なので何本飲んでも問題なし。
「ふふ。流石、師匠。ウチの事わかってるなぁ」
ヒゲをタオルで拭き、家を探索し終えた良子は居間に戻り、テレビをつけた。
夕方のニュースを見つつ、夕飯の支度をしておく。
本当は師匠に電話したかったのだが、何故か繋がらない。
なので明日にまたかけることにした。
夕飯を終え、自分の部屋に向かう。
部屋は二階にあり、襖には布団も仕舞われていた。
「さて、お布団出して寝るとするか…。あ、その前に戸締りもしないと」
家中の戸締まりと電気を消し、再度部屋へと戻る。
布団を敷いて寝る準備をする。
ちなみに既にパジャマに着替え済みだ。
部屋は簡素な物で、8畳程度。
学習机と本棚が置かれている以外は何もない。
あとは先に送っておいたダンボールの箱が幾つか入っている。
「仕分けるのは明日にするか…」
そのまま、良子はゆっくりと寝ることにした。
次の日。
新たな転校先である中学で挨拶を済ませ、退屈な授業を受ける。
放課後はそのまま帰宅することにした。
普通なら友達と帰ったり、遊んだり、部活に励むものだが…。
生憎、良子はどちらにも興味はなかった。
特に友達も作らず、当たり障りのない回答でお茶を濁した。
「今日は街の探検でもしようかな」
1駅離れた場所へと歩きで向かう良子。
そこは大きな公園があり、県内でも有名な所だという。
周りには遊技場のあるビルやコンビニやスーパーが幾つか並んでいる。
「へぇー‥・ここにもコンビニが。ローゾンか」
店内を物色し、週刊誌をなんとなく立ち読み。
お笑い芸人の○○が女子校に侵入し、生徒の制服を盗んでいただの、有名人の離婚騒動。
昔のグラビアアイドルのテレカ紹介、年金問題などが色々書かれていた。
何の気なしにふーんと字を目で追っていく。
店員はやる気があるのか、ないのか、同僚の店員と無駄話をしている。
掛け声も「らっしゃせー」とかなり雑だ。
しかも無駄に声が大きいのでテキトーさ加減がよく伝わってくる。
やれやれと嘆息して、野菜ジュースを買い、そのまま店を出る。
「ん?」
良子は飲みながらあるものを発見した。
それはコンビニの入口のドアに貼られた紙だ。
このコンビニは自動ドアではなく、手動のガラス扉になっている。
扉に張り紙がしてあり、「アルバイト募集」とマーカーで手書きされている。
時給はそこそこだが、朝・昼・夜・深夜と時間帯が選べるようだ。
週2日からでもいいようである。
「ふーん…」
連絡先を手早く携帯にメモし、良子は帰ることにした。
帰り際に家近くのコンビニで履歴書もついでに買っておく。
そのまたついでに店の外にある証明写真機で写真も撮っておく。
700円は高いが、仕方ないな…と思いつつ撮影を済ます。
家に戻り、履歴書をささっと書いて写真を貼った。
「さて、電話は明日にして寝るとしますか。あ、その前に再放送の鬼平犯科帳見ないと」
さっそくテレビで時代劇を視聴する良子。
ここまでは特に問題はなく、順調だった。
ちょっぴり寂しい気もするが、趣味で潤せていた。
ただ、このバイト先が良子にとっては試練の場であることを。
この時の良子は知る由もなかった。
面接を受け、合格を勝ち取った良子。
女性の店長で繁田さんと名乗ったが、いい感じだった。
給料が手渡しという所に少々驚いたが、まあいい。
次の日からさっそく勤務だった。
この日は学校が休みなので朝から働くことになった。
時間は朝8時からなので、7時30分に着くよう調整して店に入る。
ちなみに終わりは15時だ。
まだ自転車を持っていないので、徒歩通勤。
1駅分の距離があるが、この程度は良子にとっては朝飯前だ。
それだけ体力があるのである。
幼稚園時代は染井の家(山奥の頂上)から幼稚園(山を降り切った場所)まで毎日遅刻せずに向かっていたので他の人とは体力が違う。
山を降りきるまで3時間はかかるので、早朝すぐに山を降りたという。
店に入り、夜勤メンバーの男性達と挨拶をしてから、事務所へ。
事務所は店長が椅子に座り、机の上にあるパソコンを睨みつけていた。
恐らく、発注でもしているのだろう。
「店長、おはようございます」
「・・・・・・」
店長は何も返答しなかった。
パソコンの画面とにらめっこしてたかと思うと小さい端末を持って、事務所を出ていく。
良子は少し呆然とした。
ええと…集中してて聞こえなかったんだろうか。
「えと、あなたが剣さん?」
そこへ事務所に新たに人が入ってきた。
良子と同い年くらいの女の子で髪を茶色に染めている。
といっても、派手な明るさはなく、地味な色をしている。
「あ、はい」
「私、入口京子って言います。はじめまして。これからよろしくね」
「あ、はい。剣良子です。よろしくお願いします。あの、入口先輩…」
ちょっと珍しい苗字だなと思いつつも質問する。
「さんでいいよ。で、何?」
「ウチ、店長に挨拶したんですけど、思いっきり無視られたんですが…」
「ああ、いつもの事よ。虫の居所が悪かったんでしょ」
入口さんは何でもない風に言った。
まるで明日の天気のように何でもない言い方だ。
良子は少し信じられなかった。
「え…」
「あ、制服はロッカーにあるから。自分の名札がついた奴を持って、ウォークインで着替えてね。ウォークインってのは飲み物倉庫の事だから」
「は、はい…」
ウォークインはコンビニにあるペットや缶の飲み物が置かれている場所の裏側だ。
裏から人が入り、飲料の補充ができるようになっている。
場所によってはリーチインという呼び方もするらしい。
入口さん曰く、更衣室がないので女子はウォークインで着替えることになっているとの事。
とは言っても、ウォークインは飲み物を冷やすために絶えず冷風がフル活動している。
今は春過ぎだが、中に入ると物凄く寒い…。
冬の冷気のように凍えるような寒さだ。
そのままいると風邪をひきそうなので、素早く着替えて出る。
夜勤メンバーと再度挨拶をしてレジへ。
青いユニフォーム。
右胸に自分の写真が入った名札。
ちなみにこの写真は履歴書にあった写真を流用したものだ。
左胸には研修中という札もつけられている。
良子はバイトする事自体は初めてなので、何だか新鮮だ。
「まず、レジの使い方だけど…私のをよく見ててね」
「はい」
「すいません、お願いします」
と、そこへ40代前後のサラリーマンのおっさんが来た。
カゴにはペットのお茶とお弁当が入っている。
「いらっしゃいませ」
飲み物をスキャンし、つづいてお弁当をスキャンする。
その様子を良子はじっと真剣に見つめる。
「お弁当は温めますか?」
「いや、そのままで」
「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
「無いです」
「では合計で645円になります」
茶色のお弁当用袋にお弁当とお茶を入れる。
「700円お預かりします。55円のお返しと商品です。
ありがとうございました。またお越しくださいませ」
お辞儀をし、退店する客を笑顔で見守る入口さん。
「温めるときはそこにあるレンジで。うちの店は3台あるからね。温める時間は商品に書かれているから、それ通りにチンして。温かい物と冷た物入れるときは別けるのが基本だけど、お客様によっては一緒に入れてもいいって人もいるから、必ず確認してね」
「はい」
そして、またレジへ人が来た。
今度は60代くらいのお爺ちゃんだ。
動きが遅く、レジに来るまで数分かかった。
歩くのも1歩ずつという…苛立ちを隠しきれないほどの遅さだ。
まあ、お年寄りだから仕方ないかもしれないが。
だが、彼はただのお年寄りではない。
汚らしい身なりをしており、服や靴は黒く変色している。
おまけに臭く、入口から店内全体へと異臭が広がる。
鼻が曲がりそうな程臭く…アンモニアのような、大便のような、キツイ臭いだ。
すれ違う客たちが汚物のように目を背け、或いは睨みつけ、去っていく。
良子も入口さんも鼻を抑えつつ、悪臭を堪えた。
どう見てもホームレスである。
「す、すすすいません、わ、わ、わ、わかば、一つ」
「………はい」
若葉とはタバコだ。
入口さんはレジの後ろにあるタバコ什器からわかばを取り出し、スキャンする。
するとホームレスはどこからか袋を出した。
汚れた袋には汚れた10円玉が山のように入っており、それを1枚1枚出していく。
お年寄りなので動作が遅く、後ろの客が2人3人と並び、その誰もが苛立ちを隠せなくなってきていた。
「…剣さん、ちょっと対応お願い。10円が値段分あるか見てお会計してあげて。で、汚れた10円はレジに入れないですみっこに置いといて。で、後で雑巾拭いて」
「は、はい」
入口さんはすぐに隣のレジへ行き、待たせている客を誘導して会計をする。
手馴れた接客ですぐに人数をこなしていく様は流石だなと思った。
良子は汚れた10円玉が値段分あるとわかると、会計を済ませてタバコを渡した。
「おう、どうも、ありがとうよ。ったく、アメリカが上手くやりゃいいんだよ、なのに、日本は誰も頼りねえんだから…民自党もなぁ…」
ホームレスの爺さんはブツブツ言いながらゆっくり店を出て行く。
なんなんだ、あいつは…と心で毒づく良子。
汚れた10円はとりあえずタバコ什器の済に置き、並んでいる別の客の接客をする。
「すんません、マイセン1ミリロングとセブンスター12ミリメンソールとペティル1つ」
「はい!」
良子はすぐにタバコを取り出し、スキャンする自信があった。
以前、礼奈がタバコを吸っていた事があった。
コロコロと変えることが多かったので、それで覚えたのだ。
どれも間違えず、素早く丁寧な対応に客は満足したらしく、会計を済ませると、笑顔で去っていった。ただ、朝ラッシュというものはほとんどなく、それから10人ほど接客した所で客足はパッタリ無くなった。
「…全然人来ませんね」
「ほら、うちの前に業務ダヨスーパーあるでしょ?で、その向かいにあった銀行が潰れてファミリーマートンになったし。ちょっと先にはセボンもあるからね。別にここだけを利用する必要もないの。だからお客さんが分散しちゃうわけ」
「へぇ…」
汚れた10円玉を水で濡らした雑巾で丁寧に拭きつつ、入口さんは答えた。
確かにそれだけ店があればわざわざノーゾンだけ行く必要はないだろう。
でも、それは売上に大きく響くのではないだろうか。
ちょっと店の先行きが心配だった。
良子も手伝い、15分ほどで完了した。
「ああ、ようやく終わった…。次は掃除の仕方を教えるね」
「はい」
入口さんの指導は続く。
掃除はまず、ダスターでホコリ取りから始める。
それを店内全体隅々までして、次にモップだ。
モップ入れのバケツに水道水と店内洗浄用の液体を少し入れ、それをモップに浸して、店内全体の床を掃除する。モップが終わったらバフマシーンという大型の機械で店内の床を掃除。
これで床の光沢を出すのだという。
掃除を終えた頃には既に昼を過ぎていた。
次に揚げ物を教えてもらった。
「揚げ物はFFって言うんだけど、商品によって作り方が違うの。このクリアファイルにレシピがあるから、それを見てやってね。あと、違う奴同士を一緒に入れないようにね。味が混ざっちゃうから」
「はい」
言われた通り、レシピを見てみる。
そこにはどれだけの個数で何分油で調理すればいいか書かれていた。
大きい文字で書かれているので、わかりやすい。
「今から昼ラッシュ用に作るから、これだけ作ってちょうだい」
「はい」
渡されたメモには商品名と個数が書かれていた。
それをフライヤーに入れ、時間をセットする。
油で調理され、時間が1秒ずつ減っていく。
あとは待てばいいだけだ。
フライヤーは二台あるので、二台両方使って仕込んでいく。
まあ、それはいいのだが…。
油の色がかなりどす黒い事に良子は驚きを隠せなかった。
「あの、先輩。これ色がかなりドス黒いんですけど…」
「油交換は週1回店長が変えてるわ。それ以上はしないそうよ」
「そ、そうなんですか…」
絶対美味しくないな…。
こんなのにお金払って食べるなんて…。
良子は心の中でそう思った。
とはいえ、作らないわけにはいかない。
ちなみにその間、店長は一度も事務所から出てこなかった。
時刻はそろそろ14時。
店内放送で「14時です」と時報が流れ、ポーンと時刻ちょうどの合図が鳴る。
これは一時間おきに流れており、作業をしていても一々時計を見る必要がない。
放送では時報の他、今時のよくわからない曲や、芸人のトークなどが流れている。
どちらも興味がない良子にはただの雑音にしか思えなかった。
もっと時代劇とか演歌流せばいいのにな…なんて思ってしまう。
店内に人はちらほらいるが、皆、立ち読み客ばかりだ。
レジに来る雰囲気はなく、のんびりとした時間が続いていた。
そんな時、ある人が来店した。
「こんにちは、入口さん。店長さんいらっしゃいますか?」
「あ、どうもです。ちょっと待ってくださいね」
入口さんはバタバタと駆け出して行った。
スーツをビシッと着こなし、化粧もほどほど。
どこからどう見てもOL風の女性だ。
年齢は20歳過ぎだろうか、まだ若い。
「あなたは新人さん?」
「あ、はい。新しく入った剣良子と言います」
「私、この店のSVで岡崎と言います。よろしくね」
「よろしくお願いします」
お互い、お辞儀をする。
「あの、SVって言うのは?」
「簡単に言うと、ここの店舗運営や指導をする人のことね。私はローゾン本社の人間なの」
「なるほど、そうでしたか。」
「岡崎さん、どうもです。わざわざ来てもらってすみません~。
ささ、事務所へどうぞ」
と上機嫌で事務所から出てきた店長。
あれ、何だ、その笑顔…。
ウチには挨拶もしなかったくせに…。
二人はそのまま事務所へと入っていった。
「あの、店長、いきなり態度変わってません?」
「いつもの事よ。SVは本社の人間だし、実質、店長より立場が偉いのよ。だから岡崎さんには逆らえないの。だからペコペコしてるって訳」
「へぇ…」
「まあ、お店によってはSVにも文句を言える店長さんがいるみたいだけど、それはごく少数。他のコンビニとかになると流石にわかんないけど…うちはいつもああいう感じなの。で、次の作業だけれど…」
入口さんは苦笑したものの、すぐに仕事の話へ切り替えた。
…力関係がよくわかる一日だった。
その後も普通に仕事をし、そのまま上がることになった。
そして2日目。
今日は学校を終えてから17時~20時までの短時間勤務だった。
この日も同じ時間で入口さんと勤務であった。
「おはようございます」
「おはよう、剣さん。あ、ノート読んで確認してね」
「あ、はい」
事務所にはノートがあり、そこには店長から手書きで色々書かれていた。
接客態度云々、夜勤へのダメ出しなどなど…。
良子については特に何も書かれていなかった。
今のところは問題がないのだろう。
着替えをウォークインで済ませ、さっそくレジへ。
レジをこなし、掃除をしつつしていると…。
車椅子の人がお爺さんがやってきた。
入口さんは気を利かせ、扉を開ける。
ここは自動ドアではないので、車椅子の人が開けるのは困難だ。
「どうも、こんばんは。今日はどうしますか?あ、失礼しますね」
と言って、入口さんは車椅子の後ろから何かを取り出す。
それはあいうえお表だった。
良子は目を疑ったが、間違いない。
文字通り、ひらがなが全て書かれたボードだ。
小さい時にはお世話になったが、それ以降、見るのは初めてである。
市販の物ではなく、手書きだ。
どうやら手作りらしい。
おじいさんは声が不自由らしく、何かを言いたそうにしているが、うまく話せそうにない。
また手足も震えており、手足も不自由なことが見てわかる。
かろうじて動く震えた足の指であいうえお表の文字の上に置いていく。
入口さんはそれを翻訳し、指定された物を用意した。
「良子ちゃん、しばらく、レジやって。私はお爺さんやるから」
「はい、了解です」
良子ちゃんと下で呼ばれたが、別に入口さんならいいだろう。
接客をしつつ、入口さんの様子を横目で見守る。
お爺さんが購入したい物を手際よく用意し、腰にある巾着から財布を取り出し、お金を取り出して、お釣りとレシートを巾着に戻す。
お爺さんはお辞儀だけして帰っていく。
入口さんは扉を開けて、お爺さんを通し、去っていく背中にお辞儀した。
「すごいお客さんですね…」
「たまに来るんだけどね。言葉が話せないから。あの人が来るとドッと疲れるのよね…」
ハハハと苦笑する入口さん。
その表情は少し疲れているように見えた。
どこか空元気という感じだ。
まあ、仕方ないだろう。
奥さんなり、介護の人がいればいいのだが…。
いないという事は独り身なのだろう。
その時、衝突音が聞こえた。
何かが激しくぶつかったような音だ。
客は店内にはおらず、良子はすぐに駆け出した。
すると、すぐ傍の信号でライダーがバイクごと横転していた。
動く気配はなく、死にかけたゴキブリのようにピクピクしている。
「入口さん、事故です。ちょっと警察に電話しますね」
「え、あ、うん」
電話の子機で警察に電話する。
「はい、110番です」
「すみません、ノーゾン永沢5丁目前店ですが、店の前の横断歩道でドライバーさんがバイクごと横転してて…至急、救急車をお願いします」
良子が電話をしている間、周りは野次馬が群がり、騒がしくなっていた。
その何人かに話を聞くと少し事情が見えてきた。
横断歩道を歩いているお婆ちゃんがいた。
だが、既に信号は赤になっていたそうだ。
当然、車道側の信号は青である。
バイクのライダーは走行中にお婆ちゃんに気づき、慌てて避けようとしたが…。
その結果、スリップして横転してしまったそうだ。
お婆ちゃんはボケているのか、それとも気づいていないのか?
何事もなかったかのように、去っていったという…。
3分というのは少々長く感じたが、救急車がやってきた。
隊員の人がドライバーをさっそく担架に乗せ、大急ぎで去っていった。
「ホームレスといい、お爺さんといい…変な町ね」
良子は救急車を見送つつ、店に戻った。
怪我をしたライダーには気の毒だが、こちらにはどうすることもできない。
せめて無事であることを心に祈りつつ、店内に戻る。
その後は何事もなく、ごく普通に終わった。
一週間後。
この頃になると流石に慣れていた良子。
だが、またしても事件が起きてしまう。
それはお昼すぎの頃だった。
ラッシュも終わってやれやれという頃だったが…。
「警察出せや、コラァ!」
と外で怒声が聞こえてきた。
何だ何だと思いつつ、接客をこなす良子。
入口さんも掃除をしつつ、外を気にしていた。
そこへ二人の男性が店に駆け込んできた。
荒く息を吐いており、思いっきり走ってきたことが伺える。
「あの、外で誰かケンカしてるみたいなんですけど…。店員さん、電話しないんですか?」
「はあ…」
いや、お前らが電話すればいいだろ。
と思ったが、良子は取り敢えず子機を片手に外へ。
店の裏側はラブホテルへと通じる道だが、その途中で男同士がケンカしている。
男が馬乗りになって、もう一人の男を抑えているようだ。
それはまるでプロレスで言うフォールだ。
ただ、ここは道であってリングではない。
すぐさま110番して警察の到着を待つ。
良子が止めても別に構わないのだが…。
二人を止めるのは警察の仕事であり、自分の仕事ではない。
厄介事に手を出してもお金が貰えるわけでもない、かえって面倒だ。
そのまま店に戻って普段通り仕事をした。
すると、数分後にまず自転車のおまわりさんが二人やってきた。
5分もしない内にパトカーが5、6台やってきて、周りは赤一色に染められる。
周りの野次馬が何事かと興味を示し、辺は騒然とした雰囲気になる。
それはさながら警察密着24時を彷彿とさせた。
「なんか凄い事になったね…」
「ええ…」
入口さんの言葉に頷く良子。
警官は大勢の男たちをパトカーに乗せていく…。
この日の事件はニュースにもなった。
家に帰り、テレビを見ていると店外の様子がテレビに映っていた。
ニュースによると、その原因はケンカだという。
逮捕者8名も出すほどの大規模な物だったようだ。
だが、それだけならまだよかったが…。
事件はそれで終わらなかった。
良子がバイトを始め、1ヶ月が経とうとしていた時だった。
午前12時頃のことである。
公園から大勢の人間が悠然と歩いていた。
赤信号を気にせず渡り、文句を言う車には睨みを利かせ、黙らせる。
その数は実に300を超え、周辺住民は何事かと恐怖した。
そいつらは誰も彼もが髪を脱色し、こじゃれたブランドスーツ着込み、手には金属バットや鉄パイプ、拳銃、ナイフ、青龍刀と凶器を持ち、周囲に狂気を放っていた。
どいつもこいつもまともな顔をしていない。
いわゆるヤクザだ。
特に先頭を歩くリーダーとおぼしき者は身長190を超え、歯は金歯。
鉄パイプ二刀流にシルバーのスーツというイカレた格好をしていた。
「この女に間違いないな?」
「へい、間違いないです」
リーダー角と思しき男の尋ねに部下が答える。
写真には買い物姿の良子が写っていた。
ニヤリと頷く。
そいつらはゆっくりと歩いていき、周辺住民を威嚇させながら、良子のいるコンビニへまっすぐ向かった。
「‥大阪全域に強風注意報が発令されています。各地の天気は晴れとなり…」
良子達は仕事をしつつも、昼の陽気を味わっていた。
平和だなーと思いつつも運ばれてきた商品の検品をする。
検品とは小さい端末で商品のバーコードをスキャンし、商品が数通り納品されているか確認する作業のことである。
たまに実際の数より少なかったかり、他店のコンビニの商品が混じることもあるので、検品は確実に行い、また素早くこなさなければいけないのだ。
納品は時間によっても異なるが、大量に物が運ばれてくるので、それを検品&品出ししなければならないのだ。しかもその時間帯に限ってお客さんが増えるラッシュ時なので、忙しさは倍増される。
お客さんからすれば、コンビニ店員が何をしているかなど知る由もない。
元店員でもない限り、こっちの事情を考える人は少ない。
お客さんたちは自分の欲しいものを選び、レジへとやってくる。
しかも次から次へと並び、中には冬眠でもするかの如く、大量に買い込む人もいる。
だからといって「空気読めや、客!」と言えないのが店員の宿命だ。
どの店でもそうだが「お客様は神様」であり、彼ら・彼女らの落すお金でこちらは生活をしている。
別にバイトだからテキトーに雑でもいいかと思うかもしれない。
コンビニ店員は特に楽なバイト、雑なやり方をしてもいいと世間では認知されてしまっているので、余計そう思うが実際はそういう訳にもいかない。
雑にしていると怒られるし、店員がそういう人しかいない店は必然的に潰れる。
急いで検品しつつ、商品を並べつつ、込んだらレジも対応しなければならないのだ。
それでも良子は忙しさに少し嬉しさも感じていた。
忙しい時は余計な事を考えなくていいからだ。
家に帰ると、どうしても気分が落ちてしまうので、ある意味気楽でもあった。
だが、それは数秒で破壊された。
店内にガラスが割れる音が響く。
扉が蹴り壊され、あまりに強い蹴りに扉は耐え切れずに外れ、その衝撃でガラスが破損し、床に飛び散った。
お客さんの誰かが悲鳴をあげ、レジをしていた入口さんも何事かと目を見張る。
外にはガラの悪そうなヤクザたちが数百人規模で店を取り囲んでおり、よく見ると近場の店や道路を挟んだ向かい側にも頭悪そうな連中がおり、その数はざっと300人以上はいるかと思われる。全員、臨戦態勢で手にはバッドや鉄パイプ、青龍刀が握られている。
いつからここは世紀末の世界と化したのだと良子は心で突っ込みを入れた。
その中でもリーダー格らしき連中が店に入ってきた。
傍らには護衛らしきヤクザたちも数人いる。
皆、金のロレックス、派手な髑髏のネックレス、おまけに金歯と羽振りがいいようだ。
それを自慢げに見せつける態度が気に食わない。
「よう、剣良子…。久しぶりやのう」
「アンタ、確か、地蔵組の…」
「せや、地蔵組の若頭補佐・坂東や。だが、それは元や。お前が潰してくれたおかげでな」
ヘヘヘとゲスイ笑みを浮かべる坂東。
強烈な身長と鉄パイプ二刀流はレジ前の客をビビらせるのに十分だった。
ここは通り抜けができる店ではないので、出口は一箇所しかない。
客たちは買い物より、恐怖に恐れおののいた。
「おい、お前ら!この店ぶっ潰せぇ!!」
坂東の掛け声と共に野郎共がうおおおと野太い声を上げた。
カウンターに侵入してレジを叩き壊し、金を奪い、タバコを根こそぎ奪い、パンを食い散らかし、ジュースや酒を飲み捨て、ガラスを叩き割り、什器や本棚、棚を足蹴りして壊しいくヤクザ共。その内、何人かの男共が入口さんに目をつけた。
入口さんはゼコムボタンを押したが、それで目をつけられたようだ。
「へへへ、いい姉ちゃんだな、オイ。俺とヤろうぜ」
「あ…え…」
「ふざけんな、コラ!」
ヤクザの頭部に良子は蹴りを入れ、地面と強制キスさせる。
あまりの衝撃に男は気を失い、鼻血を出していた。
ついでに鼻も折れ、金歯も欠けていた。
「お前の狙いはウチでしょ!無関係な人を巻き込まないで!」
「フフフフ…そういう訳にはいかん。これも命令やからな。ま、最近の連中はそんなんせずに金だけ組に出したらエエ、ケンカなんかせんでも金さえ出せばすぐに組の中心、いや、トップになるっつー、ワケわからん話になっとる。ワシラはのぅ、ヤクザや。ヤクザはいつでも暴れられるよう、心に虎飼っとるんや。暴れるんがワシラの仕事じゃ!暴れられんで何がヤクザや!!」
「…そこまでウチとやり合いたいっていうの?」
「うっふふふ…。お前だけじゃ、剣良子。ワシが究極で惚れたんわ。
あの伝説の桜「染井吉野」の弟子…。極道構想で活躍した影の女子高生…。
剣良子、お前だけがあの時、ワシを倒したんや。拘置所いる時もお前に会いたくて仕方なかったわ。どれだけ眠れん日を過ごしたか、どれだけ今日という日を夢見たか!
それにな、お前を倒せば懸賞金は貰えるし、今おる組へのアピールにもなる。俺の株も上がるし、一石三鳥なんよ…クククク」
「・・・・」
女子高生となっているが、良子は正確には女子中学生だ。
勝手に女子高生と解釈され、噂になってしまったのだろう。
2年ほど前に極道抗争という戦争があった。
その戦争に良子も関係していたのだ。
良子は染井に頼まれ、裏を統括する組を一つにまとめるため、ある組に協力していた。そして、敵対する組を全て潰すべく、奔走してた。
物理的に組を潰す以外にも、誘拐、傘下の企業や系列店の破壊など様々な事を成し遂げ、戦い続けた。
そして、ついに裏の組織は一つにまとめることができたのだ。
坂東はその潰した組の生き残りという訳だ。
良子の事は隠蔽工作され、染井自身も政治家や警察のコネで事態を最小限に抑えた。
だが、それでもこういう奴は出てくる。
それに何も今回が初めてではないのだ。
良子に復讐する事を我が宿願いとし、虎視眈々と機会を伺っている。
そんな奴はごまんといる。
「・・出口さん、しばらく事務所に。お客さんも避難させて下さい」
「え、ええ。でも、良子ちゃんは?」
入口さんは流石に動揺しているが、それでも持ち前の責任感で頷く。
良子はそんな彼女の返答に笑顔で答えた。
「…なんとかします。それより早く!」
「う、うん…気をつけて」
出口さんは事務所へお客さんを誘導し、篭った。
良子は刀を取り出し、抜刀した。
さあ、ここからが問題だ。
奴らの狙いが良子だけならこの店から離れて戦えばいい。
だが、その間に出口さんたちが捕まる可能性がある。
事務所は鍵のない押し扉なので潜入は容易にできてしまう。
人質にされてしまうと手を出すことができない…。
かといって店内で戦うのは狭いし、守りながら戦うのは難しい。
相手の人数が少なければすぐにブチのめせるが、敵は300。
それだけの人数をどう捌けるか…。
いや、捌くことはできても、入口さん達を守りながら戦えるのか?
良子は必死に思考しながら、睨みを効かせてヤクザを黙らせていた。
ジリジリと死線が両者を駆け巡り、店内は騒然とした雰囲気に包まれる。
「フン…随分、派手にやってるのぉ、剣」
そこへ第三者の声がその雰囲気をぶち壊した。
入口には初老とおぼしきトレンチコートのオッサンが現れていた。
「ジジイ、引っ込んでろ!」
若造のヤクザが鉄パイプ片手に襲いかかる。
オッサンはそれをひょいとかわし、ガラ空きの背中に肘を打ち込んだ。
若造は吹っ飛び、店内の壁に背中を強打して崩れ落ちた。
泡を吹いており、白目になっているが死んではいないだろう。
「ゲッ…石頭のオッサン…。なんでここに」
良子はそのオッサンに覚えがあった。
確か、京都府警の捜査一課の刑事・石頭幸二郎だ。
なんで大阪に来ているのだろうか?
左遷?
が、思い出すのも束の間。
オッサンは目配りをし、合図した。
すると、盾を持った機動隊員達が一斉に店を取り囲み、何人かが突撃した。
「大阪府警や!大人しくしろぉ!!!」
それはまさに電光石火だった。
ヤクザ達は警察が「なんぼのもんじゃあ!」と反撃してくるが、機動隊員たちは「やかましいわ、コラァ!」と電撃棒で連中を次々と気絶させていく。
…正直、どっちがヤクザかわからない。
電撃棒は怪我こそ与えないが、相手を気絶させることができる。
機動隊員たちはあっという間にヤクザたちを蹴散らしていった。
銃で発砲してくる者もいたが、頑丈な盾にはビクともしない。
その前に、ヤクザ達は銃に慣れていない。
おまけに命中率も低い。
勢いと頑丈な盾・電撃棒の前に為すすべもなく倒れていく。
また、撃たれる前に撃つ隊員もいた。
どうやら弾を使わないショックガンらしい。
アメリカでも近年実用化され、相手の身体に直接痺れを与えるものだ。
その驚異的な威力は軍人ですら立っていられないほどだという。
「くっそ!」
坂東は形勢を不利と見たのか、すぐに逃走した。
隊員たちが捕まえようとしたが、ケンカ慣れしている坂東はそれを上手くかわし、走って逃げていく。
「待て!」
良子も慌てて追いかけるが、坂東は赤信号で止まっているライダーのバイクを無理やり奪い、そのまま信号無視で逃走した。
「逃がすかぁ!」
良子は入口さんの自転車のロックを壊し、それで追撃開始。
車道に出て全力で追いかける。
だが、バイクの時速と自転車の時速では雲泥の差だ。
いくら良子がタフで体力があるといっても流石に追いつけない。
坂東はスピードを上げ、どんどん距離を離していく。
おまけに信号無視を当たり前のように行うので交通は大混乱。
あちこちからクラクションが五月蝿いくらい聞こえた。
良子は上空を見上げる。
太陽が暖かく、地面を熱している。
時間は昼を廻っている。
おまけに大阪は強風注意報が出ている。
確かに風が強いのを肌で感じる。
これで条件は整った。
「これでも喰らえぇぇぇぇぇ!奥義・桜葉旋風!!」
良子は自転車を停止させ、剣を天に掲げると、それを思いっきり振った。
太陽光などによって地表の温度が上がり、同時に地表付近の大気が熱せられることで混合層内にセル状の対流または、乱流状の対流が発生する。そこに大規模な回転が加わると塵旋風となるのだ。
塵旋風は周りの車を吹き飛ばしつつ、坂東をも巻き込んで吹き飛ばした。
「うぐああああああああああああああ!!!」
坂東は天高く吹き上がり、5メートルは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた…。
その後。
ヤクザたちは全員逮捕され、警察署へ連行された。
店は営業続行ができなくなり、自主休業を余儀なくされ、警察の現場検証が行われた。
入口さんと休みで寝ていた店長がたたき起こされ、防犯カメラの確認の立ち会い、遅れてきたセゴム達が事情を聞きに来るなど慌ただしい事態になった。
「剣、お前にも話を聞きたい。署まで同行してくれるか?」
「石頭のオッサン、あんた京都でしょ。なんでここに…」
「大阪に異動になってな。まあ、とにかく乗れや」
「カツ丼出してよ。ウチ、お腹すいてるんだから」
「それはできん相談や。取り調べが終わったらどっかで食べたらええ」
「ちぇ……」
良子は渋々、パトカーに乗り込み、その後3時間に渡って取り調べを受けるのであった…。
後編へ続きます!